2-5
「…妻は、娘を生むと同時に亡くなりました。…元々身体が弱かったので2人とも覚悟していたことではありました。俺1人でも育てられるようにと用意をする出産準備期間は辛いものがありましたが…実際に無事に生まれてきてくれた娘を、みゆうを見ていると幸せな気持ちになって…」
ぽつりぽつり、とお父さんが話し出しました。
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みゆうは、病院で心配されていたのが嘘かってくらい健康優良児でした。
よく食べよく眠りよく泣き…大変だったけど、嬉しかったんです。
この子は俺がちゃんと守るんだ、って何の不自由もなく育ててあげるんだ、って。妻との約束でもありましたから。
でも、俺も初めてだし全部うまくはいかなくって…
仕事とも両立しなきゃいけないから、ついイライラして怒鳴ったり手をあげそうになったりすることもあったし。情けないですけど。
お袋の力を借りてやっと、って感じでした。お袋も初孫を喜んでたしめちゃくちゃ可愛がってくれてましたけどね。
急に熱だしたり吐いたりして、夜中に病院連れて行って…保育園から呼び出しかかったりして…大変だけどみゆうがいることが楽しいなってやっぱり思えて。
そんなこんなで、やっとのこと迎えた4歳の誕生日にクマのぬいぐるみをプレゼントしたんです。可愛いもの大好きだから、って思ってピンクのクマにしたんですけど、好きな色じゃないって不評で。
思わず笑っちゃいましたけどね。こんな小さくてもちゃあんと好き嫌いがあるんだなあ、って。成長してるんだなあって。
…え?ああ、そうです。緑が、好きなんですよ…あの子。
…。……はあ
……すいません。
…それで、不満言ってたのに、次の日にはそのクマに名前つけてどこに行くにも連れていくようになってたんです。
みゆうに付き合ってクマ用のご飯の席とか毎日用意してたら俺もぬいぐるみに愛着湧いちゃって。夜1人になった時の話し相手は大体アイツでした。
暫くして気付いたんですけど、妻が、好きだったんですよね、ピンク。無意識に妻を、まあ代わりでしかないですけど、家に置いときたかったのかな、って。
4歳過ぎてからは大きな病気もケガもしなくって、無事に5歳になって…お誕生日会やって、塗り絵セットを買ってやって。
帰ってきたら一緒に塗り絵やろうな、って言って保育園に送って行って…
………それきりでした。
保育園で連れて行ってもらってた公園に、トラックが突っ込んできたんです。
…美優が遊んでた砂場めがけて。
即死だったそうです。小さい傷は、多かったけど、綺麗なもんでした。
…一緒に、燃やそうと思ったんです。
ピンクのクマを…ルルちゃんを、寂しくないようにって。
っでも、いざとなったら入れれなくって。家に、持って帰ってきてしまいました。
残ってる何かが消えちゃいそうで1ヶ月経っても2ヶ月経っても洗濯できなくて。どんどん汚くなってきてそろそろ洗わなきゃなって思ってたところで、ある日突然消えたんです。
どこさがしても見つからなくて、誰に聞いても知らなくて。
もう完全に妻も、娘も、失われてしまったような気がして…毎日毎日泣いて泣いて……大の大人がって話ですけど。
…はい。間違いありません。
そのすすけてしまったクマがルルちゃんです。
俺が別れたときより大分汚れてるけど
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