タテモノ
七々瀬霖雨
第1話 東高校ボランティア部
夕暮れに、低い泣き声のような音が遠く聞こえてくる。
もう聞き慣れてしまったその音をバックに、僕はある部室の扉を開いた。
「失礼します、入部させてください!」
中にいた二人が一斉にこちらを振り向いた。
机と椅子が二つある以外はからんとして、殺風景な教室。メガネを掛けた大柄な男子と、黒髪を高い位置で二つにくくった女子が目を丸くしている。
「あの……ここ、ボランティア部ですよね?」
……こういうノリで入るところじゃなかったのか。入学早々失敗した?
「誰」
と言ったのはメガネ男子だ。
「わ、えっと、
「西野くん、ここ、何部かわかってる?」
女子にはそんなことを言われた。
「わかってますよ。ボラ……」
「それは表の顔」
「――タテモノ研究部、ですよね?」
二人は顔を見合わせた。僕はトドメにと入部届を鞄から取り出す。
「受け取ってもらえますか?」
メガネ男子が思いっきり顔をしかめる。
「本気か。そもそもタテモノが危険なものだってわかってないだろう。興味本位で来たなら帰れ」
「――まあまあまあいいじゃない
とりなすように言ったのは二つくくりの女子だ。そのまま僕の入部届を受け取ってくれる。
「樹くん、よろしく。私は
「実月先輩。よろしくおねがいします!」
「おい、俺は許可してな――」
「この無愛想な奴は三年の
「わかりました。よろしくおねがいします阿辺先輩!」
「お前なあ……」
阿辺先輩に睨まれたものの、とりあえず入部できればそれでいいのだ。
表の顔はボランティア部。でも、裏では恐らく世界で最も熱心にタテモノを研究しているタテモノ研究部。僕はここに、入学前からずっと入りたかったのだ。
阿辺先輩が何か言おうとしたその瞬間、バンッと教室の扉が開いた。
ぎょっとして見るとそこには、肩くらいの長さで髪を切り揃えた、少し幼めな印象の女子が立っていた。
「あのっ!ここ、タテモノ研究部……ですよね?」
「そうだよ。どうしたの?入部希望?それとも――」
「た、助けてください!タテモノ研究部さん!」
女子はそう叫ぶと、へなへなと崩れ落ちた。
その様子を見た実月先輩がさっと立ち上がり、阿辺先輩も手早く通学鞄に荷物を詰め始める。緊迫した様子に一人ついていけない僕はおろおろしていたけれど、阿辺先輩に冷たく見据えられて硬直した。
「西野」
「はいっ」
「ついてこい」
「……え?」
思いがけない言葉に間の抜けた声が出る。
「入部試験だ」
「試験……?」
普通、入部に試験なんているのか?実を言うとこれまで部活に入ったことがなくて、これが当然なのかはよくわからない。
「今回のタテモノの依頼を、解決すること。解決できれば入部を認めてやる」
「え……?」
「ちょっと阿辺、いくら何でも入部初日に……」
「うちの部でこれくらいできなくてどうする」
うっと実月先輩の声が詰まる。なるほど、と思った。依頼を解決することがこの部の活動内容なのだ。ならば、答えは一つしかない。
「――わかりました。受けて立ちます!」
阿辺先輩の冷たい目。実月先輩が「ええ⁉」と叫び、飛び込んで生きた女子が目を丸くしてこちらを見つめる。
僕の入部初日は、こうして始まったのだった。
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