第114話 サーラ様の過去『マルスの無念』
☆マルスの無念☆
サーラ様にはマルス君という護衛役にいつも一緒にいる見習い騎士がいた。とても実直な騎士だったそうだ。ただ、このマルス君はちょっとぽっちゃり系のお坊ちゃまで失敗ばかりしていた子だ。
サーラ様の後ろを歩いている時、わざとじゃなくドジでドレスの
でも嘘はつかない。苦言も
だからサーラ様はマルス君を信頼していた。なにか自分が間違ったことをしてもマルス君が止めてくれると信じていた。
そんなある日、サーラ様とシャルリエーテ様とマルス君が冒険だ! といって出かけた先は山の頂上の草原だった。魔物もいない平和なところだった。
サーラ様は「魔物を倒しに冒険に行こう!」と最初は言っていた。けれどシャルリエーテ様がコーダ君を亡くしてしまったのを知っていたマルス君は、
「魔物のいる所ではなく魔物の出ない
と心配し、サーラ様はその忠言を聞き入れた。
◇
「ひ~ひ~きつい~」
と泣き言を言ってマルス君は山に登った。自分の発言だったとはいえ、武器と鎧を装備したままのマルス君にとっては、普段からは考えられないくらい山登りは大変だったようだ。
そんなマルス君をみてサーラ様もシャルリエーテ様も「だらしない」「それでも騎士ですの?」と
見習い騎士、王女様、侯爵令嬢様ともに子供だったこともあり、周囲は苦笑して冒険という名のささやかな探索は見て見ぬフリをしたらしい。そんな友情は王宮の中では噂になりながらも本人たちには知らされず、みんな静かに見守ってくれていたのだ。
山の頂上にやっとのことでたどり着き食事の準備をテキパキ整えるマルス君は、やはり見習い騎士ではなく小間使いと言っていい。執事の方がむいてるのではないか? なんて噂もあったくらいだという。
そしてその頂上から見える大自然は3人を魅了した。どこまでも透き通るような青い空。流れる雲。そして照りつける太陽。360度見渡しても
そこで食べたお弁当は本当においしかった。からからの
◇
そんなある日、いつもなら来ているはずの時間になってもマルス君が来なかった。心配になったサーラ様とシャルリエーテ様はマルス君を呼びに行った。
マルス君の部屋の扉を開けると、誰かにマルス君が
そして「マルス?」とサーラ様は呼びかける。「うぅ」とマルス君は声を出す。その声を聞いて安心したサーラ様はマルス君の肩を揺らす。
そしてベタッとした感触を感じて、手を見るとそこには真っ赤な血がついていた。
「ちょっと! マルス! 大丈夫なの? 血がでてる!」
そしてマルス君の体を二人がかりで動かすと、そこにはナイフに刺され血を流し絶命している第二王子コルスタム様がいた。
悲鳴を上げる二人。騒ぎを聞きつけた兵士が慌ててやってくる。
第二王子コルスタム様が殺された。王宮内にその事実が知れ渡る。第三王女サーラ様の見習い騎士がコルスタム様を殺害した。これは第二王子を殺し第一王子も亡き者にするための陰謀の序章だ、と根も葉もない噂は広がった。
それでもサーラ様は信じていた。マルス君は絶対にそんなことをする見習い騎士ではないと。今回は誰かの罠に
サーラ様とシャルリエーテ様はマルス君に会いに行けるように頼んだ。しかし大人たちは絶対にマルス君に2人を会わせなかった。
だからこそサーラ様とシャルリエーテ様は気付いてしまった。2人をどうしてもマルス君に会わせたくない敵がいるんだと。今までの仲の良さを見ているからこそ、何をしでかすか分からない人間をマルス君に会わせたくないのだと。
そんなサーラ様とシャルリエーテ様が、マルス君に会えたのはマルス君の処刑日の当日だった。
「マルス! 私はマルスを信じているから! 絶対にお兄様をマルスが殺したなんて思ってないから! 私が絶対に犯人を見つけるから!」
「わたくしも信じていますわ! 今までのあなたのみんなへの優しさ、分かっておりましてよ!」
とサーラ様とシャルリエーテ様は叫ぶ。マルス君はそんなサーラ様とシャルリエーテ様を見て「僕のためにありがとう」微笑んだ。そしてマルス君は最期にこう言った。
「僕は絶対に殺していない」
……そして嘘をつかない見習い騎士の少年は断頭台の
これが『マルスの無念』。ナルメシアさんがサーラ様を生かすために苦渋の思いで告げた見習い騎士との約束。そしてサーラ様が黒い悪魔、火のノルレンゴースと戦うのを
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