第90話 獣人の国イーストノルベルン
交易都市ミッシュザルダントを出発し旅を続ける僕たちは、その途中の村々から「困ったことがあるんです」と魔物退治の相談を受ければ
「世直しの旅です。お任せください」
と引き受けて実戦をこなしていった。
何度も繰り返すうちに前と同じように僕たちは、ちっこい男1人と女性4人の旅人は魔物を倒してくれるありがたいお方たちだと噂は広がっていったようだ。
ちっこい男という二つ名には異議を申し立てたいがどこに訴えていいのか分からない。世の中とは、どうしてかくも不条理なものなのか。
とはいえ、噂はあんまり気にせず罠を仕掛け、罠にかかった魔物は倒す。そしてその魔物を村に持って帰り飲めや歌えのどんちゃん騒ぎは相変わらずだ。
そんな旅を続けるうちに僕たちは今回の王国騎士団のお仕事の目的地である獣人の国、イーストノルベルンに着いたのだった。
右を向いたら犬耳、左を向いたら猫耳、真ん中辺にはウサ耳まで! どこをどう見ても尻尾である! ビバッ! モフモフ~! とテンションマックスであちこち見ている。
「獣人族の耳と尻尾は人類の夢です。存在するだけで神秘! そうは思いませんか!?」
「迷子にならないようにね」
「にやにやしすぎですわ」
「私はそこまで思わないけどな」
と言われたけど僕だけはテンションマックスのまま適当に話をしつつも本日の宿屋を決める。今まで泊った宿屋に比べるとちょっと建物や寝具もちょっとグレードが下がっているようなイメージかなぁと思った。けど地面に雑魚寝よりはずっといいのは間違いない。
僕たちは荷物を宿屋に残して、まずは獣王に面会の打診を入れる。返事は泊っている宿屋に入れてくれるようにお願いした。
その後、お店を物色する。女性陣は洋服店や装飾品に興味津々のご様子だ。僕はと言えばやはり装備品が気になる。両目を強化して装備品をじろじろ見つめる。
呪われた装備は他の街に比べると少な目だなぁと思って見ていた。ほとんどの武器防具店を見て回った後、路地裏の小さな武器防具店を見つけた。こんなところで商売して、人がくるのかなと思った。
けれども、そこでまたしても見つけてしまった強化した目でみるとボロボロの装備品。強化をしないで見ると普通の両足装備を見つけるのだった。店主に値段を聞いてみるとやはり捨て値だった。そこで
「誰から仕入れたんです?」
と聞いてみた。
「ドワーフ族の行商人だったな。たしか。武器防具を扱ってる行商人で、どこも買ってくれないから買ってくれないかって泣きつかれてな。仕方ないから買ってやったが、ホントに売れなくて俺も捨て値で売っているけどそれでも売れないという訳だ。ほんとに困っちまうよな」
と豪快に笑っていた。ドワーフ族という情報はありがたい。今までどこのお店でも謎だったからなぁと僕はいい情報をもらったと思い、捨て値だったし情報料もかねて倍額を払ってこのボロボロの装備品を買ったのだった。
お腹も空いたので何か食べようって話になった。そこでいい匂いのしていたお店に決めた。その食事処のマスターについでだし獣人の国の話も聞いてみようと思った。
「この料理、おいしいですね。調味料って独特のものを使ってるんです?」
「お、分かるかい? この国の特産品なんだ。ラクチーって言ってな。好きなやつはとことん好きだな。俺もお気に入りさ」
「ラクチーですか。(パクチーみたいな感じかな?)なるほど。ちなみに獣人の国って初めてなんですけど、どんな国なんです?」
「んー。そうだねぇ。俺たちの国は基本的に武人が多い。気難しい獣人は多いけど、認められりゃぁ、気のいいやつが圧倒的に多いな」
「気にいられるコツってあります?」
「そりゃー、武人だからな。力を示すのが一番早いさ。でも力を示さない人間に冷たいのは当たり前。口だけの人間、特に商人は嫌われてるな。俺の場合は俺の料理を褒めてくれるお前みたいなやつは嫌いじゃない」
と笑いながらフライパンをガンガン振り回して料理しながら答えてくれるマスターだった。
商人が嫌われているというのは法律の隙間をついて何かしらつついてくるのは、やはり商人だからだろう。
食事も終えた僕たちは宿屋に帰ってきた。すると獣王からの返事が届いていた。明日の13時頃なら面会可能とのことだったので僕たちは明日の準備をして就寝となるのだった。
◇
翌日、獣王の城に行った。獣王は厳しそうな犬族。そして筋肉の塊の獣人だった。その威圧感は圧倒的。だからこそ魔王復活の時には協力をぜひとも取り付けておきたい人物だ。
「俺が獣王、ライズムニタルである。今回お前等が来た理由はなんだ?」
と聞かれた僕は
「四天王が現れ魔王復活が迫っております。魔王復活の際はぜひとも協力を仰ぎたいのですがいかがでしょうか?」
と訴える。獣王は僕たちをみて
「俺らの困りごとを解決してもらえるなら協力しよう」
とおっしゃった。ギブアンドテイクを申し受ける。「何を解決すればいいんでしょう?」と聞いてみた。
「獣人族の子供たちがさらわれる事件が頻発している。子供たちを助け、子供たちを攫ったやつらを
「なるほど。そんな事件がおきているんですね。ちなみに中心人物は殺したらダメです?」
「生死は問わん」
とのことだった。依頼の難易度は下がったと考えていいだろう。殺すつもりはないけれど相手が強かった場合、全力をだしてもいいかどうかは戦局を大きく左右する。
「その誘拐犯の情報で分かっていることはあるんでしょうか?」
「分かっていることはないに等しい。だが、いなくなった子供たちがここ1ヶ月で10人を超えている。親も心配して独自に調べているものもいるようだが見つからない。子供たちだけでも見つけて取り返して欲しい」
「分かりました。僕たちにできる全力で望みます」
と答え、僕たちは作戦会議を始めるのだった。
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