脱皮彼女とジュディ

邪悪シールⅡ改

友達に囲まれて

 今、私の彼女は黒髪が似合う十代のお嬢さんだ。

 瞳は赤く、歯並びも良い。某お嬢様学園の制服を着込み、ヘラヘラ笑いながら赤信号を無視して歩む。

「♪ ♪」

 生温かい雨粒を一身に浴びながらやがて歌い始める。

 彼女が信奉する魔神への聖歌であった。

 歌詞は人の言葉で再現できるものではない。

 当然私にも無理だ。


     〇


 辿り着いた公園のベンチに彼女は寝転がる。

「あーあ。怖い怖い。さようなら」

 彼女は私に命じ、自らの白い肌を触れさせる。

 思い出にしたいのだろう。

 23時23分23秒。

 まず彼女の喉笛が裂けた。

 血の一滴も溢れぬまま、ダンボールを力任せに裂くような音を出す。

 白い細腕がひび割れ、中から新たなる腕が現われる。

 その腕が強引に制服を破る。

 もう似合わないからだ。

 おおよそ一分ほどであろうか。

「あーあ。生まれたよ。生まれたよー」

 脱皮は終わった。

 短髪は青みがかり、瞳も同じ色。胸囲は多少増したか。

「好き?」

 新たに生まれた彼女もまた美しい人であった。

「好き」

 彼女は笑う。

「どーでもいい」

 


     〇


 蝋燭の火が灯る中、私は彼女の物言わぬ抜け殻をマネキンに被せていた。

「ルンルン」

 暗い部屋を抱く音楽は、彼女が好きな映画のサウンドトラックだった。

 海と空の青さと、死と銃撃が満ちた物語と共にあった音楽だ。

 心地良い音の中、彼女はお別れした自分自身の抜け殻に着せる服を見繕っている。

 彼女は人間との和解と調和が不可能な生物である。

 故に私がこうして彼女のお友達作りを続けるのだ。

 それが私の喜びで温もりだ。



      〇


「ハロー、ジュディ」

 新たに生まれたお友達はそう名付られた。

 華奢な身体に似合う男装姿の人形は笑顔のまま動かない。

 私の彼女はジュディを抱きしめ、そのまま眠ろうとする。

「ミーア。お前は寝たらダメだよ」

「分かっているよ。大丈夫だよ」

「おやすみ」

「おやすみなさい。愛しい人」

「私はお前が愛しくない」


     〇


 私の名はミーア。

 私の彼女が産み落としたの人形。

 彼女がジュディに飽きたとき、私は自らの自我を壊しジュディに差し出すだろう。

 そしてジュディは新しい人形制作の手伝いをするのだ。

 その後、私のこの命無き身体はどうなるか?

 特に興味は無い。もう彼女は私を愛さないからだ。

 間もなくポータブルCDプレーヤーは停止し、彼女の寝息だけが世界を包む。


 私は幸福であった。

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