第92話 雨宿りのつもりが【2】
ヨルが入った建物は、病院だったらしく。中は入り口付近から患者らしき人がたくさん溢れており、看護師らしき人が駆け回って手に負えていない様子だった。
「ひどいな。こんな状況だったとは」
「君達、これ以上はダメだ。関係のない君達まで感染してしまう!」
冷静に状況を判断するゼンの言葉の後に、追いついてきた村の入口の番人だった人が俺達がそれ以上進まないように行く手を阻むように盾になる。
その隙間から見える患者らしき人達は、身体のどこかに必ず赤紫色の爛れたような模様が出来ており、熱や痛み、かゆみを訴える声が聞こえてくる。
看護師の人達が、防護服らしき服を着て対応しているから、感染力の強い病気なのかもしれない。
「ちょっと、どいてくれ」
「君! これ以上は本当にダメだ! 君も感染してしまう!」
「ヨル! 止せ! 戻ってこい!」
さすがの俺も、これ以上は本当にダメだと思い、ヨルを止めに入るが。ヨルは俺や番人の人の静止など全く聞かずに自分のバックから、簡易の防護服らしきモノと手袋を取り出して一番近くにいた患者を診始めた。
「熱はそこそこあるな。脈拍も少し早い。この火傷のような症状。あんた、喋れるか。いつからこの火傷のような症状が出た」
「ぅ…………、俺の弟が、同じ症状が出て。病院に連れて行った後から俺にも…………」
「ふむ。症状がでたのは見た所最近か」
「あぁ……、症状が出始めて、ここに来て二日目だ」
「なるほど」
ヨルはてきぱきと患者の様子を診終わると、周りを見渡し、一人の看護師に声をかけた。
「そこのあんた! この病が出始めた最初の人物はどこにいる!?」
「ぇっ、あ、あなたどなたですか??」
「そんなことよりも! 最初の患者は何処だ!?」
「ぁ、あのこっちです!」
「リンタロウ! ゼン! お前達も手伝ってくれ! 急がないと死人が出る!」
「えぇ!?」
「わかった」
ヨルは俺とゼンを呼ぶと、まだ持っていたらしい防護服と手袋を俺達にも渡して、視線で付いてくるように訴えてきたので防護服などを着ながらついて行くしかなかった。
戸惑う看護師の案内について行くヨル。その後ろに同じく戸惑いながらついて行く俺。そして、どこまでも冷静なゼンとその一番最後の後ろを如何したモノかと逡巡しついてくる村の番人の人達。
さすがにヨルから死人が出るといった言葉が出たのが番人の人達を迷わせる事になったのだろう。
そして、病院の一番奥の部屋へとたどり着いて中に入ると。
その部屋の中はたくさんのベッドがあり、病院の入り口付近にいた人達よりも明らかに症状が酷かった。
患者の火傷の様な痣は全身を覆いつくすように広がっており、呼吸も浅く、何より患者の多くは子供ばかりだ。
俺はヨルが言った言葉が嘘ではない事に、背中をつうっと流れる冷や汗で感じ取る。
「だ、誰だね! 君達は! ここに入っちゃいかん!」
防護服などで完全防備をしている、おそらくこの病院の医師であろう人物が、部屋で患者を診ていた手を止めて、突然入ってきた俺達に静止をかけた。
「一番最初の患者はその子か」
ヨルは確信をもって、たった今医師が診ていた患者に近づくとその子供を触診し始めた。
最初の患者というだけあって、その子供は顔の右半分まで爛れてしまっており、全身も素肌が見えなくなってしまっているほど、症状が酷かった。
「な、なんなんだね。君達は…………」
「驚かせてしまい申し訳ない。しかし、悪いようにはしませんのでどうかお許しを」
患者の様子を診ているヨルの代わりに、ゼンが戸惑ってしまっている医師に対してそう言った。
ヨルとゼン以外、俺も含めて多くの人間が何が何だか分からないこの状況。
逆にそれが良かったのか、ヨルの診断はすぐに済んだ。
「これは魔草
「
「馬鹿な、あの魔草はこんな平野ではなく、高い山に咲くとされる花だ。この村でその毒にやられるわけが…………」
「でも、この症状は確かにサシニアの毒の症状だ。この子供、早く対処しないともたないぞ」
「し、しかし、サシニアの花は知っているが、治療法までは…………」
「やはり、都心部の衛生兵を待つしかないのか」
ここの村の医師では、ヨルが言うサシニアという花の毒の対処はできないみたいだ。
医師の言葉に村の人間に絶望の表情が垣間見えたその時。
「俺が治す。このメモに書かれている薬草くらいこの辺の森の中でも取れるだろう? 大量に必要だ。あと、メモの横に描いた絵の特徴の花には絶対触れるな。見た目綺麗な花だがそれがサシニアの花だ。もしかしたら去年から今年にかけて何か理由があって山から種が降りて来て根付いてしまったのかもしれない」
「ぇ、あ……、その」
「早くしろ! 嵐が来たら薬草を取れなくなってしまう。子供を死なせたいのか!?」
「わ、わかった!」
ヨルは番人だった人に、早くしろとメモを叩き渡して催促をした。
そして、まだ戸惑っている様子の医師達には。
「ここには聖水はないのか?この病院にいる患者全員分だと相当の量が必要だが」
「聖水はあるにはある。しかし、患者全員分となると…………」
「それなら治癒魔法を使える奴は? 今から聖水を精製していけばどうにかなるだろ」
「それなら私が精製できるが、患者全員分はさすがに魔力がもたない」
「そうか、なら、リンタロウ」
「へ、俺?」
完全に自分が呼ばれると思っていなくて、魔草やら聖水やら、でたよファンタジー。と油断していた俺は、ヨルに突然名前を呼ばれて驚いた。
話はきちんと聞いていたので、呼ばれた理由はなんとなく分かるが、俺の治癒魔法なんてまだまだ拙い魔法だし、治癒魔法は教えてもらったが聖水の作り方までは分からない。
もちろん、俺の治癒魔法の拙さは一緒に旅をしていて見せた事があるヨルも知っているはずだが。
「リンタロウ、お前が聖水を作るんだ」
「ぃ、いや、待て。ヨル、お前も知っているだろう? 俺の治癒魔法はこの前見せた通り、簡単な擦り傷を治す程度ならできるが、聖水を作るだなんてやったことも教えてもらった事もない」
「でも、リンタロウの魔力の多さならきっとできる」
『大量の聖水が』とそう言うヨルの真剣な表情を見てしまうと、これ以上できないとは言い切れない。
旅の途中で、ゼンが笑い話として出した俺の破壊神と呼ばれた魔力の多さの話したのをヨルは覚えてたんだな。
「ん~~~っ! …………わかった。やってみる。けど、失敗しても文句は言わせないからな!」
「そこは破壊神発動しなくていいからな!」
「誰が破壊神か! …………そうならないように頑張る」
「はははっ! ありがとう! リンタロウ!」
聖水の作り方は、ここの医師の人が教えてくれるらしいので、俺はこうして初めての聖水を大量精製することになったのだ。
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