第89話 美味しい料理と新たな同行者【1】
あの後、なんやかんやであの少年と一緒に昼食をとることに。
なんでかって? ゼンが山猪の下処理を終えるまで、俺に英雄王とやらについて語るのを止めなかった少年に対して、その山猪を今度は解体しようとし始めてた本人が昼食に誘ったから。
もちろん昼食のメインは山猪です。
ちなみに、生き物の解体ショーは旅の初日にやられて、命の尊さについて教えられ、その命を頂いているのだとゼンから教えてもらい。まだ見るのは慣れてはいないが、俺も解体について教えてもらっている最中なので、少年の語りが無ければ、本当はそっちを教えてもらいたかった。
「わるいな! 俺までご馳走になって!」
「元は君が連れてきた山猪だ。君にも食べる権利はあるさ」
少年の言葉にゼンがそう答えると、解体した一部を使って調理を始めようとする。
俺も、もちろん調理に参加しようとゼンを手伝うのだが。
ゼンが、処理を終えた山猪の一部を焼こうとしたその時。
「待ってくれ!」
「ん?」
「どうかしたのか?」
まさに鉄板に肉を乗せようとしたその時、少年が突然待ったをかけた。
「それ、そのまま焼くのか?」
「あぁ、新鮮なうちなら山猪独特の臭みも少ないから、せっかくだし焼いて食べようかと」
「そのまま食べるより、もう少し手を加えた方が美味しく食べられるぞ。リコの実はもってるか?」
「あぁ、それならあるが」
俺は、こちらの世界での食べ物の食し方についてまだ知らない事が多く、口を挟むことができなかった。
だが、前の世界の猪と同じで、どうやら山猪も独特な匂いがある様子。
まあ、新鮮なうちのほうが臭みが少ないか多いかは知らないけれど。
リコの実というのは前の世界で言うリンゴに似た触感と味の果物で、見た目は巨峰のようで赤い実が粒がたくさんついている。
俺一回、ブドウと思って噛んだら、ブドウと触感違って硬いから油断したよね。
少年は焼く直前だった山猪の肉とリコの実をゼンから受け取ると、自分のマジックバックからいろいろと取り出して、肉にひと手間加えだした。
「塩コショウはしてあるからそのままで、まずリコの実をすりおろして、ビーンの蜜と一緒に肉の表面に薄く塗って少し揉む」
少年は慣れた様子でてきぱきと次々に作業工程を進めていき、俺の知らない食材まで使って調理をするので思わず黙ってまじまじと見てしまう。
「揉んだら肉を少し寝かせといて、その間にクイートの実やオリゴ、ミョウガなどをすり鉢ですり合わせる。
「ミョウガって、あのミョウガ?見た目似てるけど」
「たぶんリンタロウが思っているミョウガとは違うミョウガだとは思うが…………」
「…………なぁ、気になってたんだが、お前もしかして異世界人か?いろいろと知らない事が多すぎる」
「あ、あー…………」
俺は少年の問いに、攫われた経験もあるため、馬鹿正直に自分の事を答えて良いモノかと思い言い淀んでゼンをチラリと伺ってみると。ゼンもこの少年なら大丈夫と判断したのか、俺に向かって一つ頷いて了承してくれた。
「あぁ、俺は異世界から来たばっかりなんだ」
「やっぱりそうか! 俺、異世界人初めて会ったぞ! おかえり!」
「あー、ただいま?」
で、あってるよな?
やっぱり、こちらに帰ってきた異世界人はみんな一番最初はおかえりと言われるものなのか。
リッシュ領でも、市場で初めて会った領民の皆さんは必ずおかえりと俺に言ってくれていたし。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます