第55話 逸る気持ち 後編【2】








 そして時は戻って、パルフェットは少し前の出来事を振り返ったことにより、己の不甲斐なさに苛まれて、飲もうとしていたお茶をソーサーに戻して頭を抱えた。



「それは、悔やんでも悔やまれぬ事でございますが、こうして私も、今屋敷にいらっしゃいます坊ちゃま方も、奥様の懸命なる治癒魔法により傷は癒えております。

 ですが、今はその治療に加えて守護魔法までも再び施された奥様の魔力も枯渇気味でございましょう」



 セリューの言葉にパルフェットは図星を隠せない。

 そんなパルフェットの様子を分かり切っているセリューは、更に言葉を重ねて言い聞かせることにしたようで。

 幼い頃より自分よりも自分の事を理解してくれているセリューに、パルフェットは頭が上がらない事が多いし、こうなったセリューの話は聞いておかないと、あとでいろんな意味で痛い目を見るのは自分だと分かっているので黙って話を聞くことにした。



「この場にいらっしゃらないお二方、特にリンタロウ様はシャルル坊ちゃまとサロモン坊ちゃまのお話ではお怪我をされているとの事でございましたが、奥様がそんな落ち着きのない様子で狼狽えて魔力回復を怠っていらっしゃいましたら、ご帰還されたリンタロウ様の治療を誰がすると思っているのですか? いくらこの領地に腕の良い医師が居ると申しましても、治癒魔法は奥様以上の力を持っているわけではございませんので、必然と奥様のお力が必要になりますでしょう。

 今この家を守るのも奥様とこのセリューだけでございますれば、ここが耐え時ですぞ、この後の為にも今は休息を」



 うん。覚悟はしてたけど想像していたより、お説教が長かった……。

 パルフェットは心の中でそう呟き、ようやくお茶を一口入れて喉を潤した。

 自分が思っているより乾いていた喉に、セリューが気遣って入れてくれたであろうハーブティーがよく沁みわたっていく。



「…………セリュー」

「はい、奥様」

「軽食でも作って、皆で食べようか。腹が減っては戦はできぬってね!」

「ふふ、そう思って準備してあります。坊ちゃま方のお部屋にお持ちしてよろしいでしょうか」

「さすがセリュー! 私も運ぶの手伝うよ」



 パルフェットとセリューは、確実にお腹がすいているのに、まだ帰らぬ二人の為に食事を我慢している優しい子供達のいる部屋へと暖かい軽食を持って行くのであった。

















 夜の冷たい空を切り裂くように翼を羽ばたかせる相棒のカリスタの上で、ゼンは夜風の冷たさなど感じないほどの集中で、窃盗団が潜んでいそうな場所を単独で虱潰しに探していた。



「どこだ、リンタロウ」



 どこか、焦りの見えるその声音に呼応して、カリスタの羽ばたくスピードも心なしか速まり、寒さを感じていないとは言葉で表してみたけれども、実際のゼンの吐く息は白く震えている。

 だが、ゼンにはそんなことよりも大切なことで頭を占められていたので、寒さなど関係なかった。



「カリスタ、まだ飛べるか」

「ギャオウ!」

「本当に、お前はいい相棒だよ」



 カリスタは疲れを見せずに、夜よりも深い黒曜石のような鱗に覆われた力強い翼で、ゼンを乗せて更に夜の空を切り裂いていくのであった。










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