第46話 三つの銃声音【1】








「フェリシアン!向こうもだ!」



 ベルトランは飛竜に乗りながら下の地上をかける愛犬フェリシアンに、牛を追い込む方向の指示を出す。

 それを聞いたフェリシアンも素早く牧草地を駆け、向かわせたい方向とは別方向に歩いてしまっていた牛達を目指している方向へと軌道修正させる。

 いつもは一緒に牛を集める父と、先日から手伝ってくれているゼンがいるはずなのだが、二人は事件に追われてて今は居ないので、遠く離れている牛を集められるのはベルトラン一人。

 その為、普段の仕事時間より早く活動をして牛を集めている。



「ルールルルルル!」



 ベルトランは飛竜を操縦しながら片手で器用にベルを鳴らし、牛を誘導していく。

 今日は牛達も指示をよく聞いてくれているのかスムーズに誘導できているので、早く牛舎に集められる。とベルトランの機嫌は少し良かった。



「よし、いい調子だ。リュカ、このままいつも通り低空飛行で頼むぞ」



 そうベルトランは相棒の飛竜、リュカに呼びかけるとリュカは鼻息をふんっと鳴らして任せろと返事をした。

 どうやらリュカもベルトランと同じことを思っていた様子で、とても気分良く快調に飛んでいる。

 このまま何事もなければ、いつもより早く夕飯につけるかもしれない。とベルトランは思いながら再びベルを鳴らし始めた。



「さて、ルールルルルル!」











 ――――――ズガンッ!!!!










「えっ――――!?」


「ッギャゥ!!!!」






 一瞬の出来事であった。

 遠くもなく、近くもない距離からの銃声音。

 ベルトランは何度か聞き覚えのあるその音の発生源らしき方向へと素早く視線を向けるが、振り向いた直後に体勢を崩し、重力に逆らえず落下するリュカと一緒に落ちていく。


 撃たれた!? リュカが!


 瞬時に状況を把握したベルトランは、地面に直撃する直前に地面を柔らかい物質へと変化させて落下の衝撃を弱める。

 だが魔法の効果も空しく地面に落ちた衝撃はそれなりに強く、ベルトランは気を失うわけにはいかないと思いながら上半身をどうにか起こす。

 その際に手を地面についたのだが、濡れるはずのない手がぬるっと何かに濡れて少しだけ滑った。



「っは! リュカ! 大丈夫か!?」



 ベルトランが触れた何かは血液であった。

 それも、今まで一緒にベルトランと共に過ごしてきた相棒のリュカの血だ。

 リュカはベルトランの声に反応はあるが痛みがあるのだろう、呻き声を上げて非常に辛そうである。



「は、母上、母上に治してもらおう。リュカ、それまでしっかりするんだ!」



 ベルトランは声を震わせながら仕事用に持っている手ぬぐいをリュカの傷口にあて、患部を押さえることで止血を試みる。

 こんな時に、自分にも母のような力があればとやりきれない気持ちに苛まれるが、ベルトランは周りを見渡し状況を確認しようと顔を上げるが。



「――っ!? なっ!?」



 突如上から何かが降ってきて、その振ってきた何かにベルトランとリュカは押さえつけられてしまった。



「くそ!……これは、捕獲網!?」



 普段、猟をする際に使われる捕獲網は、ベルトランが父と山へ猟へ連れて行ってもらった際に見た物と同じであった為、見覚えがあった。

 それは、網の端に付いている重しが地面などに触れると、込められた魔力で一度刺されば中々抜けない杭を打ち込むタイプで、捕らえられた捕獲目標はその場に押さえつけられて抜け出せなくなるのだ。


 そして、その押さえつけられてしまったベルトラン達の、横と上空を駆けていく多くの飛竜と馬車。飛んでいる飛竜の中には四匹で運ぶ檻が繋がっていたり、馬車も人を運ぶ大きさではなく確実に牛が四、五頭は乗る大きさの荷車を四匹の馬で引いている。

 ベルトランはすぐに、この侵入者たちが父達が追っていた窃盗団だと気付いた。



「こいつら! どうやってここに!」



 リッシュ家の敷地には魔物や悪人など、害意のあるモノは侵入できないようにパルフェットによる強固な守護魔法が施してある為、容易には害意のあるモノは侵入できないようになっているのだ。にもかかわらず、こうして侵入されてしまった事実。

 自分の母が施した魔法はそんなちょっとやそっとじゃ破れない魔法であるはずなのに、それを破られたという事実にベルトランは恐怖した。



「おい、お前」



 ベルトランに呼びかけたのは侵入者達の一人、おそらく最後尾を馬で走っていたであろう人物が話しかけてきた。



「調べはついてるから知ってるぞ。ここの次男だな?」



 そう言うと男はニヤリと気味の悪い笑みを浮かべる。

 その汚い笑みにベルトランは鳥肌が立つが、今はリュカの傷口に手をあてている為、毛羽立ってしまった肌をさする事もできない。



「お前達、ただで済まないぞ」

「ははは! 威勢がいいな。だがお前には用はない。いいのか? 持っているんだろう? 危険を知らせる笛」

「っ!?」



 家族間で交わされている決まり事、魔物や危険人物などの侵入があればそれを知らせる警笛を鳴らす。

 これはこの領地特有の方法で、警笛は特殊な加工をされており、魔力を込めてそれを鳴らせば周りに危険を知らせるだけでなく、領地のあちこちに散らばっている警備隊にも危険を知らせることができるのだ。

 わざわざ、それを鳴らすように仕向けてくる目の前の人物。



「それを鳴らせば、お前らがどうなるか分かっているのだろう……」

「言っただろう? お坊ちゃま君。俺達の調べは終わってるんだ。それくらい対処済みさ。………………大人しくそこでパパとママの助けを待ってるんだなあ」

「貴様!!」



 男はそう言うと、ベルトランを置いて仲間の後を追って走って行った。








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