第22話 お見合いの会
クララ様は、以前ボブバージル様とお別れしようと思った時のお話をわたくしにしてくださいました。
「わたくし、それはそれはお美しい方々にジルには似合わないと言われましたの。わたくしはその言葉を真に受けてしまいましたのよ」
クララ様は自重するように笑っておられます。
「でも、それを否定してくれたのは他ならぬジルでしたわ。ジルはその方々よりわたくしが美しいなどという上辺の慰めはいたしませんでした。ただただ、わたくしを好きだと言ってくれたのです。まだお互いに子供でしたので聞き心地のよい言葉など知りません。ですのでただ好きだと何度も教えてくださいましたの」
ボブバージル様のお話をするときのクララ様のなんと美しくなんと幸せそうなことでしょう。
「ジルはとても美しいです。それは老若男女だれもがそう思うでしょう。わたくしはそんなジルの隣に立つことで自分がみすぼらしく恥ずかしいとは思いません。ジルのように美しくはないわたくしですがジルは好きだと言ってくれるのだと堂々と立っていられます」
わたくしは美しさを間違えていたのでしょうか? だってクララ様は美しいのです。輝いているのです。それをご本人は否定なさっている。それでもボブバージル様の隣に立つことを選ぶとおっしゃっておられます。
「わたくしはコレット様についてゼンディール様とお話をしたことはございませんわ。ですのでゼンディール様のお気持ちはわかりません。ゼンディール様のご容姿ではなくお気持ちを確かめてごらんになってはいかがですか?」
わたくしはエイムズ様のお気持ちを聞く前にあのご容姿から逃げてしまっていたことに気が付きましたの。
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十一月下旬、「異国異文化交流会」が再び開かれることになったのだが、名前は素直に「ホーキンス公爵家のお茶会」となりお見合いの体を隠さなくした。
前回のお茶会でチャーリー殿とエイミー嬢がデートをすることになりそれが噂となったようだ。少しばかり婚期を逃しそうな跡取り侯爵令息とまだ社交界に出ていない学生伯爵令嬢がどのように知り合えたのかと話題になったらしい。学生伯爵令嬢は、ほぼ確実に手垢もついていないので、世のご婦人方は自分の息子の嫁にと思っているそうだ。社交界のご令嬢方に問題があるわけでもないのにそれはないだろうと思ってしまう。
あくまでも兄上が用意してくれた名簿を優先させるが、参加したい男女が待ち構えているため少人数でゆっくりとというわけにはいかなくなったようだ。
今日だけで、男女それぞれ十人ほどがホーキンス公爵邸の小ホールに集っていた。
そんな会にどうして僕とウォルが参加しているかというと、人数が増えるとどうしても一人になるご令嬢が出てしまうのでそのフォローをせよというマーシャからの司令だ。マーシャのそういう社交性の高さは流石に公爵家の跡取りであり元王妃候補だと感心してしまう。
ちなみにセオドアは話が下手なのでダメ出しされ、コンラッドはしかり。
会の始まりにおいて男性だけが応接室に集められた。そこでマーシャは作戦に従うことを男性たちに約束させていた。男性たちはみなマーシャより年上であるが真剣に婚姻を望む方々ばかりなので、婚姻に結びつく可能性が高まる作戦ならばキチンと協力してくれた。
初めの二時間は十五分毎にパートナーを変えなければならない。さらに、誰かとパートナーが被ってはならない。その二時間は同じパートナーを選んではならない。
なるほど。これなら最低八人のご令嬢を知ることになる。十五分の声掛けは近くのメイドがさり気なくするそうだ。マーシャ恐るべし。
その後であればお一人のご令嬢とお話しても構わないしお一人のご令嬢に数名がお話にいくこともあるだろう。
つまり、僕とウォルは二時間は仕事がないということだ。
マーシャとクララは上手く話せていなそうなご令嬢のフォローに行くのだとか。クララはのんびりしてそうに見えて、人をよく見ているので話題の振り方が上手いのだ。
会が始まり僕とウォルはお見合いの会場の小ホールの舞台の影に用意されたテーブルでゆっくりとしていた。
「親のススメだったとはいえ幼い頃に婚約していて本当によかったよ」
ウォルの視線は一生懸命に話をしている年上の紳士たちに向けられていた。
「確かにね。僕は跡取りじゃないから気にしなかったと思うけどここにいるみなさんは跡取りばかりだろう?」
「ああ、そうだ。貴族の血を絶やすわけにはいかないし、爵位の離れすぎた血は望まれないし。難しいよなぁ」
今日は男性は侯爵家伯爵家女性は侯爵家伯爵家と裕福な子爵家だそうだ。身分的にはホーキンス公爵家が保証しているようなものだ。
あ、女性の中には王女殿下もいるな。秘密だけど。
「でもさ、公爵の名前の元に出逢って婚姻したらバカはできないね」
僕は冗談のつもりで言ったがウォルはあからさまに眉間に皺を寄せた。
「バージル。まさかクララを裏切る気持ちがあるのか?」
僕は飲みかけたお茶を吹いた。メイドがにこやかに後始末をしてくれた。
「そんなわけないだろっ。一般論だよ一般論!」
ウォルが訝しんだ目で僕を見た。僕はカチンときた。きてしまった。後で考えると大人気なかった。
「ティナを裏切ろうとしたのはウォルだろう」
どうやってとははっきり言わないが、シンシア嬢のことであるのは僕たちの間では確認もいらない。
ウォルはその場で椅子から滑り落ち膝を抱えて小さくなった。僕は謝りながらウォルを復活させることはとても大変だった。
二時間が経過した。僕たちの出番だ。
「出会いがあればいいなぁ」などという曖昧なお茶会ではなく、はっきりと「お見合い」という目的を持った会なので、男同士で笑っている人などいない。
それでも数人の男性が一人のご令嬢に向えば空いてしまうご令嬢はいるわけで。僕たちはそれぞれお話に行った。学生同士なので話に困ることはない。それでも困ったときはクララとマーシャのクラスでの話をすれば大抵の女子生徒は興味を持ってくれる。つまり二人は結構憧れられているのだ。
そして、ありがたかったのは会の趣旨とマーシャの始めの作戦を理解してくれた紳士が数名いたことだ。おかげでご令嬢も僕たちとの話だけで終わるようなことはなかった。
さて、会もそろそろお開きかという時、先程まで僕たちのいたテーブルの裏手のドアが開いた。
「マーシャ! 僕にナイショとは酷くないか?」
大きな声で現れたのはゼンディールさんだった。ゼンディールさんとは兄上の結婚式以来仲良くさせてもらっている。さすがにあのディリックさんの兄上だ。とてもかっこいい。
それにしても、ゼンディールさんはあの名簿の筆頭であったし前回も参加している。前回参加したチャーリーさん以外の方は来ているのでゼンディールさんにも話はいっていると勝手に思っていた。
「まあ、それは後でいいや。とにかく、応接室を借りるよ!」
ゼンディールさんは自己完結させて会場へと足を踏み入れた。そして、あっという間にコレッティーヌ嬢を連れていってしまった。コレッティーヌ嬢と話をしていた紳士は呆然としている。すぐさまクララがその方へ駆けつけていた。
それから一時間ほどして執事が紳士ご令嬢たちのお迎えの馬車の到着を知らせ、一人また一人と会場を後にしていった。後は紳士たちが気に入ったご令嬢に手紙を送るだろうしそういうご令嬢がいない、または、振られたのなら次回に参加するだろう。そこまで世話をしてやる必要もない。
最後のお客様を見送ると待ってしましたとばかりにマーシャが爆発した。
「まったく! こうなるからゼディお兄様にはナイショにしましたのに! ゼディお兄様の中で決まったご令嬢がいらっしゃるのなら、この会でなくてもよろしいでしょう。本人がヘタレなのになんですの! あのご様子はっ!」
マーシャの意見はもっともだが僕たちに言われても苦笑いしかできない。
マーシャの誘いで僕たちは慰労会としてお茶をすることにした。
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