第27話 渡り廊下の戦い
「レイナ=ベルンか!何故ここにいるのだ」
先頭のリーダー格の男が信じられないといった様子で、自分たちの進路をふさぐ赤髪の剣聖を睨みつけた。
「わたしがここにいては不都合か?そう言うお前たちは何者だ?」
レイナはすでに臨戦態勢といった様子で、二本の剣を鞘から抜き放っていた。
レイナは二刀流である。
右手の一本を肩に担ぎ、左手の一本を相手に向かって突き出していた。
それを見て、影の者たちも一斉に抜刀した。
「問答無用!相手が剣聖であろうと臆するな!斬り殺せ!」
その言葉を合図に、影たちが一斉に突進してレイナに斬りかかった。
レイナは不敵に笑うも、微動だにしない。
そこへ影の者らが獣のように襲いかかった。
刹那、夜の闇に雷光が走った。
「ギャアーーーーー!」という叫び声がいくつも轟いた。
一瞬のうちに五人を斬り捨てたレイナは、またもニヤリと笑って振り返った。
影の者らはレイナを十重二十重に取り囲むも、誰一人として仕掛ける者はいなかった。
その様を見てレイナが嘲りの言葉を浴びせた。
「どうした?お前たちは一体何人いるのだ?ざっと見たところ百人ほどはいるようだが?」
一対百。
圧倒的な数の差である。
だがその彼我の力の差は、その逆と言っても言い過ぎではないほどにあったと言えた。
現に影の者らはまったく動けていない。
レイナは数に勝る敵を、その力でもって圧倒していた。
だがそこで影のリーダー格の男がスッと右手を挙げて合図した。
その途端、影たちが皆、三人ずつの塊となった。
レイナの目がスーッと細くなった。
厳しい表情となって影たちを睨み付ける。
そこでリーダー格の男が叫んだ。
「皆、命を捨てよ!」
三人ずつの塊が、四方八方からレイナ目掛けて押し寄せる。
レイナは最も早く自分に届くであろう、右側の三人に狙いを定め、逆に突進を仕掛けた。
神速の如く右手の剣を走らせ、先頭の男の右肩口に斬り付ける。
肉を切り裂き、骨まで両断する鈍い音が響く。
だが何と、その神速の剣が途中で止まった。
斬られた男が断末魔の叫び声を上げながらも、さらに前へと突進を仕掛けたのだ。
そのためレイナの剣が相手の身体に食い込み、止まってしまったのだ。
「ちいっ!」
さすがのレイナも、これには一歩引き下がらざるを得なかった。
凄まじい脚力でもって後方に飛び退り、敵の身体に食い込んだ剣を一瞬で抜くと、近付く敵を二本の剣で斬りさばいた。
だが命を捨てて掛かってくる死人の如き敵に、さしもの剣聖も手を焼いた。
レイナは神速の動きで敵の間をすり抜けると、敵の居ない広い場所を確保した。
だがそこで敵が予想外の行動に打って出た。
レイナを無視して居館に向かって突進していった者たちがいたのだ。
「しまった!」
レイナが慌てて影の集団を追った。
だが他の者らがレイナの行く手を阻もうと取り囲む。
「小賢しい真似を!
レイナが叫ぶなり、二本の剣から黒い煙のようなものが吹き出し、辺りを漆黒に包んだ。
その暗闇の中をレイナは、剣を二本合わせて横殴りに剣を振るった。
するとその方向にいた者らが、見るも無惨にまとめて一刀両断にされた。
だがそこへ次々に影の者たちが、暗闇にもかかわらず覆い被さるように飛び込んで来た。
レイナは今度は身体を回転させるようにして、その者たちを細かな肉塊へと容赦なく変えた。
だが敵の手は止まない。死ぬ気で次々と襲いかかる敵。
その間に三十人ほどの敵が、王女のいる居館目掛けて殺到した。
先頭の者が居館に繋がる大扉に手を掛ける。
その時、扉が凄まじい雷鳴を轟かせて吹き飛んだ。
扉は突き進んでくる影たちの先頭にぶち当たった。
それにより影の者たちの突進が止まった。
影たちが目を細めてかつて扉があったところを凝視すると、もうもうと立ちこめる煙の中から現れた、細身で長身の男の姿を捉えた。
「今度はネルヴァ=ロキの登場か!」
リーダー格の男が吐き捨てるように言った。
するとネルヴァが煙の中で言ったのだった。
「ここから先へは一歩も行かせません。一気に片を付けさせてもらいます。
ネルヴァが言うや、その右手から雷光が走った。
遅れて雷鳴が轟く。
見ると、ただでさえ黒ずくめの者たちが数名、さらに真っ黒に焦げて倒れ伏していた。
「散れ!」
リーダー格の男が叫んだ。
途端に影たちが四方八方に散った。
だがそれにも限界があった。
何故ならこの場所は渡り廊下であり、ネルヴァの魔法範囲を超えるような広い場所などはなかったのだった。
「ではお覚悟を。
その瞬間、渡り廊下に目もくらまんばかりの雷光が次々にほとばしった。
そして遅れて凄まじい雷鳴が。
気がつけば、その場に立っている者は、もうすでに十人にも満たなかった。
リーダー格の男がワナワナと震えていた。
そこへ高らかな声が響く。
「ここまでだな!」
レイナが周りを取り囲んでいた者らを全て斬り伏せ、姿を現した。
剣聖と大賢者に挟まれ、もはや彼らの命は風前の灯火であった。
だが彼らの意思は挫けなかった。
目を爛々と輝かせて、皆一斉にそれぞれに斬りかかった。
黒煙を吹き上げる二本の剣が走り、爆発を伴った雷光がほとばしった。
遅れて轟く雷鳴の中、もはや立っている者は一人もいなかった。
ネルヴァはおもむろに歩き出し、リーダー格の男のところへ。
「それで、貴方方は一体何者なんです?」
リーダー格の男は口元から血反吐を吐きながら言った。
「ふん、誰が言うものか」
「決着が付いたんですから、教えてくれてもいいじゃないですか」
すると男が笑い出した。
「馬鹿め、我らはただの捨て駒よ……」
男はそう言い捨てるとガックリと首を落とし、事切れたのだった。
ネルヴァとレイナは互いの顔を見つめ合い、厳しい表情を浮かべるのであった。
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