第23話 宮殿
荷物を持って家を出た俺たちは、通りがかった馬車を捕まえ、一路宮殿を目指した。
とはいっても宮殿は家からおよそ半日はかかる距離のため、途中で一泊する予定だ。
母さんの病気のこともあるしね。無理は出来ない。
俺たちは馬車に揺られながら今後について話していた。
「ネルヴァたちは宮殿についたら、すぐに出ていく予定なのかな?」
「そうですねえ、多少は滞在するにやぶさかではありませんが、どうですか?」
ネルヴァが横のレイナに話を振った。
レイナは少しだけ考えてから答えた。
「次の依頼が舞い込むまでは、特に動く必要はないが、居れば居たで面倒だぞ?」
その表情にはなにやら苦いものが混じっている。
この言葉と表情が指し示すことは簡単だ。
王女様だ。
あの王女様に面倒ごとを押しつけられると考えているのだ。
「あのさあ、やっぱり王女様って厄介な存在なの?」
「ええ、もちろんです」「当たり前だろう!」
二人がほぼ同時に言った。
なるほど。
となると、これから生活を共にする俺は一体どうなるのだろうか?
先程の意気揚々とした気分が一転、やはり前途多難な気分となった。
だがそこで俺の表情をうかがって、ネルヴァが言った。
「貴方は大丈夫ですよ」
またそれか。王女様が俺に気があるって、本当なのかな?
「うむ。アリオンは問題なかろう」
レイナも続く。
う~ん、こればっかりは行ってみないと判らないか。
ならば出たとこ勝負で行くしかない。
俺は決意も新たに、しばし馬車に揺られ続けるのであった。
「もう間もなくだ」
レイナが、馬車の外を通り過ぎていく町並みを眺めながら言った。
俺たち一行は途中の町で一泊しつつ、ついに宮殿のある州都フローライトへとたどり着いていた。
「やっぱり州都だけあって栄えているなあ」
俺は高い建物が林立する町並みを見上げ、思わず感嘆の声を上げていた。
「州都は初めてですか?」
ネルヴァが俺に尋ねる。
俺は首を振りつつ答えた。
「いや、前に何度か来たことがあるよ。といっても何年も前で小さかったから、こうしてじっくり見るのは初めてさ」
「そうですか。それでは町の様子に驚かれるでしょうね」
「ああ。なんか華やかな感じがするよ」
するとレイナが横から割って入ってきた。
「そうか?アクアマリンはこんなものではないぞ?」
アクアマリン。
我がメリッサ王国の首都であり、王が治める直轄領の中心地だ。
メリッサ王国は古い歴史を誇る国であり、それと比例して文化が爛熟している。
そのためアクアマリンは、世界的にも憧れられる華の都であった。
「アクアマリンか。行ったことないけど、そんなに凄いの?」
「そりゃあもう凄いさ!なんせ世界の憧れの的だからな。もっとも観光客が多すぎて辟易とすることもあるがな」
「そうか、そんなに凄いのか。いつか行ってみたいな」
するとネルヴァがあごをさすりながら言った。
「近いうちに行けるのではないですか?王女様はアルト州を治める公爵として、定期的に王の元に参内して報告する義務がありますからね。その際、貴方も一緒に連れて行かれると思いますよ?」
「本当に?それだったら嬉しいな」
俺がそう言って、さらに町並みを眺めていると、レイナが前方を指さして言った。
「見えたぞ!」
俺は馬車から身を乗り出して、道の先を見た。
そこには煌びやかに輝く白亜の宮殿が鎮座していた。
「あれが宮殿か」
俺は躍る心を抑えつつ、迫り来る豪華絢爛な宮殿を眺め続けるのであった。
「こちらでお待ちいただきますよう」
俺たちは宮殿に入るや、豪華極まりない巨大なシャンデリアがぶら下がっている広大なエントランスホールを真っ直ぐ通り抜け、瀟洒な応接間へと通された。
「アリオンや、凄いね」
母さんが応接間の豪華絢爛な意匠に圧倒されている。
だよね。俺も同じ気持さ。
こんなところじゃまったく落ち着かないよ。
だが俺たちが座る間もなく、お呼びが掛かった。
「王女様がお会いになります。どうぞこちらにお越しいただきますよう」
丁重な物腰の召使いがそう言うと、その背後の扉が観音開きに開かれた。
俺たちがゆっくりとした足取りでその扉の向こうに出ると、そこには巨大な謁見室があった。
部屋の一番奥には舞台のように一段高い場所があり、深紅の絨毯が敷かれた上には、一脚の優雅な椅子が鎮座していた。
俺たちはネルヴァを先頭にして、舞台のすぐ下まで進んだ。
すると、ほどなくして甲高いファンファーレの音が鳴った。
母さんは驚き、ビクッと身体を震わせ、次いで硬直させた。
だがそれが王女様の登場セレモニーの一つだと判ると、さらに身体を硬直させた。
「大丈夫だよ。そんなに緊張しないでもいいよ」
俺は優しく母さんに語りかけた。
だが母さんは、そうは言ってもすぐさま緊張が解けるわけもなかった。
「でも……」
母さんが不安そうに俺を見る。
だがその時、メリッサ王国の第二王女にしてこの宮殿の主、アルト州の領主でもあるアルト公爵がその姿を現したのだった。
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