13
数日後、ロザーラは王立図書館で、仮面を被ったマルカラン王子と会っていた。
「久し振りだね、まさか舞踏会の後から会ってくれるとは思わなかったよ」
「私もです。本当ならオッカムを返してそれで終わるつもりでしたけど……少し大変な事になっちゃって」
「ステリックとの婚約だろ? 聞いたよ。なにせ連続で婚約破棄をしたんだ。奴の話は王家にまで届いちゃってるよ」
「そうですか……本当に、どうすればいいのか分からなくて……」
図書館の端、本に囲まれ陰に隠れた所で二人はコッソリとステリックの事を話しだす。
ロザーラはすぐにでも王子様と婚約したいと言いたいが、上手く話せないまま黙ってしまう。
そんな無茶な要求、王子様に出来る訳がないのに。
「……お父様が、ステリックと婚約するように言ったんです。そうすれば奴は婚約破棄の原因になった嘘を撤回するし、婚期が終わっている私にとって最後の機会だと。でも……貴方はステリックの事を調査するんですよね?」
「……そう、しなければいけないからね」
「なら……私と婚約してくれませんか? 仮初めでいいんです。ステリックに正義の鉄槌を下す時だけで構いませんから」
「それだと調査が終わった後はどうするんだ? 新しい相手はそう簡単に見つからないぞ?」
ロザーラはマルカラン王子の言葉に返事をせず、悲し気な顔をして黙っていた。
その顔を見て察したマルカラン王子は、重苦しく口を開く。
「……分かった。それで君がいいと言うなら、僕は婚約しても構わないよ。ただ……いや、何でもない。侯爵家との婚約は前代未聞だけど何とかする、約束だ」
「……ありがとうございます。それと、これを」
ロザーラは懐にある国一番のオッカムを取り出し、王子様に返した。
嬉しかったけど、私には大きすぎるもの。
「こんな宝石を受け取っても、私には恩返し出来ません。大きすぎますもの。ですからこのオッカムはお返ししますわ」
「いいのか? それにこのオッカムは僕が贈りたいと思っただけ、気にする事なんかないよ」
「いいのです。そうでもしないと踏ん切りがつきませんから」
「……そうか。なら、受け取っておくよ」
王子様にオッカムを渡し、少しスッキリとした表情になるロザーラ。
これでいいのよ。
ほんの少ししか続かない夢でも、王子様と婚約が出来るなら文句なんて言えないわ。
ロザーラはそれでも流れそうになる涙をグッと堪えながら、無理に作った笑顔で誤魔化す。
その痛々しい表情を、王子様は何とも言えない表情で見ていた。
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