婚約破棄...ありがとう..本当に感謝しかありません...本当ですよ。

石のやっさん

第1話  婚約破棄...ありがとう..本当に感謝しかありません...本当ですよ。

王立学園での生活も残す事後3か月となり、学園主催のパーティーが開かれた。

 

私の名前はマリア...この国の子爵家の娘で、何故か王太子フリード様の婚約者をしている。


正直、王太子の婚約者等は成りたくなかった。


そして、パーティの前に私のエスコートもしないで他の女のエスコートをしたフリード殿下からお叱りを受けている。


「数々のロゼへの陰湿な嫌がらせ。申し開きはあるか、マリア」


ロゼへの嫌がらせ...覚えは無いのだけど?


「ロゼへの嫌がらせ...身に覚えは無いのですが?」


本当に身に覚えは無い...確かロゼは男爵の令嬢で一度挨拶を交わしただけの筈です。


「身に覚えが無いだと! あれ程、陰湿な事をしながらお前という女は良心が全く無いのか!」


本当に身に覚えが無い...もし、本当に私がするなら...証拠等残さない。


「フリードさま...本当に何の事か解りません」


 周りは静まりかえり、生徒たちは距離を置いて私たちを見ている。


 誰もが、黙ってその様子を見ていた。


「待って、フリード殿下そんなにマリア様を怒らないであげて下さい」


「ロゼ、もう庇わなくて良いんだ、無視や取り巻きを使っての嫌がらせの数々、そんな陰湿な事を繰り返すような女なんてな」


 フリード殿下の言葉を聞いた周囲が、ひそひそと話し出す。


「俺は貴様のような女の婚約者であったことが恥ずかしい」


人の気も知らないで、普通の王妃になら少しは憧れはあったけど...この国の王妃に等、私はなりたくは無い。

それなのに無理やりさせられたんだ。


「では、フリード殿下はどの様にしたいのですか!」


「黙れ! 気安く俺の名前を呼ぶな!」


「そうですか、ではどのようにしたいかお決め下さい...」


 殿下は雰囲気に酔っているのか、両手を広げて声を上げる。


 まるで舞台に立つ役者のよう。


「今日この時より、フリード・ルーランはマリア・ポートランドとの婚約を破棄する!...そして、俺は、代わりにロゼ・クロウエルとの婚約を宣言する」


「それは王妃様もご存じなのでしょうか?」


多分知らない筈...あの女狐、いや王妃が知っていたらこんな事を絶対にさせない。

だが...言質を取らないと...まだ王妃や王様は来ていない。

私にとって最高のチャンスだ。


「まだ、知らせていない..だが」


時間が勿体ない...王妃が来たら水の泡だ。


「まどろっこしいです...王家として正式のお言葉か聞いております」


早く、早く終わらせないといけない...


「貴様、元婚約者とは言え、不敬だが…良かろう王家として正式の言葉として伝えよう」


やった、これだけの沢山の貴族の前での宣言だ取り消しはきかないだろう。


「謹んで、マリア.ポートランド婚約破棄をお受けします」


勝った...私は勝ったのだ。


私が簡単に受け入れた事で留飲が下がったのかフリード殿下は静かになった。

そして、少しだけだけど言葉を弱めた。


「そうか...潔いのだな」


「別に、罪は認めた訳ではありません...私はフリード殿下は嫌いじゃ無かったですが...この国の王妃の激務には耐えられそうもありませんでした...だから、その責を他の方が変わってくれるのなら譲ろうと思っていたんですの...ロゼ様、誓って下さい! 貴方はフリード殿下を愛してこの国の為に生きれますか?」


自分に酔っているロゼならちゃんと答えるだろう。


「私はフリード殿下を愛し...この国の為に生きると誓います」


「偽りはありませんか?」


「偽りはありません」


「では、貴方に婚約者の地位と黒薔薇の地位をお譲りします」


「あの、それは何ですの?」


「この国の王妃は別に黒薔薇という役職が貰えますの...それも譲りますわ」


「あの..マリア様..ありがとう」


無実の罪に2人して陥れたのだから良心の呵責があるでしょう?

いいのよ...そんな事..


「マリア...」


「もう、何も言わないで良いですわ...ロゼは素晴らしい方...お幸せに」


「済まないな...」


「私はこの国から出て行きます...流石に追手までは掛けないで下さいますか?」


「そこまでしなくても良い」


「いえ、ロゼ様にした意地悪は身に覚えがありません、ですが未来の王妃が言ったのですから私に何か手落ちがあったのでしょう..それで許して下さいませ...フリード殿下、ロゼ様」


「フリード様、私はもうこれで良いです、マリア様の言う通りにしてあげましょう...私は許します...ただのボタンのかけ間違いかも知れません」


「解かった..認めよう」


やった、やったわ。


事件の事を衛士が伝えたのか、いきなり王妃をはじめ、王や有力貴族が入ってきた。


もう、遅い。


学園主催のパーティーは延期になり、生徒は全員帰された。


「婚約破棄とは何事ですか?」


「たった今、マリアとの婚約破棄をして新たな婚約者にロゼを指名しました」


「フリード...それは正式な言葉として発してしまったのですか?」


「はい、王家として正式な言葉として伝えましたが何か問題でも?」


「マ、マリアはそれを受けたのですか..受けないわよね」


「いえ、しっかりと受けさせて頂きました...黒薔薇の地位もロゼにお渡ししました」


「そ、そうなの...貴方以外に黒薔薇になれそうな者は居なかったのですが...仕方ないですわね...決して貴方が罠を仕組んだ...そういう事では無いのね」


「はい、私は嵌められた方ですね」


「しれっとして...まぁ良いわ...それでどうするの貴方は?」


「国から出て行く許しも得たので隣国にでも行って冒険者にでもなるつもりです」


「私の全てを教えた貴方なら可能ですね...さようなら」


「待て、女公爵の地位を与える、息子も廃嫡する..この国に居ては貰えぬか?」


「私は王妃様の技は身に付けました...だが心までは身につかなかったようです...欠陥品の私は真の黒薔薇にはなれそうもありません」


「そうか...せめて敵にはならない、約束をして貰えぬか?」


「それは約束しましょう..お世話になりました」


「実家には顔を出さぬのか?」


「出さないで国を出るつもりです..黒薔薇になった私にはもはや形だけの親子ですから」


「そうか、ならば国を出るまで馬車で送ろう...金貨も30枚出す、宝物庫の中から好きな剣を一つ譲ろう...その代り..」


「そちらが関わらない限り敵にはなりません...ご安心を」


「長い間ご苦労様でした...言えた義理ではありませんが..幸せに暮らしなさい」


「有難うございます王妃様、いや師匠」


「師匠と呼んでくれるのね」


「はい...それでは失礼します」




「あの母上、黒薔薇とは何ですか...何故あそこまで去るマリアを厚遇するのですか」


「貴方には説明していませんでしたね...黒薔薇とは王家に全てを捧げて王家を守る剣です」


「王家を守る者...それは一体」


「それについては、これからロゼが試練を受ける事になる...これから見る光景を見よ」


「はぁ..私はマリア以外にこれが出来る人間は居ないと思っていたのに..」


「母上?」


「この試練に失敗すれば...ロゼ殿には死んでもらう事になるわね」


「王妃様..冗談ですよね、その位大変な試練という事ですよね」


「.........」


王様も王妃も黙っている。

そして、その周りにいる古くから仕えている貴族も沈黙している。


「どうやら連れてきたようですね...」


そこには猿轡を噛まされた、クロウエル男爵、男爵夫人、妹のマーガレット嬢が居た。


「この者たちは、貴方を王妃にしてこの国の乗っ取りを企てていた」


「王妃様、決してその様な事はございません」


「ロゼ、この王妃が嘘を言っていると言うの? 本来なら貴方もこの中に加わり処刑される筈なのだけど、黒薔薇になるなら、その罪は許されます。」


「.....」


「だから、これから先々代黒薔薇の私に習ってやりなさい」


王妃は相手にクロウエル男爵を選んだ。

王妃は、手にナイフを持ち、クロウエル男爵の目を二つともくり抜いた。

「ううぅううぅうううううー」

猿轡をされていても、響き渡る程の大きな声で悲鳴が聞こえる。

だが、これ程の事が行われているのに...貴族も王も何も言わない。


「母上..なぜその様な事を」


「黙りなさい...母の姿を見るのです」


「あの、王妃様...」


王妃は無視すると、次に鼻を切り落とし、両手の指、足の指全部を切り落とした。


「出来るだけ、苦痛を与えながら苦しませるようにし死なせないのもコツの一つです」


「うっうええええ」


「フリード吐くなんて情けない...まぁ本来は貴方は見ない光景ですからね、王だって数回しか立ち会った事はありません」


「母上..うえっぷ」


「さぁ次はペニスですよ..睾丸をくり抜いて、切り落とします..ロゼ嬢が気絶したようですね、起こしなさい」


「王妃様...私には出来そうもありません...お許し下さい」


「無理ね..貴方はマリアから王妃の地位と黒薔薇の地位を奪ったのだから..おや絶命したようね...本来は声を聴きながら尋問の手段としてこのような拷問をします...声を聞かないで良いのは貴方が初めてだから配慮しました」


「母上...許しては貰えないだろうか、ロゼには無理だ」


「フリード貴方は知らなかったのだから仕方ない..だけど、この国の王妃になる者は黒薔薇の役目も担わなければいけない、出来ないじゃ済ませられない」


「王妃様、お許し下さい...」


「だから無理、ねぇよく考えて...マリアは黒薔薇だったのよ、当人は嫌がっていたけどその才能は私以上だわ、だから本来は王妃になってから継がせる黒薔薇の地位を先に譲ったの...そんな彼女がもし貴方が気に食わない...そう思ったら、確実に拷問してこれ以上ない地獄を経験させ殺すわよ?..しかも誰にも気づかれずにね」


「母上...それは」


「そう、貴方達二人の狂言ね...その為に貴重な黒薔薇を失った...私が小さい頃から教え上げた黒薔薇を」


「母上...お許しください」


「えぇ許すわよ...だけど、あの子が貴方にどれだけ尽くしていたか教えなければ可哀想じゃない?」


「さぁ、ロゼ...そうね、妹の方を殺しなさい...最初からナイフで切るのは難しいでしょう? だから硫酸を用意したの...これならただ掛けるだけで苦痛が与えられるし、醜くなっていく絶望感を味あわせる事が出来るわ」


「母上、お許しください...廃嫡でも構いませんから..」


「無理ね、あの娘は居ないの...貴方達の代わりにこれを行ってくれた彼女はもう居ないの」


「.........」


「ねぇフリード、マリアが今迄に何人殺したか解る?」


「知りません」


「三十二人よ...貴方が暗殺されそうになる度に未然に防いで相手を殺してきたわ」


「そんな、知りませんでした」


「そうね、貴方が呑気にその女にうつつを抜かしている時もあの娘は人を殺していたわ」


「そんな事があったのですか」


「貴方が学園で暗殺者に殺されそうになっていた時にあの娘は相手を殺して、背後関係を洗って裏騎士と共に皆殺しにしていたわ」


「.......」


「王族が安全に過ごせるのは黒薔薇のおかげなのよ」


「知らなかった、僕は知らなかったんだ」


「私は王妃だけどマリアの前の黒薔薇...自分の全てを投げうって王家を守る者のみ黒薔薇になれる、そしてそれは王家の敵になるなら、身内も笑って殺せる...そうならなければ成らない..マリアが居なくなってしまった以上...当代の黒薔薇はロゼになる」


「わ、私には出来ません」


「貴方、マリアから次期王妃の座と黒薔薇を奪ったじゃない..黒薔薇に成れなければ王妃にもなれないわよ」


「黒薔薇にならないと王妃に成れないなら...王妃にならなくて良いです」


「だ、そうよ貴方」


「ならば、ロゼを含むクロウエル男爵家の者はギロチンによる処刑にする」


「母上、父上...ロゼは許してもらえないだろうか?」


「フリード...貴方は自分の心配をしなさい、貴方には黒薔薇が居ない...私は王は守るけど..自らの黒薔薇を捨てた、貴方は守らない」


「母上...」


「黒薔薇抜きで何年生きられるのかしら? これが貴方への罰です」


「解りました」


それから数週間後、学園の卒業を前にフリードは殺された。

黒薔薇が居ない..その情報が流れたからかも知れない...


それから数年後、隣国に凄腕のマリアという冒険者が現れたらしいが、それがこのマリアかどうかは定かではない。





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