第69話 国王の最後

この場所では多くの人が括れないと考えコロシアムをどうにか出来ないか考えていたら、あっさりと手に入ってしまった。


コロシアムの所有者は驚く事に《くくり教徒》だった。


コロシアムの様な物を経営する人物なら、絶対にイシュタスの信者がと思ったのだが、コロシアムを持っていた地主の子供が病気を患い、死に掛けていて教会のヒールも回復薬でも治らなかった、そこで一縷の望みに掛けて、アンデルさんの教会に頼ったら、僕の前に連れて来られ、知らない間にオーナーと子供を僕が【括って】いたらしい。


まぁ日本に括られてしまったら、コロッセオ等経営出来ないのと、子供が病院に入り見事に治った事もあり...寄進してくれるそうだ。


これは実にありがたい。


大きな場所があれば一遍に沢山の人を括れる。


これにより【括れる】人数が凄く増え、今迄と違い、1000人単位で括れるようになった。


括り残しがあると怖いから、床のタイルの一部にイシュタスを彫刻してコロシアムに入る為には何回も踏みつけなければ入れない様にして貰った。



僕の仕事はと言うと、最早【括る】以外の仕事が無くなってしまった。


何もしなくても本職のシスター達が教義を伝えて、解らない所だけを僕に聞く。


手続きで解らない事はギルドで聞く。


流石、プロだけあって抜かりなく進めてくれる。


凄く優秀だと思い聞いて見たら、イシュタル教に比べればはるかに覚えることも少なく楽だそうだ。


そして、まだ教本も無いからこれもまた、作ってくれるみたいだ。


人任せで本当に申し訳ないと思う。


だが、「何を言うのです、我々は偉大なるくくり姫様の聖書を作る事に参加できるのです、こんな光栄な事はありません」


と言われてしまった。



そんな事もあり、今では僕が思った以上の速さで《くくり教》は広まっていった。



そして驚く事に、とうとうエルド6世を含む王族が《くくり教徒》になった。


これは、この世界の仕組み上王は、くくり教徒になるしか道は無かった。


今迄は裁判の権利は貴族にしか無く、その裁判は王がしていた。


つまり、裁判官は王だった。


ここで、矛盾が生じた。


日本に括られている、くくり教徒は裁判権があり、日本の法律で裁かれる。



つい最近の事だ、オルディアン公爵の乗る馬車が平民を跳ねた。


今迄なら当然の様に泣き寝入りになるが、この跳ねられた平民がくくり教徒だった。


その為、跳ねた馬車に乗っていたオルディアン公爵の御者が、裁判で裁かれる事になった。


貴族の身内が訴えられて平民に裁判に掛けられるのも苦痛なのに...裁判長である王の判断は実刑判決。


御者は救護措置をしなかった、馬車が街中を凄い速さで走っていたから危険運転致死傷罪に問われた。


公爵は乗っていただけだから罪には問われなかったが、事前に王に頼みお咎め無しの約束だったのに、蓋をあけてみたら、自分の御者は牢屋に繋がれた。


面目を潰された公爵は王家に恨みを持つようになった。



酒癖の悪いドルヒト伯爵の長男が、花売りの少女を仲間と襲い三人で犯した。


普通なら、平民に裁判の権利は無く、泣き寝入りの筈が、何故か王によって裁かれ牢に繋がれる事になった。


伯爵が王に慈悲を請うたが、そのまま数年牢に繋がれる事は覆らなかった。


そんな事が度重なり、王が貴族を守らない事から、貴族と王との間に亀裂が生じた。


多分王は、裁判長になり日本の法律に括られたから、貴族に便宜が図れなくなっているんだと思う。




その結果が、王自らが身を守る事が出来なくなり、くくり教徒になるしか無かったのかも知れない。


だが、これで良かったのか?



この国アレフロードは勇者召喚国だった筈だ、僕らが目を覚まして最初に目にしたのは王女マインと国王エルド6世だ。


教皇でも枢機卿でも無くこの国の王族だった。


括られる為に訪れた王族に会った瞬間、三浦さんも湯浅さんも水上さんも平城、東郷さんも能面の様な顔になった。


殴りかかったり、怒鳴ったりしないだけ良いと思う。




普通に考えたら、王族が黒幕と考えて良いのかも知れない。


だが、話を聞いて見ると、勇者召喚は持ち回りでおおよそ、10年から20年に一度各国の持ち回りで行うそうだ。


ならば、召喚は仕方ないだろう...


だが、その後の対応は最悪だ、この国のせいで皆んなが不幸になった。


他の皆は兎も角、勇者の祥吾を見捨て、あんな姿になった東郷さんを見捨てた事は絶対に言い逃れは出来ない。



しかも、会った時に王たちははすぐに【括れる】状態だった。


国王は勇者召喚で多かれ少なかれ利益を得たはずだし、王女マリンはかなり信仰していた筈だ。


立場が変わるだけで、これなのか?


だが【括らない】訳にはいかない...こいつ等を括る事はこの国を変える為には必要な事だ。


無念さを噛みしめながら、僕は王族を括った。



これで良い...そう自分に言い聞かせ【括った】


これで此奴はもう名ばかりの王だ、日本に括られた以上は《日本人》そう思うしかない。



「あの、私はこの様な惨い目にあっていた何て知りませんでした、お詫びします、本当にすみませんでした」


「余も知らなかったのだ本当にすまない」



形だけの詫びなんて要らない...



「そんな嘘はどうでも良い、他の者は兎も角、元剣聖である東郷さんは確実に貴方達が見捨てた、ですが【くくり姫様】は慈悲深い女神、そんな貴方達ですら救いになられる、私は貴方達を冷静に見ることは出来ない、ちゃんと教徒にしましたから後は他の者から説明を受けて下さい」




見ているのも不愉快だったので、アリナさんに後を任せて僕達は元王に背を向けた。




【礼二SIDE】



「ごめん、国王は罰せなかった」


「仕方ないよ、【括る】それしか出来ないんだから」


平城さんや水上さん、東郷さんは本当に悔しそうな顔をしている。


だけど、悲惨な目にあった筈の三浦さんや湯浅さんは思った程悲しそうな顔をしてない。


一番悔しそうなのは東郷さんだった、当たり前だ彼女は手足を失ったのだから。



だが、事態は思った以上に違った展開になっていった。


何やら元王とギルド職員が揉めていた。




【王族SIDE】



「エルド様、マリア様、貴方達は日本に括られました、日本には王族はおりません、正確には皇族はおりますが、貴方達の血脈にその資格はありません。日本に照らし合わせて考えた場合は、総理大臣と最高裁の裁判官を合わせた地位がエルド様の地位になります、その為エルド様は総理大臣兼最高裁裁判官となります、マリア様他王族は議員扱いとなります、この先、選挙や国民審査にて地位を失う事もあるとお考え下さい。また今後の収入は国庫に納められ、そこから総理大臣の年収4000万 最高裁裁判長として2400万合計6400万のみエルド様に支払われます、マリア様達王族は今回は議員扱いとして暫定的に給料が支払われますが、これは選挙が行われるまでの暫定処置となります、王宮やその他の施設で公共で使える物はそのまま、議事堂や裁判所の扱いで国の物になります、逆に明らかに私邸扱いになる物は個人所有となりますが固定資産税が今後掛かります...とはいえ直ぐには難しいのでこれらは順次行って行く事になります」



「それはどういう事なのだ? 良く解らぬ」


「その話では私は王女で居られない、そう言う事でしょうか?」



「はい、日本には【王族】は居ませんし、税金を払わないで済む存在はおりません」



「そんな、王で無くなるなら余は、くくり教徒等になるつもりは無かった」


「私だって、そんな...」



「衆議院の議員選挙までの暫定処置なので4年後には、今の地位も無くなる可能性があります」


「お前が何を言っているのか解らぬ」


「そうよ、本当に解らないわ」



「もし解らなければ、冒険者ギルドが今、全てを賄っていますので、そちらで聞いて下さい」



「ギルドの責任者はギルマスだろうが、王に意見等は出来ぬ筈だ」


「貴方はもう、王ではありません、ですが、何故私もギルドがこんな事をしているかは説明がつきません」



「もう良い不愉快だ帰る」


「私も帰ります」




この瞬間から、この国から王族は居なくなり、貴族もその役職に合わせた議員の扱いに変わってしまった。






※余り専門的な話を入れると面白みが欠けるのでこんな風にさらっとしました。

 かなりいい加減なのはお許し下さい。

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