後日譚 第23話
顔立ちが整っている人間は、何を身に着けてもかっこいいということが分かるな。
多分だが、グラハムにあげたタリスマンを俺が身に着けたら酷くダサく見えると思う。
「かなり似合っている。タリスマン自体はあまり良いデザインじゃないはずなんだけどな」
「そんなことありませんよ。私はかっこいいと思いましたし」
「まぁそう思ってくれているなら良かった」
「これで効果も付いているんですもんね。ロザリオを貸しただけですのに、本当にありがとうございます」
深々と頭を下げてきたグラハムだが、俺のために枢機卿を裏切ってくれた訳だからな。
謙遜しているが、タリスマンでも安いくらいのことをしてくれたと俺は思っている。
「お礼を言いたいのはこっちだ。改めて今回は本当にありがとう。それじゃ……無事の報告もできたし、渡すものも渡せたから俺はもう行く」
「もう行ってしまうんですね。時間があればもっとお話ししたかったのですが……」
「この後に用事があるんだ。グラハムも仕事中だろ?」
「仕事中ですが、私は少しサボるくらいなら可能ですよ。まぁでも、クリスさんに用事があるのなら厳しそうですね」
「すまないな。また時間を作った時にゆっくりと話そう。グラハム行きつけの店にも行きたいしな」
「ええ。その時はまた案内させてもらいます」
グラハムと食事の約束をし、握手を交わしてから俺は足早に教会を後にした。
かなり急ぎ足になってしまったが、この後はミエルとアレクサンドラにもプレゼントを渡さないといけないからな。
ラルフとヘスターにも買い物を頼んでいるし、グラハムとはお礼参りが終わった後に時間を作ってゆっくりと話をしよう。
そんなことを考えながら、俺は早足で宿屋に戻ってきた。
かなり早めに戻ってきたため、買い物に行ってもらった二人はまだ帰っていないかもと思ったのだが……。
部屋に入るなり、二人の話し声が聞こえてきた。
「おっ! クリスが戻ってきた!」
「二人とももう戻ってきていたのか? それともまだ買い物に行っていないとかか?」
「ちゃんと行ってきたわ! 栄養剤もバッチリ買ってきてあるっての!」
「私達もついさっき戻ってきたところでした。クリスさんも戻ってくるの早かったですね」
「二人を待たせていると思ったし、これから行きたい場所もあるからな」
「行きたい場所ってどこなんだ?」
「王城とエイルのところだ。もうお礼参りを行いたいと思ってる」
「え? もう回るのか? 俺はもう少しゆっくりしても良いと思うけどな!」
俺もそう思っていたしラルフの気持ちも分かるが、報告が遅れると無駄に心配をかけさせてしまうと分かったからな。
グラハムにも心配させていたし、特に急ぐ理由はないが早めに報告するに越したことはないと気づかされた。
「ゆっくりしたいのも山々だが、俺達のことを心配してくれている人達がいるのが現実だからな。その人達に無駄な心配をかけさせるのも悪いし、早く報告した方がいいだろ?」
「まぁ……それもそうか! ゆっくりするのは報告した後でもできるし、先に報告も兼ねてお礼参りをした方がいいのか!」
「私も賛成です。そうと決まればすぐに動きましょう。それで先にどちらに向かうのですか?」
先にどっちに向かうかまでは決めてなかったが、エイルの居場所が分からないしまずは王城だろうか。
アレクサンドラに会うついでにシャーロットに会って、エイルの居場所を聞き出すのが効率的なはず。
「先に王城に行こう。エイルの居場所が分からないからな」
「了解! 俺はもう準備できているぜ!」
「私も準備万端ですよ。クリスさんは何か用意しますか?」
「いや、俺もこのまま出発できるから向かうとするか」
宿屋に着き、特にゆっくりすることもなくすぐに出発することになった。
目指すは王城で、アレクサンドラにタリスマンをプレゼントすることが目的。
本当はこの流れでシャーロットにもプレゼントを渡したいところではあったが、肝心のプレゼントの用意ができていないからな。
エイルの居場所を聞き出すだけになってしまうが、その時に何かプレゼントを買ってくることを伝えれば問題ないはず。
三人で雑談を交わしながら王城を目指して歩を進め、あっという間に王城に辿り着いた。
つい先日来たばかりのため、アレクサンドラの居場所は分かっている。
まずはアレクサンドラの下に向かってから、アレクサンドラにシャーロットの部屋まで案内してもらうのがいいだろう。
「うおー! 遠くからは見ていたけど、近くで見ると凄い迫力だな!」
「私も中に入るのは初めてですね。案内はクリスさん任せで大丈夫ですよね?」
「ああ。来たばっかりだし、流石に道は覚えている。まずはアレクサンドラの下に向かう」
「了解! なんかワクワクしてきたぜ!」
城の中に入れるということで、異様にテンションが高くなったラルフ。
悪目立ちするし止めてほしいところだが、言ったところでテンションが低くなることはないし放っておくしかない。
珍しいものを見る度に大袈裟な反応の見せるラルフを無視し、一直線でアレクサンドラが滞在している三番隊の隊長室に向かった。
王城の中に部屋がある時点でアレクサンドラがかなり優遇されているのが分かるし、部屋の大きさ自体もかなりのもの。
流石はシャーロットと仲が良いだけはある。
「この部屋がアレクサンドラの部屋だ」
「三番隊隊長室……! 隔離された訓練場所の近くにあるのかと思ってたけど、思いっきり城の中にあるんだな!」
「この扱いを受けているのはアレクサンドラだけっぽいけどな。他の隊の隊長の部屋は見なかったし」
「愛称で呼ばれていましたし、シャーロットさんの部屋から近い方が何かと便利——みたいな理由なんですかね?」
「多分そんな理由だと思う。とにかく中にアレクサンドラがいることを願って、ノックして呼び出すとしよう」
【生命感知】で中に人がいることは分かっているが、これがアレクサンドラの反応なのかはまだ分からない。
まぁ九割九分、アレクサンドラだとは思うけどな。
そんなことを考えつつ、俺は隊長室をノックした。
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