第150話 時が経ち……


 俺達がカーライルの森に籠り、約三ヵ月が経過した。

 俺はとにかく有毒植物の摂取を行い、朝食以外はほぼ有毒植物だけを食べる生活を行った。


 やはり室内で育てるよりも屋外で育てた方がいいのか、自家栽培の植物の成長も著しく、自家栽培だけでかなり植物を採取することができている。

 能力上昇のほどが分からないため、一日の摂取の半分はカーライルの森で採取したもの。

 もう半分は自家栽培で採取したもので補った。


 能力判別を行えていないため、正確な能力についての把握はできていないが……。

 最初は数時間で疲弊しきっていたスキルの練習だが、一日中行っても体力が尽きないほどには体力は上昇しており、筋力に至っても目覚ましい成長を遂げている。


 スキルに関しては単純に体力が上昇しただけではなく、スキル操作が上手くなったことが起因している可能性もあるかもしれないが――筋力は嘘をつかない。

 俺は能力に関して、強くなったと自信を持てるくらいの力を身につけることができた。


 それからなんといっても……オンガニールについてだ。

 ラルフとヘスターは毎日一匹ずつ、様々な魔物をどこかしらから狩り、拠点まで運び込んでくれていた。


 依頼を受けての討伐ではないため魔物の強さとかは分からないが、運んできてくれた約三分の一の計二十六体の魔物からオンガニールが成長。

 俺はこれら二十六体の魔物とレッドコンガ、そして――アルヤジさんから成ったオンガニールの実を摂取した。


 能力判別を行えていないため、何のスキルが身についたのか分からないのだが……。

 唯一、アルヤジさんから授かったスキルだけは分かっている。


 アルヤジさんが保有していた十八個の内、俺が授かることができたのは八個。

 【痛覚遮断】【疾風】【剛腕】【生命感知】【知覚強化】【知覚範囲強化】【隠密】【凶戦士】。


 アルヤジさんからスキルの詳細を聞いていたため、記憶していた全てのスキルを試したのだが、発動したのはこの八個だけだった。

 ラルフの【神撃】や【神の加護】のように、発動条件があるスキルの可能性もあるかもしれないが……俺が身につけることができたのは、この八個のスキルだけだと思う。

 

 グリースの【体型膨張】を得られなかった時から、薄々そうではないかと思っていたのだが、今回でそれが確信に変わった。

 オンガニールから得られるのは、通常スキルのみで特殊スキルは得ることはできない。


 特殊スキルの効能が大きすぎる故なのか分からないが、今まで俺が身につけることができたスキルは全て通常スキル。

 アルヤジさんから授かったスキルも全て通常スキルだったことから、この仮説は正しいと思う。


 話を聞いていた限りでは、アルヤジさんの少ない体力では使うこのできなかった特殊スキルもあり、俺が受け継ぐことができれば活用できると思っていたのだが……こればかりはどうしようもない。

 通常スキルといえど全てが使えるスキルのため、受け継いだこのスキル達をフル活用し、アルヤジさんの思いに応えるべく――片腕の男、カルロを殺すと俺は決めた。


「クリス、本当にオックスターに戻るんだよな?」

「ああ、オックスターに戻って――カルロを殺す」

「そうか。……今回は俺も参加するからな。レオンさんの仇は俺が討つ」

「……心情を曲げたくらいだもんな。サポート頼んだぞ」

「私もやりますよ。【銀翼の獅子】さん達には、私も助けてもらいましたから」


 三ヶ月経った今でも、二人の怒りは収まるどころか更にたぎらせている。

 ラルフに至ってはカルロに勝つために攻撃を捨て、この三ヶ月間ずっと防御面に関してを鍛えていた。


 俺は止めたのだが、短期間で強くなるためには――と断固として聞かなかった。

 ……ただ、その判断は正しかったようで、ラルフは俺の想像よりも遥かに強くなっている。


 スキルを活用した俺の攻撃を防ぐだけの能力があり、ヘスターの中級魔法をも防ぐ力を身につけた。

 ヘスターだってこの三ヶ月間、ラルフが防御面に特化したことから、魔物の討伐は全てヘスター一人で行っていたため、実戦での魔法の扱いがより上手くなっている。


 オンガニールを軸に急成長した俺に、二人も更なる成長を遂げてくれた。

 欲を言うならば、あともう三ヶ月は修行に励みたかったが、貯め込んでいた資金が底を尽きそうなため仕方がない。

 金はほとんどなくなってしまったが、それに見合った成果を得ることはできたと思う。


「そんで、カルロはオックスターにいるんだよな?」

「ああ、毎週森の入口まで来てくれているシャンテルが、逐一カルロについての情報を教えてくれていた」


 シャンテルの話によれば、カルロがオックスターにやってきたのは一ヶ月前。

 つまりは俺達が森に籠ってから二ヵ月が経った頃だ。


 俺がオックスターにいるという情報を持っているのに、遅すぎる到着だと思うが、どうやらカルロはそういう性格らしい。

 オックスターに滞在しているこの一ヶ月も、まともに俺を探している気配はなく、酒場を転々としながらたまに俺の話を聞くという生活を送っているようだ。


 恐らく依頼主であるクラウスに対しての忠誠心がないのか、仕方なく捜索しているだけという様子。

 ただやること全てにおいて残忍極まりなく、カルロと揉め事を起こした奴は全員消えているとのこと。

 証拠は綺麗さっぱり残っておらず、実力もあるため咎めることができないようだ。


 性格は極悪非道で、実力は冒険者ならダイアモンドランク級。

 全てにおいてグリースの上をいく悪党のようだ。


「オックスターについたら、すぐに戦闘を始めるんですか?」

「いや、戦闘を始めるのは夜だ。昼間の内に準備を進めて、カルロがよく行く酒場に顔を見せる。揉めた連中を隠れて殺していることから分かるように、目立った行動は取らないからな。カルロの方から人気のないところに誘い出してくれるはずだ」

「これからの動きについては分かったぜ。それならさっさと森を抜けようか」

「そうですね。久しぶりのオックスターの街、少し緊張しますね」

「昼間にカルロと遭遇したくはないからな。スキル全開で俺が索敵するから、二人は俺から離れないようにしてくれよ」

「了解」

「分かりました」


 拠点で今後の動きについてを話してから、俺達は三ヶ月ぶりのオックスターを目指し、カーライルの森を後にした。

 ちなみにだが、俺が育てたオンガニールの大体は綺麗に片づけてある。


 アルヤジさんのものに至っては、実を一つだけ採取した段階で作付されたオンガニールを綺麗に除去し、カーライルの森の拠点近くに埋めて簡易的なものだが墓も立てている。

 墓前でカルロを殺して必ず報告に戻ることを誓い、オックスターを目指して歩を進めた。

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