第145話 違和感


「クリス! やったのか?」

「ああ、絶命したと思う」


 すぐに駆け寄ってきたラルフにそう声を掛ける。

 ……それにしても強かったな。

 

 【肉体向上】に【戦いの舞】があれば余裕で倒せると思っていたが、全然そんなことはなかった。

 全員で連携を取ってギリギリの勝利といった感じだ。


 ――ただ、これでレッドコングをオンガニールの宿主にすることができる。

 危ない橋を渡ったが、それ以上の成果を出すことができたと思う。


「なんとか勝てましたね。正直、ここまで強いとは思っていませんでした。【フロストアロー】も完璧に当てたのに、レッドコングは少し怯んだだけでしたからね」

「俺も少し舐めてた部分があったな。そんな中ヘスターもラルフもよくやってくれた。もちろんスノーもな」


 俺の足に体を擦りつけるスノーを撫でながら褒めてから、俺はレッドコングの処理を行う。

 斬り飛ばした腕は燃やし、左耳だけは剥ぎ取ってから――残りはカーライルの森へと運ぶ。


 巨体な上に筋肉量も凄いため、相当な重さがあるのだが……リザーフの実で筋力をつけた今なら余裕で運ぶことができる。

 めちゃくちゃ目立つし、引きずるような形でかなり持ち運び難くはあるけど、カーライルの森はオックスターまでの道中にあるからまだマシだ。


「レッドコングもやっぱ持って帰るんだな」

「ああ、スキルを会得するのに必須だからな。持ち運べる距離の死体は極力持っていくようにしている」

「あの、詳しいことは聞いたことがなかったので聞くんですけど、クリスさんのスキルってどうやって会得しているんですか? 死体と聞いて一つ思い浮かんだことがありまして……。私の記憶が正しければグリースが持っていたスキルと同じな気がするんですよね」

「あっ! 確かに、クリスの新しく会得したスキルってグリースが使っていたような気がする!」


 そういえば詳しくは説明していなかったんだっけか?

 てっきり説明していたと思ったが、オンガニールの存在についてを教えただけだったようだ。


「超危険な毒草が、スキルを会得できる植物だって話はしたよな?」

「はい。近くによるだけでも、死んでしまう可能性のある植物でしたよね?」

「そうだ。その植物は生物に作付して成長する植物で、作付した生物から栄養――つまりはスキルも吸い取る。そのスキルを吸い取った植物を食べることで、俺にスキルが渡るって仕組みだ」

「つまりは……グリースで成長した植物を食べたから、グリースの持っていたスキルを会得できたという訳ですか?」

「そういうことだ。このレッドコングを使って成長させれば、レッドコングのスキルが手に入る」

「それ本当かよ! ……そんな気味の悪い植物、よく食べることができたな」

「実物はラルフの想像している何倍も酷いぞ。強くなるためだと割り切って食ってはいるが、正直食べなくてもいいなら一生食べたくはない」


 オンガニールの説明にヘスターは関心し、ラルフはオンガニールにドン引きしている。

 

「ということはよ……。スキルを持った人間を大量に殺し、殺した人間で植物を育てれば、クリスは一気に最強になれるってことだよな?」

「極論を言ってしまえばそういうことだな。そんなことは絶対にやるつもりはないし――こうやって魔物を使うのだって、周りの目を気にしているぐらいだからな」

「魔物の死体を森に運びまくる人なんて、確かに怪しいですもんね。事情を知らなければ、カルト宗教の信者か何かと思ってしまいます」

「そういうことだ。怪しまれて調査でもされたら、大量の人がオンガニールの毒で死んで、大事件に発展する可能性だってあり得るからな」


 毒を扱っていて特殊な方法を選んでいるからこそ、慎重にやらなくてはいけない。

 俺の家族やグリースを見て、他人に迷惑をかけるようなことはしたくないと心に決めているからな。


 そんな会話をしながらオックスターを目指し、北東の山林地帯を進む。

 山林地帯を抜け、カーライルの森が見えてきたところで、俺は一人別れてカーライルの森へ目指すことにした。


 既に夕方となっており、夜の森をレッドコングを背負ったまま進むのは危ないということで、二人もついていくと言ってくれたのだが……。

 オークジェネラルの時に分かっているが、ゴブリンやコボルトは見た目のみで強さを判断するため、レッドコングを背負っていれば、襲われることはないと知っている。


 付き合わせる必要もないし、先に戻って依頼達成の報告をしてくれた方が色々と都合がいい。

 そういう理由から俺は二人の申し出を断り。一人でカーライルの森を突き進んでいくことになった。


 レッドコングを背負っているということで、この間と同じようにゴブリンやコボルトには襲われることなく、快適に森の中を進んでこれている。

 狭い道とかでは死体が引っかかるし、運び難さはもちろんあるのだが、うじゃうじゃといる魔物が襲ってこないのは非常にありがたい。


 丁度日が落ち、辺りが暗くなってきた頃に拠点へと着き、俺はそのままオンガニールの場所へと向かう。

 独特の嫌な空気感を頼りにオンガニールの場所に辿り着くと、そのままレッドコングの死体を近く下ろし、さっさと拠点を目指して帰ることにする。


 ついでに実が成っていれば、採取しようと思っていたんだが……。

 残念ながらまだ成熟しきっていないようで、小さい実にしかなっていなかった。

 今回は採取は諦め、そのままオックスターへと戻るとするか。


 レッドコンガとの戦闘の疲れもある中で、帰りは魔物がじゃんじゃかと襲ってくることが予想される。

 拠点で一夜明かしたい気持ちに揺られながらも、戻らなければ二人を心配させてしまうため、俺はオックスターを目指して歩を進めた。



 カーライルの森の拠点を離れたのが夜だったため、オックスターに着いたのは人も一切見えなくなった真夜中。

 オークジェネラルの時もそうだったが、討伐してからオンガニールの場所まで運ぶとなると、どうしても帰還が深夜となってしまう。


 次からは事前に報告しカーライルの森の拠点で寝て、朝一で帰還することを心の中で決めながら、重たい足を動かしてようやく家へと戻ってくることができた。

 家の明かりはついてはいるが、もう寝静まっているだろうな。


 そんなことを思いながら庭を進んでいくと、いつもと違う違和感のようなものを覚える。

 地面を凝視して見てみると、血のようなものが線のように家まで続いており、その血の線を目で追っていくと玄関前に誰かが倒れているのが見えた。


 夜中で辺りが真っ暗な中、その人物は真っ黒の衣服に身を包んでいたため、庭に踏み込んだ時には認識することができなかったが……一体誰だ?

 体の大きさから推察するに、ラルフやヘスターではないことだけは分かる。


 血の量からも分かる通り重体を負っているようで、倒れている人物からは気配もほとんど感じらない。

 頭を過ったのは、ノーファストで俺を探しているという人物。

 ただ、腕は二本あるように見えるし、その人物ともかけ離れている気がする。


 頭の中で色々と考察をするも、結局誰だか予想をつけることができなかったため、俺は警戒しながらも家の前で倒れている人物に近づく。

 かなり近づき、その全身がしっかりと見えたところで―――俺はその人物が誰だかを一瞬で理解することができた。


「…………アルヤジ――さん?」


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