第138話 修行の成果
更地にぼっこりと穴が空いている遺跡。
階段を下りて行くと、遺跡の中から轟音が聞こえてくる。
扉が閉まっているのにも関わらず、魔法の音が漏れ出ているようだ。
魔法についてはよく分からないが、何やら凄いことが起こっているということだけは分かる。
期待を込めつつ、重く閉ざされた扉を押し開けると――。
目が眩むような強烈な光が、目の前から飛び込んできた。
【肉体向上】【要塞】
咄嗟に無詠唱でスキルを発動させる。
即座に鉄の盾を構え、飛んできた光――唸るような炎の球を弾き飛ばした。
「な、なんだいきなり!? 今の【ファイアボール】か?」
「ああ。多分そうだと思う」
一切の警戒もしていなかったから、かなり危なかったな。
アルヤジさんの指導がなければ、普通に大怪我を負っていてもおかしくなかったぞ。
一つ息を吐いてから遺跡の中の様子を見てみると、遠くの方にヘスターが見え、その更に奥には爺さんの姿も見える。
【ファイアボール】を放った先に俺達がいたことに気が付いた様子のヘスターは、酷く慌てた様子でこっちに駆け寄ってきた。
「ラルフ、クリスさん! 大丈夫ですか!? け、怪我は……?」
「大丈夫だ。間一髪のところで弾き飛ばしたからな」
「そうですか……。直撃していなかったみたいで本当に良かったです」
俺達の無事を確認すると、ホッと胸を撫でおろしたヘスター。
あの魔法が直撃していたら、死んでいてもおかしくなかったからな。
ヘスターのこの心配具合も、決して大袈裟ではない。
「それにしても、魔法の練習は順調なようだな。今の【ファイアボール】も、これまでとは桁違いの威力だった」
「はい! フィリップさんのお陰でかなり上達したと思います。……それと、今のは【ファイアボール】ではなく、【フレイムボール】という中級魔法ですね!」
「中級魔法!? ヘスター、お前初級魔法から脱却したのか?」
「この二週間、死に物狂いで特訓しましたからね! ラルフとはちょっと差が生まれちゃったかもね」
胸を張り、そう威張ったヘスター。
ラルフは口をあんぐりと開け、かなり焦った様子を見せている。
「だからあの威力だったのか。……一気に強くなったな」
「はい! フィリップさんはあと数日間だけオックスターに残るみたいですので、発つまで指導を受けようと思っているんですが大丈夫ですかね?」
「ああ、構わない。二週間ほぼすれ違っていたから、様子を見に来ただけだ」
「そうだったんですね。顔を見せずにすいませんでした。……そちらはどんな感じですか? 依頼をこなしてるって感じでしょうか?」
「残念だが、ヘスターだけが修行していると思うなよ! 実はな【銀翼の獅子】さん達が来て、俺もクリスも指導を受けてたんだよ! さっき帰っちゃったけどな!」
胸を張り、ヘスターにそう告げたラルフ。
今度はヘスターが口をあんぐりと開け、焦った様子を見せた。
「な、なんで言ってくれなかったんですか!? 挨拶ぐらいはしたかったです!」
「そんなの無理だろ! 俺達が寝たあとに帰ってきて、起きる前には家にいないんだからよ!」
「うぅ……。ジャネットさんに挨拶したかった……」
「大丈夫だ。ジャネットもヘスターに会いたがってたから」
「クリスさん……。それ、全然大丈夫とは言わないですよ」
そんなに会いたかったのか、あからさまにがっくりと肩を落としたヘスター。
……まぁ良い人達ではあったから、ノーファストに居たときに相当よくしてもらっていたんだろうな。
「ヘスター。はやく続きを始めるぞい!」
「……すいません。呼ばれてしまったので、もう修行に戻りますね。わざわざ来て頂きありがとうございました! 必ず強くなりますので、あと少しだけ修行に打ち込ませて頂きます」
「ああ、頑張れよ。俺達もその間に少しでも強くなっておく」
ヘスターと別れ、俺達はすぐに遺跡を後にした。
初級魔法を脱却し、中級魔法の習得へと移行しているヘスター。
アルヤジさんに指導してもらって強くなったつもりでいたが、これはうかうかしている暇はないな。
指導してもらっている間に、丁度いい時間が経過したし……明日は作付されたであろう怪鳥の様子を見に行ってもいいかもしれない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます