第102話 狩りの指導


 森の中は色々な匂いがするからか、やたらとテンションが高いスノー。

 今にも鞄から飛び出しそうなのを俺は必死に押さえながら、道中で襲ってくる魔物を退け、拠点へと辿り着いた。


 スノーを拠点の中で放し、俺も一息つくために腰を下ろす。

 さて、まずは何からやろうか。

 俺が一番やりたいことといえば、オンガニールの確認なんだが、それは最後のお楽しみで取っておこう。


 生えてなかったらやる気が一気にだだ下がるから、一番最後に確認するのが気持ち的にも一番良いはず。

 となると、無難に有毒植物の採取からか、いきなりスノーに狩りを教えるかなのだが……。


 俺は少し迷った末に、スノーに狩りの仕方から教えることにした。

 元気がありまくっているし、このタイミングで教えて、採取に行っている間はこの拠点で寝ていてくれるのが理想。

 そんな考えから、まずはスノーの狩りから着手することに決めた。


 さて、どう狩りを教えるかなのだが、人形でのキャッチボールができていた訳だし、俺が実際に狩るところを見れば勝手に覚えてくれるのか?

 道中のゴブリンやコボルトに襲われた際は、鞄から飛び出して助太刀しようとしてくれていたしな。


 尻尾を振り回しながら遊びたがっているスノーを見ながら、どうするかを決めた俺は、スノーを連れて実際に動物を狩ってみることにした。

 狙うは、簡単に狩れる野兎だな。


 スノーを鞄に入れて拠点から連れ出し、野兎を探して付近を歩き回る。

 ――おっ、早速発見。

 目の前に無警戒に跳ねて回る野兎がいたため、俺はそーっと近づき一気に耳を掴んで捕まえた。

 

 即座に締めて、血抜きを行っていると、スノーは興奮したように鞄から身を乗り出して吠えている。

 野生の本能なのか分からないが、死んだ兎に対して吠えまくっているな。

 とりあえず後は、この兎の肉を食べさせてあげれば、狩りというのがどういうものなのかを理解できるはず。


 血抜きをした兎を持って、再び拠点へと戻ってきた俺は、スノーに肉を与えてみることにした。

 生でも大丈夫だとは思うが、スノー自身がまだ小さいため念のため火を通してから与えてみる。


「ほら、ちょっと食べてみろ」


 持参した皿に焼いた兎肉を置き、スノーの前に置く。

 少し前からミルクだけでなく、固形物もあげるようになっていたから大丈夫だとは思うが……。

 興味津々で駆け寄ってきたスノーは、兎肉の匂いをしばらく嗅いでから、味見するかのようにゆっくりと口にした。


 すると、何故か軽くジャンプし、一度吠えてから勢いよく兎肉を食べていく。

 どうやら口に合ったようで、あっという間に皿に盛られた肉を完食した。


「美味かったか? これが“狩り”というもので、自力でご飯を食べる方法だ」

「アウッ!」


 言葉が分かっているのか分からないが、返事をするように吠えたため、俺は数回頭を撫でた。

 後は、今のスノーに丁度良い獲物を見つけてきてあげるだけだ。

 

 スノーを拠点に置いて、俺は付近で何か小動物がいないかを探す。

 流石に野兎は大きすぎるから、もっと小さい動物がいればいいんだが……。

 辺りを探していると、木に登っていくリスが見えた。


 リスなら今のスノーでも狩れるだろう。

 一気にリスの登って行った木へと近づき、ジャンプしてとっ捕まえる。


 殺しはせずに、このリスをスノーのいる拠点に放してみることにした。

 さっきので理屈が分かったなら、うまく狩ると思うんだけどどうだろうか。

 拠点を塞いでから、リスを放して少し遠巻きにスノーの様子を伺う。

 

 リスに気づいたスノーは、首を何度か傾げたあと、上体を低くさせて構えると――一気に飛びついた。

 これは成功したか? 

 …………一瞬そう思ったのだが、噛みつきや引っかきはせずに、ただリスとじゃれているだけ。


 楽しそうにリスを追っかけまわし、リスは必死にスノーから逃げ回っている。

 最終的には二匹とも疲れたのか、体を寄せ合うように寝てしまい――俺の目論見は完全に失敗に終わった。


 ……まぁ、簡単に上手くいくとは思っていなかったし、この一週間で一匹だけでも何か狩ることができればいい。

 そう気持ちを切り替え、俺は寝ている二匹を置いて、植物採取へと向かったのだった。


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