第38話 はぐれ牛鳥狩り
翌日。
目が覚めてから脇腹の状態を確認し、大丈夫と判断した俺は、冒険者ギルドに行ってクエストの受注を行いに向かう。
はぐれ牛鳥は需要が高いのか、今日も依頼掲示板に張り出されていた。
受付で受注作業をしてもらい、武器屋の掘り出し物置き場で錆びた鉄剣を買い直してから、はぐれ牛鳥を探しにレアルザッドを後にする。
ヘスターの情報によれば、はぐれ牛鳥が一番目撃されている場所は東に抜けると見えてくる広い平原。
ここが一番の狩場と呼ばれているらしいのだが、ヘスター曰く視界がいい場所だから多く見かけられているだけで数が多い訳ではないらしい。
はぐれ牛鳥を狙うライバルも多いことから、俺には東の平原ではなく別の場所を勧めてきてくれた。
その場所とは……俺が最初にゴブリン狩りを行った北西の廃道を進んだ先にある、山岳地帯へと続く岩場。
人自体が寄り付かない場所らしく、目撃情報や討伐情報は少ないのだが、この場所でのみ狩りを行っている人が少数いるのをヘスターが探し出してくれた。
俺は道中で襲ってきたゴブリンを適当に狩りながら進んで行き、廃道を抜けた先の岩場に辿り着いた。
見た感じでは魔物の気配はないが、とりあえず気配を探りながら進んでみるか。
道もなく、足場の悪い岩場を進みながら、とにかく魔物の気配を追って先へと進んで行く。
空を自由に飛び回る鳥しかいない中、数時間岩場を探し続けていると……斜め前方に牛のような魔物が、岩場に僅かに生えている草を食べているのが見えた。
もしかして、アレがはぐれ牛鳥か?
遠くて正確には判別できないが、特徴的には聞いた情報とかなり一致している気がする。
警戒心が強いと聞いたため、岩に身を隠しながら気づかれないようにゆっくりと距離を詰めていく。
――やはり、はぐれ牛鳥で間違いない。
牛と鳥を混ぜたような魔物で、俺は食べたことないが食用として幅広く流通している一般人にも馴染みのある魔物。
羽は生えているが空は飛べず、若干のジャンプ能力が強化される程度。
ただ、甘く見ていると巨体によるボディプレスでやられ、ボディプレスを警戒し距離を取ると、頭に生えた角による突進攻撃が飛んでくる。
倒す際は、突進攻撃すら届かない位置から遠距離攻撃を加えるか、至近距離でボディプレスに気をつけながら立ちまわることが一般的らしい。
ヘスターの情報を頭の中で整理しつつ、はぐれ牛鳥が呑気に草を食べている真裏まで来れた。
気づいている様子はないため、完全に無防備状態。
剣を引き抜き、心の中で発した合図と共に斬りにかかる。
狙うは――足。
動きを完全に封じるため、後ろ足を狙って剣を振り下ろす。
剣を振り下ろし切る前に、襲ってきた俺に気づいたようだが遅い。
はぐれ牛鳥の左後ろ足を深く斬り裂き、鮮血が飛び散った。
すぐさま俺は収剣し、はぐれ牛鳥用に購入した石のハンマーに持ち変える。
ハンマーといっても無駄にデカい奴ではなく、メイスに近い細長いハンマー。
血を大量に流してしまうような殺し方だと大幅に値落ちするらしく、頭を殴打して気絶させてから処理を行うのが良いやり方と聞いている。
足を斬り裂かれ、動きの鈍くなったはぐれ牛鳥は、よろけながらも攻撃を図ろうとしているのが分かった。
一瞬、レイゼン草とゲンペイ茸の効果を図るためにわざと一撃貰おうかとも考えたが、ペイシャの森で熊型魔物から食らったあの一撃が頭を過り、すぐに切り替えて一撃で仕留めにかかる。
ふらつきながらも突進してきたところを狙いすまし、眉間を目掛けてハンマーを振り下ろす。
金属同士がぶつかったような音が鳴り響き、はぐれ牛鳥は体を痙攣させながら地へと伏せた。
倒せたことに安堵する暇もなく、俺はすぐに倒れたはぐれ牛鳥を担ぎ、木のある位置まで移動する。
持参した道具ではぐれ牛鳥を逆さ吊りにし、胸に刃物を入れて放血。
血を全て出し切る前に、このはぐれ牛鳥をどうするか考える。
依頼があるのは、ヒレ、タン、ハラミ部分のみ。
ここで切り分けて持ち帰れば、荷物は最小限で抑えられるが報酬も少なくなる。
逆にこのはぐれ牛鳥丸々持ち帰ることができれば、報酬の倍増は確定。
倒した位置からこの木までを運んだ限り、俺の筋力ならば持ち運べない重さではないが……帰りの道中で魔物に襲われることを考えると、いささか面倒くさいことになる。
帰りのことを考え、ヘスターとラルフを護衛につければ良かったと若干後悔しつつ、俺は目先の金を優先し丸々持ち帰ることに決めた。
放血の終えたはぐれ牛鳥の腹を切り開き、肉が傷まないように内臓を全て取り出す。
捨てるのはもったいないため、レバーの部分だけそのまま生で頂き、残りは穴を掘って埋める。
これでひとまずの処理は完了だな。
大きく息を吐いてから、俺は肉となったはぐれ牛鳥を担ぎ、来た道を戻ってレアルザッドへと帰還したのだった。
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