第36話 混乱による思考
痛みも治まり、息もようやくしっかりとできるくらいまで回復した。
幸い、剣でのガードが成功していたため、脇腹が酷く痛むのと大きな青あざができたぐらいで怪我の具合は済んでいる。
口に突っ込んだ腕も、熊型魔物の歯が若干当たって切れただけで、決して酷い傷ではない。
何の前触れもなく、死を覚悟するような化け物みたいな魔物に襲われた割りには、俺の取った行動が全て正解を辿ったお陰で被害は最小限に抑えられたと思う。
……それにしてもあの魔物は一体なんだったんだ?
突如として気配が現れ、逃げる間もなく襲われた。
あんな危険な魔物がこのペイシャの森には潜んでいるのか。
思い出すだけで体が震え、克服できた森への恐怖が再燃していくのが分かった。
はたしてあの熊型の魔物を、レイゼン草で殺すことができたのだろうか。
死んでくれていればいいのだが、俺には全てを吐き出したようにも見えた。
死体は見える位置にはないが、再び戻ってくることもなかったため、熊型魔物の生死は半々ぐらいの確率だろう。
……生きていたとすれば、また戻ってくるかもしれない。
そんな考えが頭を過り、俺はズキズキと疼く脇腹を押さえつつ、すぐにここから離れるために拠点を目指してゆっくりと歩き始めた。
拠点には無事に辿り着け、すぐに拠点の中を片付けてからペイシャの森を出る準備を整える。
そこらに生えている薬草を、適当に摘んでから塗布したり食したりしつつ、怪我の回復を早めながら乾燥させた植物たちを鞄に詰めていく。
熊型魔物に剣を噛み壊されたせいで手元にはもう武器がないため、いち早くペイシャの森から脱しなければならない。
すぐに荷物をまとめた俺は足早に拠点を後にし、いつもの泉を目指して進んだのだった。
それから迷うことなく泉へと戻ることができた俺は、今回は体を洗うことをせずにレアルザッドへの帰還を目指す。
汚いまま帰るのは駄目と頭では分かりつつも、正直そんなことを気にしている余裕は俺にはない。
とにかく早足でペイシャの森を抜けきったところで、焦りまくっていた気持ちがようやく落ち着きを取り戻し始めた。
できることならもうこの森には近づきたくはないが、俺の成長のためにはまた来なくてはいけないんだよな。
レアルザッドへと続く公道を歩きながら、ぐるぐると色々なことが頭を過る。
クラウスへの復讐のため、俺は絶対に強くならなければならない。
そして、俺が強くなるためには有毒植物が必須。
レアルザッドから近い位置にあり、確実に潜在能力を引き上げる効能があるのはこのペイシャの森だ。
ただペイシャの森には、俺を殺そうとしてきたあの熊型魔物がまだ生きている可能性があ……る?
…………そういえば、あの熊型魔物は唐突に俺を殺そうとしてきたんだよな?
――殺していいのは、殺される覚悟があるやつだけのはずだ。
にも関わらず、あの熊型の魔物は殺そうとした相手を置き、逃げたんだよな。
――自分でも訳の分からない思考に辿り着いている気がするが、なんだか徐々にあの熊型の魔物が恐怖よりも憎くなり始めてきた。
……俺を殺そうとしてきたんだから、俺に殺されたって文句は言えないよな?
何故か思考がそこに行きつき、俺はクラウスに続いてあの熊型の魔物も復讐の対象として頭が勝手に定めた。
今はまだ到底敵わないだろうが、絶対に強くなって必ず実力でぶちのめす。
だから、レイゼン草で死んでてくれるなよ。
そう祈るほどには熊型魔物への恐怖心は何故か消え失せており、復讐対象と定めたことで気持ちも完全に持ち直すことができた。
メラメラと燃える気持ちを心に宿しながら、俺はレアルザッドへと続く公道を突き進んだのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます