第28話 同行
「クリスさん、起きてください」
ヘスターに起こされ、俺は目が覚める。
まだ日が昇ったばかりぐらいだと思うのだが、そういえばこの二人は毎日俺が起きる時にはいなくなっていたな。
大きく一つあくびをしてから、俺は無理やり布団から這い出た。
「おはようございます。もう狩りに行きますので、クリスさんも準備お願いします」
「ああ」
ヘスターに促され、俺はすぐに準備を整える。
今回はメインがヘスターとラルフだし、剣と水だけの軽装で向かうことに決めた。
ゴブリン狩りだし、危険に晒されることは限りなく低いだろう。
準備が整ったところで、宿屋を出て目的地を目指す。
ラルフは宿屋の外で待っており、もう既に冒険者ギルドでクエストを受注してきたようだ。
二人で盗人をやっていただけあって段取りが良く、スムーズに事が進んで行く。
一人だと全てを自分だけでやらなくてはいけないし、こうスムーズにはいかない。
意外な部分でパーティのメリットを感じつつ、依頼先である南西の林へと目指す。
「なんでいつもこんなに早くに出てるんだ?」
「単純に俺のせいで移動に時間がかかるんだ」
「……ああ。膝を怪我しているんだっけか」
「そうだ。目的地まで着くまでにも時間がかかるし、ゴブリン狩りにもそれで時間を要してしまう」
それでゴブリン狩りですら、切羽詰まっていたって訳か。
最初はヘスターからだと思っていたが、やはりラルフの怪我をどうにかしないといけないな。
「おぶってやろうか? 他にやらなくてはいけないことがあるし、時間はなるべくかけたくない」
「やめろ! 一人で歩ける」
「ペースが少しでも遅くなったら担ぐからな」
それから剣を杖替わりにしながら、ラルフは必死に早く歩こうと頑張っていたのだが、数十分して痛みが酷くなったのか額に汗が滲んできた。
ヘスターもその様子を心配そうに見つめており、急かしたのが悪くなってきたな。
「遅い。約束した通り、俺の背中に乗れ」
「大丈夫だ。速度はまだ上げられる」
「見てられないんだよ。早く背中に乗れ。連携を取る気がないなら、パーティの件白紙にするぞ」
そう脅したことでようやく諦めたのか、嫌々ながらもラルフは俺の背中に乗った。
俺の倍以上もあるオークを運んだだけあり、ラルフ程度の重さじゃ何も感じないな。
ラルフのペースに合わせていた時の倍ほどのペースで進むことができ、間もなくして目的地である南西の林へと着いた。
「悪かったな。担がせちまって」
「ここからは見ているだけだし構わない。それより早くゴブリン狩りに取り掛かってくれ」
「分かってるよ」
歩くことすらままならないラルフと、魔法の使えない魔法使いのヘスターがどうゴブリンを狩るのか。
正直、全く予想出来ないため、楽しみなところである。
「ラルフ。いつも通りね」
「ああ、任せろ」
少し話し合い準備が整ったのか、二人がゆっくりと動き出した。
隣同士歩くのではなくヘスターが少し先を歩き、数メートル空けてラルフがついていくといった形。
俺はそのラルフから更に数メートル空けて、二人の後を追う。
変な隊列を作って林を歩くこと約三十分。
ヘスターがゴブリンを見つけたのか、ハンドサインで合図を送ってから身を屈ませた。
ラルフはというと剣を引き抜き、その場で立ち尽くしている。
身を屈ませているヘスターは、ゆっくりとゴブリンに近づいていき、手に持っていた木の棒で思い切り頭をひっぱたくと、すぐさま引き返して逃げ出した。
頭を叩かれたゴブリンは、相手が一人かつ女だと分かったからか、逃げたヘスターを下卑た笑いを見せながら追ってきた。
ヘスターはそのままラルフを抜き去る形で駆け抜け、追ってきたゴブリンとラルフが正面から対峙する。
ゴブリンはヘスターを追っていて、ラルフはゴブリンだけを見定めていた。
その差もあったのか、一撃目でゴブリンの胸を深く裂き、抗い反撃してきたゴブリンを終始圧倒し、ラルフは楽々とゴブリンを仕留めることに成功した。
「クリスさん、どうでしたか? 少し不格好ですが、“楽に”ゴブリンを狩れています」
「動きの鈍いラルフを最大限に活かす戦法か。確かに楽にゴブリンを狩れていたな。……分かった。パーティを組もうか」
「やったー! ラルフ、合格だってさ!」
「……俺はゴブリンを狩れるようになったし、別にパーティを組まなくたって――」
「またくだらないこと言って! 一生、ルーキー冒険者としてゴブリンを狩り続ける人生がいいの?」
「……………………冗談だよ! クリス、これからよろしく頼む」
ゴブリンを狩り終え、ゆっくりと戻ってきたラルフとも挨拶を終え、俺達は正式にパーティを組むことが決定した。
基本的には慣れあいではなく、互いの利益のために利用し合う関係を築きたいと思っている。
まぁ、今の二人の実力では利用するところが一切ないから、しばらくは俺が介護することになるだろうな。
それでも潜在能力で言えば、俺よりも圧倒的なものを持っている。
いずれ俺がクラウスと戦うことを見据え、今の内に俺が手伝うのは悪くない判断だと思う。
「ああ、二人共よろしく頼む。それじゃ、俺は先に帰るぞ。詳しい話は夜『シャングリラホテル』でしよう」
「分かりました。それではまた夜お願いします」
パーティを組んだのだし、ゴブリン狩りを手伝うことも考えたのだが……それよりも、やるべきことがたくさんある。
パーティを組んだことでやるべきことの数も増えたし、俺は俺にしかできないことをやる方が良い。
俺は二人を林に残し、一足先にレアルザッドへと戻ることにしたのだった。
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