第23話 ブロンズランク
翌日。
結局、昨日は夜遅くまで作業を行ったせいで、若干寝不足の状態で目が覚めた。
二度寝したい欲に襲われるが、二ヵ月間ゴブリンを狩り続けて貯めた金貨三枚の内二枚は能力判別で消えており、残り一枚はペイシャの森の旅の資金で消えた。
盗品のアクセサリーを売った金はギリギリまで手を出す気はないし、今日から冒険者業を再開しなければ金が底につく。
両手で頬を思い切り叩き、物理的に目を覚まして布団から這い出た。
部屋を見渡すと既に二人の姿はなく、朝一で出かけたようだ。
一人だと広く感じる部屋で若干の寂しさを覚えつつ、準備を整えてから俺も宿屋を後にした。
冒険者ギルドに着き、クエスト受注受付へ直行。
今日からはブロンズランクのクエストを受けることが出来るため、ゴブリン狩りの生活からはおさらばすることができるのだが……。
ブロンズランクに上がっても、ルーキーランクのクエストは受注することが出来るため、まだゴブリン狩りを続けようと思えば続けることができる。
もちろんブロンズランクのクエストの方が高報酬なのだが、俺はこの二ヵ月間でゴブリン狩りに関しては、プロと言えるぐらいの練度が高まっている。
低報酬でも数を狩れるゴブリン狩りの方が、ブロンズランクのクエストよりも稼げるかもしれないと頭を過ったが、どちらにせよ今日くらいはブロンズランクのクエストを受けるべきだな。
もし万が一、お金を稼ぐのに非効率という結論に至れば、明日からはまたゴブリン狩りに勤しめばいいだけ。
受付の列に並んでいる間に、俺はそう結論付けた。
「いらっしゃいませ。こちらはクエスト受注用の受付ですが大丈夫でしょうか?」
「ああ。クエストを受注したい」
「それでは、冒険者カードを拝見させて頂いてもよろしいですか?」
受付嬢のいつものやり取りを行い、冒険者カードを手渡す。
「クリス様ですね。えーっと冒険者ランクは……前回でルーキーからブロンズにランクアップ致したんですね。おめでとうございます」
「ありがとう」
「今回からブロンズランクのクエストも受注できるようになります。それでは本日は如何致しますか?」
「ブロンズランクの討伐クエストを受けたい。どんなものが受けられるんだ?」
「ブロンズランクになりますと、一気に種類が増えまして……。もう少し絞らせて頂きたいのですが、討伐数が多いのと少ないのどちらがよろしいでしょうか?」
「少ないので頼む」
「それでしたら、はぐれ牛鳥の討伐。ベビーリザードの討伐。東の廃村に出現するバブルウィスプの討伐。ミツリア川下流に出現するヘドロスライムの討伐。この四つが一匹のみの討伐でクエスト達成になります」
はぐれ牛鳥、ベビーリザード、バブルウィスプ、ヘドロスライムか。
どれも聞いたことがない魔物だが、名前から大体の予想はつく。
倒しやすそうなのははぐれ牛鳥だが、気になる点が一つだけある。
「場所の指定がされているのと、されていないものの違いはなんだ?」
「指定がされていないものは、その魔物の素材が欲しい人からの依頼となっております。ですので、倒した亡骸もしくは指定された部位を持ってきて頂き、初めてクエスト達成となります」
「なるほど。場所が指定されている魔物は、素材ではなく魔物自体が害となっているから討伐してくれって依頼なのか」
「はい。そういうことですね。基本的には場所の指定がない依頼の方が、高額な報酬となっているケースが多いと思って頂いて大丈夫です」
指定のないものは、魔物の情報を集めてから探し出して討伐し、指定された部位の剥ぎ取りか死体自体を持ち帰らなければならないという訳か。
手間のかかる分、高額の報酬となっている場合が多い――と。
どうするか悩むが、パーティを組まずに一人で行うことを考えると、指定のある依頼でなければ一日でこなすことは不可能な気がする。
まぁただ、報酬によってそれも変動するか。
指定なしの依頼が指定ありの依頼よりも二倍以上高額であれば、指定ありの依頼を二日掛けて行った方が効率が良い。
「この中で一番高額な依頼ってどれなんだ?」
「一番高額なのは、はぐれ牛鳥のクエストですね。精肉店からの依頼でして、胴体部分の納品です。報酬は金貨一枚でして、状態やサイズによっては金貨三枚までお支払いするそうです」
「量や物によっては金貨三枚まで上がるのか。この中で一番安い報酬のも教えてくれ」
「報酬が低いものですと、ヘドロスライムとバブルウィスプが共に銀貨四枚で一番安いですね」
はぐれ牛鳥の報酬が高いのはもちろんだが、一番安い依頼でも一匹狩るだけでゴブリン二十匹分か。
やはりブロンズランクの依頼は高報酬のようだ。
それでどれを選ぶかなのだが、値段で選ぶならはぐれ牛鳥一択なんだけど、高いには高いなりの理由があるはずだ。
依頼を受けたはいいものの、一週間経っても狩れなかったら先に金が底をついてしまう。
今すぐにお金が欲しいことも考えると、指定ありの依頼を受けるのが一番だな。
「それならヘドロスライムの討伐依頼を受けたい」
「分かりました。それではミツリア川下流のヘドロスライム退治をお願いします。一匹狩って頂き、報酬は銀貨四枚となります。討伐数の制限三匹でして、一匹追加で狩るごとに銀貨四枚をお渡し致します」
「分かった。それではよろしく頼む」
俺が立ち上がり、受付から去ろうとした瞬間。
受付嬢は慌てて立ち上がった俺を引き留めた。
「ちょっとお待ち頂いてもよろしいですか?」
「ん? まだ何かあるのか?」
「クエスト依頼の内容なのですが、ブロンズランクに上がると受けられる依頼の種類が多くなり、口頭で説明するのが難しくなっております。ですので、今出されているクエスト依頼はあちらの掲示板に張り出されているんです」
「へー。あの人集りは、クエストを見ている人達だったんだな」
「はい、そうです。右の掲示板から順にブロンズ、シルバー、ゴールド――とランク分けされた依頼が張り出されていますので、受付に来る前に見て吟味して頂き、受けたい依頼の紙をとってお持ち頂ければ、スムーズに受注出来ますので良ければお使い下さい」
「そうだったのか。丁寧にありがとう」
「いえいえ。ご自身でお探しするのが面倒であれば、今回のように希望の条件からお探し致しますので、お好きな方法をお選びくださいね」
「分かった。次回からは掲示板から依頼を選ばせてもらう」
「よろしくお願い致します。それではご武運をお祈りしております」
なるほどな。
基本的には、掲示板で依頼を選んで受付で受理してもらうって形なのか。
いちいち聞いてたら時間ばかり取られるし、次回からは掲示板で依頼内容と報酬を吟味しようか。
そんなことを考えながら、俺は冒険者ギルドを後にした。
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