第13話 食事会
「今日は案内ありがとな。お陰で予想していたよりも金が手に入った」
「金貨三枚だもんな。数ヶ月分の金を一気に手に入れるとは運が良い奴だ」
「どうだ。この後、さっき教えて貰った飯屋に行く予定なんだが奢るぞ?」
「えっ、いいの?」
「ちょっ、馬鹿! 今日は盗みに失敗した上に、案内までさせられたから一銭も稼げてないんだぞ。せめて何か売れそうな物を拾いにいかなきゃ駄目だ!」
「私は売れそうな物を今から拾いに行くよりも、奢って貰った方が確実だし楽だと思うけど……」
そう言葉を漏らした赤髪の女。
男は俺からいち早く離れたいがために拒否してきたと思ったのだが、女の言葉に目を丸くさせ、納得するように数回頷いた。
「た、確かに奢って貰えるなら今日の飯代を稼がなくていいのか……。で、でも、盗もうとした俺達に奢るのなんておかしいだろ!」
「別におかしくない。良い店を紹介してもらった礼だからな。『七福屋』の店主に感謝すればいい」
「奢ってもらおうよ。私たちお金ないんだし」
その女の言葉が決め手となり、男は俺から奢ってもらうことに決めたようだ。
臨時収入が手に入っただけで、俺もお金に余裕がある訳ではないんだが……。
ここ一ヶ月間一人で森の中に居たこともあり、盗人であろうが誰かと話しているのは心地良い。
それにこの二人は裏通りでは顔が知れているようだし、親しくなるに越したことはないからな。
そんなこんな俺達は三人で、安くて美味しいと評判の定食屋へと向かったのだった。
「本当に美味しそうに食べるよな。全く同じ物食べてるのに、お前の料理の方が美味しそうに見える」
「さっき軽く話したけど、森の中じゃ味付けのないオーク肉ばかり食べていたからな。あの肉も本当に美味かったけど、ちゃんとした味付けがされてるだけで涙が出そうになるくらい美味しく感じる」
「羨ましい体だな。……それにしても、何も持たずによく森で一ヶ月も過ごせたなお前」
「ああ。最初の数日間は、飢えないようにそこらにあるものを手当たり次第食べたからな。文字通り泥水だって啜ったし、生きる残るためになんでもした」
運ばれてくる料理を味わいつつ、ペイシャの森での話を聞かせる。
最初の数日間を思い出すと、今食べている料理がより美味しく感じていい。
「手当たり次第って……。それ、毒の持った植物でも食ってたら死んでただろ」
「そこの心配はなかった。何せ、俺のスキルは【毒耐性】だからな」
「……簡単に自分のスキルを話していいのか?」
「別に構わない。あってもなくても変わらないようなスキルだしな」
「ずっと思ってるけど軽い奴だな。――っていうか、知り合いに【毒耐性】持ちの奴が数人いるけど、どんな毒をも効かないなんてことはないぞ。ちょっとお腹が壊しにくくなったり、酒が人並以上に強いぐらいなはずだ」
「そうなのか? 怪しげな木の実やきのこ、腐り切った肉なんかも食べたがなんともなかったけどな」
俺がそう話すと、二人は何かを察したようで目を合わせて頷き合った。
「だ、だから、私がアリルの玉をぶつけても平然と追いかけて来れたんだ! てっきり外したのかと思っちゃってた」
「アリルの玉って赤いアレか? しっかり俺の目に直撃したぞ」
「嘘だろ……? アリルの玉は、一日は痺れが取れない強力な痺れ玉だぞ。効かないなんて聞いたことがない」
「お前らとんでもない物を使ってるんだな。俺じゃなかったら失明しているんじゃないのか?」
とんでもない事実を話す二人にドン引きしつつも、俺のスキルがただの【毒耐性】でないことが分かった。
もしかしたら一般的なスキルじゃなく、有用でレアなスキルなのではと淡い期待をしてしまう。
「アリルの玉すら効かないってことは、【毒耐性】じゃなくて【毒無効】みたいなスキルなのかもな! ……まぁ、どっちにしろあんまり使いどころはなさそうだけど」
「森の中で生き延びれたし、お前たちから物を盗まれずに済んだだけでも使えるスキルだろ」
そう反論するが、確かに使いどころは限られている。
【毒耐性】だろうが【毒無効】だろうが、どちらにせよ用途は局所的すぎるよな。
「どうだかな。……それで、これからお前はどうする予定なんだ?」
「とりあえず冒険者にでもなる予定だ。剣術には多少だけど覚えがあるからな。食っていけるだけのお金は稼げるはずだ」
「冒険者か。まぁ浮浪者が辿り着くのは、冒険者か犯罪者ぐらいだもんな」
「お前たちの方はどうするんだ? いつまでも盗みで食っていく気なのか?」
俺のそんな質問に食べる手を止め、俯いたのは赤髪の女。
余計なお世話かもしれないが、こんな生活が到底いつまでも続けられるとは思えない。
「俺はそのつもりだ。冒険者になれるほどの力を持っていないのなら、犯罪に手を染めるしか食っていけないからな」
「捕まえたのが俺じゃなかったら、今頃お前ら牢屋の中だぞ。別の方法を考えた方がいいと思うけどな」
その俺の一言で場は静まり返り、そこから一切の会話もなく、俺達は黙々とご飯を食べ進めたのだった。
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