ひざまくら

 おーい。

 もしもーし。

 うっそ、寝てる。

 あんなに寝たのに。

 いつもぐっすりすぎるぐらい、寝てるはずなのに。

 もしかして、眠りが浅いのかな?

 だからいつも横になると、すぐ寝ちゃうのかも。


 でもね。

 いきなりひざに頭を乗せてきたのには、びっくりしたんだよ?

 まぁ、映画も観終わったし、寝かせておこうかな。


 ……明るいと、寝顔よく見れていいかも。

 そんなに幸せそうな顔して、どんな夢見てるんですか?

 ふふっ。

 いつも少し笑ってるようなこの口、可愛い。

 触っちゃお。


 あっ。


 隠されちゃった。

 もっと触りたかったのになぁ。

 ……こんな時じゃないとここまで触れないし。

 普段からもっと触りたいんだよ、ほんとは。


 それにしても……。

 顔うずめてる姿って、なんだか胸がきゅってする。

 わたしのひざ、そんなに寝心地いいですか?

 なんて聞いても、夢の中のキミは答えてくれないだろうけどね。

 

 わっ!

 この状態でも抱きついてくるの!?

 腰にそんなしがみつかなくても!

 息できてる?

 大丈夫?

 こんなに器用に寝れるキミって、眠りの達人みたい。


 あ。

 もしかして、わたしが抱きまくらみたいな抱き心地のよさで眠れてる、とか?

 なるほど。

 だからいつも抱きついてくるんだね。

 謎が解けた!

 ふっふっふ。

 わたし、名推理じゃない?

 キミのことに関しては、わたしって冴えてると思うんだよね。

 大好きな人のことはわかっちゃうんだよねー。


 ん?


 笑ってる?

 え、なに?

 肩が震えるくらい楽しい夢見てるの?

 ……もしかして、起きてる?


 ツンツン


 ……起きてない。

 よかった。

 今の言葉聞かれてたら、倒れる自信がある。

 絶対、さっきと同じことになる。

 だって、渡した手紙を読んだあと、キミがあんなこと……。


 ああっ!!

 もうっ!

 だめだめ!

 恥ずかしすぎる!

 なんでキミは爽やかな笑顔で追い詰めてくるのかな!?

 声に出して読んでって、何回も読まされて、わたし、わたしっ!!


 えっ!?


 び、びっくりした。

 起きたかと思った……。

 うるさかったよね。

 ごめんね。

 もう、考えるのやめよ。

 恥ずかしすぎて倒れそう……。


 それにしても、ちょっと、お腹に顔つけすぎじゃない?

 苦しくないのかな?

 少しすきまを……。

 おい、しょ。

 これで息しやすい、はず。


 ……よしよし。

 髪、伸びたね。

 短い時も好きだけど、長めも好きだよ。

 キミはどっちも似合うよね。

 見た目も中身もかっこいいとか、ずるいよ。

 わたしばっかりドキドキしてるもん、きっと。


 んー……。


 ずっと見てても飽きないなぁ。

 でもなんだか、わたしまで眠くなってくる……。

 このまま寝ちゃおっかな。

 でも、せっかくのお休みだし……。


 うーん……。


 ねぇねぇ。

 起きて。

 起きてほしいなー。


 ん?

 

 起きそうだけど起きないね。

 でも顔は上を向いた……。

 これはもしかして、前にキミが言ってたやつ?


 ……ねぇ。

 本当は起きてない?

 わたしにはお見通しなんだからね!


 …………ちがった!

 ばっちり寝てる!

 試されてると思ったのに!


 恥ずかしすぎるっ!

 キミが寝ててよかった。

 起きてたら絶対笑われる。

 

 はぁ……。

 よし。

 寝てるなら、やってみよ。


 キミさ、前に言ってたこと、覚えてるかな?

 俺は眠り王子だから、キスされたらすぐ目が覚めるって。

 冗談っぽく言ってたけど、実は本当だったりして。


 ごくり


 きっ、緊張する。

 胸のドキドキが止まらない。

 うぅっ……。

 キミがキスしてくれる時も、こんな感じなの?

 それなのに、たくさんしてくれるんだね。

 なら、わたしも……!


 ちゅっ


 恥ずか――、んんっ!?

 ちょっ、と、待って!

 ほんとに起きたの!?

 えっ!

 もう、もういいから!

 そんな顔してもだめ!!

 早く起きて!


 ちょっと、離れて。

 ……なに?

 だめ!

 なに写真撮ろうとしてるの!?

 記念!?

 こんなの記念にしなくていいから!

 スマホ没収!

 嫌なら撮らないで!


 ……怒ってない。

 恥ずかしい、だけ。

 だからね、可愛いとか、そんなに言わなくていいから。

 えっ!

 事実を言ってるだけって……。

 もう、キミだけの事実は心にしまっておいていいから……。


 な、なっ、なに言ってるの!?


 心から溢れてきちゃうから無理って!

 ふたしといてよ!

 え?

 嫌ならわたしがふたするの?

 どうやって?

 口で?


 ――っ!!


 ばかっ!

 もう知らない!

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