◆在るべきところへ◇3話◇銀の髪の男 ①
◆在るべきところへ◇3話◇銀の髪の男 ①
魔法陣に浮かぶ金の髪のカーリアンは、ジャドニックという名前を呟いてからしばらく沈黙していた。
だが、意を決したように顔を上げると、もう一度フェレナードには理解できない言語で話を続けた。
「行方不明者の気配がわからなくなってしまうのは、恐らく本大陸の神域に隠されてるからだと思う。あそこは神の住む場所だから、精霊の力は及ばないし。人間は立ち入り禁止だけど、こそこそするにはいいところだわ」
そうだろうな、と言うように、話を聞きながらレイが腕を組んだ。
「それでね、私たちだけでミゼリットたちの居場所を特定するには時間がかかりすぎるから、森と風の精霊に力を貸してもらえないか交渉してるんだけど、なかなかうまくいかないのよ。だから手伝ってほしいの」
頼み込む彼女の瞳は切実そうだ。
「このまま放っておくと彼女を中心に大変なことが起きるような気がするの。手遅れになる前にそれだけは止めなきゃいけないと思って。そうでしょ?」
その言葉を聞いてレイも胸が痛んだ。それは過去の出来事から自分にも責任の一端があるからだ。とうとう動かなければならない時が来たようだ。
「そっちも狙われるかもしれないから、早くその子とインティスを連れて来て。私の家はこの伝言を持たせたフェレナードが知ってるわ」
そう言うと、魔法陣から彼女の姿が消え、伝言が終わった。
レイは眉間に皺を寄せ、顎に手をやって視線を落としたままで、とてもフェレナードが話の内容を聞ける雰囲気ではなかった。
「今のは……どこの国の言葉ですか?」
単純に興味もあって、フェレナードはレイに尋ねてみた。すると、一人ではなかったことを思い出したように、レイが慌てて顔を上げた。
「ああ、あれは古代創生語といって、文字を持たないので、大事な話の共有に使っているんです」
「古代……」
その言語の名称自体がフェレナードには初耳だったので、改めて彼の知識の深さに敬服した。
レイは目を細めた。
彼を信頼して良いものか。長い銀の髪と、歳の割に落ち着いた所作のせいでかなり柔らかい印象を受ける。
まだ若く、二十代前半に見えるが、気難しい妹が伝言を持たせるほど信頼した男だ。
この砂漠の国と、妹が住む森の国は、内海を隔てて左右対称の島で成り立っているが、地続きになっているのは南側の一箇所しかない。そしてそこは、大きな壁で遮られている。
今フェレナードがその壁を通ってここにいるのは、カーリアンの特別な許可があるからだ。
初めての地で、更に初対面でこちら側の言葉を使ってくるというのはなかなかできることではない。違和感は修正してやればなくなるだろう。
「この国の言葉は、そちらよりも動詞の一部や目的語の省略が多いんです。それから、同じ発音の言葉でも意味によって抑揚の付け方が違う」
「あ……なるほど」
巨大な虫のような生き物から助けてくれた彼にフェレナードが話しかけた時、妙な顔をした理由がわかった気がした。
「暗黙の決まりがあるので、これから教えるコツを掴めばもっと自然になるでしょう」
「ありがとうございます」
先ほどまでの彼の深刻な表情が少し落ち着いたようだ。
カーリアンからは、警戒心なんて持ち合わせてないから大丈夫なんて言われていたが、この世界で賢者と言えば彼を指すとも言われる相手に対し、さすがに気楽には話しかけられないので、フェレナードはほっと胸を撫でおろしたのだった。
◇
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