◆在るべきところへ◇1話◇予兆 ②
◆在るべきところへ◇1話◇予兆 ②
柵と門で囲われた村から一歩でも外に出ると、そこは灼熱の日差しと砂嵐が交互にやってくる広大な砂漠地帯だ。
まだ嵐は来ていない。先ほどの気配を頼りに、粒子の細かい橙色の砂を蹴って走りながら砂ミミズを探す。
「あっち、あっちにいるわ」
インティスの横から、水色のふわふわの髪の、少女の格好をした水の精霊が砂丘の向こうを指した。
「人間もいるわね」
「やっぱり」
様子を伺うように目を細め、見えた光景を呟いた精霊の言葉に、インティスが溜息をついた。
砂ミミズは本来人間と接することのない、大人しい生き物だ。
そいつが暴れ回っているなら必ず理由がある。きっとその人間の聞き慣れない足音のせいに違いない。
「あいつはあれで頭がいいから、この辺の人間を襲ったりはしないもんね」
「そういうこと」
砂丘を駆け上がると、見下ろした地点で確かに一人、砂ミミズに襲われている人間がいた。
武器も持たず、ひたすら逃げ回ろうとしている割には足元がおぼつかない。砂漠の砂の上を歩き慣れていないとすぐにわかる。同時に、その状況だけで、インティスにはその人物がここにいる目的の予想がついてしまった。
きっとあいつも、レイに会うことが目当てなんだ。
やれやれと目を細めたが、インティスは一気に砂丘を駆け下りた。
「助けるの?」
「一応ね」
目的は何となくわかっても、助けない理由にはならない。
暴れる砂ミミズは、砂中から飛び出すと大人四人で手を繋いだくらいの太さと、大人三人分ほどの高さがあって、獲物を追いかけて砂中に潜ったり飛び出したりを繰り返している。大きさとしては標準くらいだが、これを大人しくさせる方法は退治する以外にない。
こんなことで命を奪うのは悪いとは思うが、唯一救いがあるとすれば、それが村全体をまかなう食料になるということだ。貴重な動物性の栄養源でもある。
小さな砂竜なら、あっという間にその大きな口で捕食されてしまう。口の中には無数の歯がびっしりと生えていて、獲物を噛み砕きながら飲み込んでしまうのだ。本来なら麻酔矢を何本も打ち込み、動きが鈍ったところを数人がかりで仕留める大掛かりな狩猟になる。
インティスは走りながら剣を抜くと砂を蹴って獲物の倍近くの高さまで飛び、巨大な首回りめがけて、降下の勢いと共に剣を振り下ろした。
太すぎるので一度では切り離せない。砂上に着地するとすぐに体を反転させ、再度飛び上がって、まだ繋がっている部分へ同じように剣を振り下ろした。
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