第3話

 穴の中の部屋にいる。

 僕だって蟻だ。穴を掘ることができる。ただ、一人でだと時間がかかる。ずいぶんと苦労したけれど、しければならない理由があった。

 敵の拠点をつぶしたことで、相手は僕らの存在を認知しただろう。当然討伐に向かってくるはずだ。虫たちはおしゃべりだから、僕たちが以前いた場所のことはしゃべってしまうだろう。

 拠点を変える必要があった。しかも、予想しにくい場所に。入り口にはキノコの兵隊を配置してある。人格はないが、襲われたら攻撃を返す。

 すっかり疲れてしまった。

「オーフレイム様」

 横になっているところへ、イリーがやってきた。

「ああ」

「大丈夫ですか? ずいぶんと働かれたので心配です」

「大丈夫だ。僕は戦わないんだから、これぐらいのことをしなきゃ」

 イリーは僕の横に腰かけた。

「私、本当に幸せなんです。本当なら、すぐに溶けてしまうような存在。そんな私が、役に立てるんだもの」

「無理やり戦わせているのに?」

「それが運命だと思うんです。オーフレイム様のために戦うのが。だから、気にしないでください。私は絶対に逃げずに戦います。だから一つ、約束してください」

「何?」

「もし私と誰かが倒れても、私のことは助けないでください。私はオーフレイム様のために死ねるなら、本望ですから」

「イリー……」

「約束してください。しないと、足四の字しますよ?」

「勘弁して」

 キノコからどんなキノコ者ができるかは予想できない。ただ、なんとなく「キノコの感じ」には似ている気がする。イリーはきれいで、動きも華麗で、芯が強い。

「女王様と再会したら、どうするんですか?」

「どうするだろう。また仲間を集めて、新しい巣を作らないと」

「そうですよね。オーフレイム様は蟻ですもんね。こうして蟻の巣で、蟻の皆さんと暮らすのが『普通』ですもんね」

 寂しそうな眼をしていた。キノコ者がどれぐらい生きられるかはわからない。本来は、戦争のための道具なのだ。

 ずっと共に暮らすような未来は、あるのだろうか。

「普通である必要なんて、ないんだ」


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