61話 ダミアンの処遇
ミルカを部屋まで送ったヴォルテールは、タリに様子を見ておくよう言いつけた。
そして大股で夜会の会場まで戻った。
彼は笑顔を振りまき、
ヴォルテールが向かったのはドラゴン舎。
マゼーパ種が出入りし、あたたかい石の上でぬくぬくと眠っている。
その横に、夜会服姿のダミアンは縛り上げられていた。
傍らにはケネスが、彼のドラゴンと共に油断なくダミアンを見張っている。
ヴォルテールはミルカを保護する際に、ダミアンを捕縛するようケネスに命じておいたのだ。
辺境領主としての、当然の処置である。
「ダミアン。お前の振舞いには失望した」
「……分かっている。女性のドレスを破いて脱がそうとするなど、山賊もいいところだ。すまない。頭に血が上った」
縛って転がされたことで、ダミアンも冷静になったのだろう。
しおらしく頭を下げるダミアンだが、ヴォルテールは容赦しない。
「頭に血が上った? はっ、何とも創造性豊かな言い訳だな。その程度でミルカ嬢が納得するとでも?」
「思っていない。許しを得られるとも思わない。ただ俺は――焦っていた。父を殺した者と同じしるしが、ミルカさんの体に刻まれている意味を、知りたくてたまらなかった」
ダミアンの、餓えた獣の如き目がヴォルテールを射抜く。
「なあ、俺の父を殺した奴は、ミルカさんの背に傷を刻んだ奴と、同一人物なんだろう?」
ヴォルテールはしばらく考え込むようにダミアンを睨んでいた。
「――忌々しい」
「俺を遠ざけるか。処罰を与えるか? どちらでもいい、真実を、俺に真実を教えてくれ……!」
「そうじゃない。ミルカ嬢の背中を一番最初に見たのがお前であるという事実が忌々しい」
「は?」
「あのひとの秘密は全て真っ先に俺が知りたかった。お前のような乱暴者の狩人などではなく!」
ダミアンは一瞬虚を突かれたような顔になったが、やがて得心したように呟いた。
「……理解した。つまりはドラゴン譲りの独占欲、というわけか」
「独占欲があって悪いか」
「悪いことなどないだろう。念の為に言っておくが、俺はミルカさんをどうこうしようという気はないからな」
「当然だ!」
ヴォルテールはふんと鼻を鳴らすと、
「ミルカ嬢を怖がらせ、あまつさえ服を無理やり脱がせた罪は重い。――その贖罪の代わりに、汚れ仕事を引き受けろ」
「何が起きているのか話してくれたら、何だってするさ」
ヴォルテールは、先程ミルカと話して分かったことを淡々と告げた。
王宮とデザストル商会が古くから結託し、魔法についての知見を深めようとしていること。
王宮はドラゴンを自由に操り、政敵を殺したり、意のままにしたりする魔法を求める代わりに、金を払う。
デザストル商会はその金を元に、ドラゴンや魔法に関する実験を行う。
ダミアンの父を殺したドラゴンも、ミルカの背中に傷をつけたドラゴンも、黒朱病の原因も、皆デザストル商会が一枚噛んでいる。
真実を知ったダミアンの顔が、驚愕に歪んだ。
「なるほど……! 裏で操っている人間がいたのか!」
「ドラゴンに言うことを聞かせる魔法など開発できるとは思えんが、デザストル商会の連中にあまり力をつけられても困る。ミルカ嬢に懐いているプラチナドラゴンにも害を及ぼしかねない」
溜息をつくヴォルテールの眼差しに、微かな憂いが浮かぶのを、ダミアンは見た。
「できるだけミルカ嬢の思う通りに事を進めたいものだが。そう上手くいくかどうか……」
「よく分からんが、デザストル商会が父の仇であれば、俺は何でも協力するぞ」
「その言葉に偽りはないな?」
「ああ。我が弓に賭けて誓おう」
狩人の最も強い誓いを聞き、ヴォルテールは頷いた。
「何かあったら言伝を送る。それまでしばし待て」
「分かった」
「ケネス。縛りを解いてやれ」
ダミアンは縄を解かれると、大人しくドラゴン舎を出て行った。
ケネスはその後姿を油断なく見送った後、静かに呟いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます