時は止まり、心高鳴る。
氷河 雪
出会い
この力を活かせば周囲からの人気や信頼を得られる人物にもなりえるが、当然それにはリスクもつきまとう。それをわかっていた心音は信頼できる少数の友人と小中学生の時間を過ごしてきた。
しかし高校に進学したことでそれらの友人とは離れ離れになってしまい、また一から人間関係を築くのも面倒だと感じた心音は、必要最低限のコミュニケーションだけで高校生活を送っていた。
毎日少しずつ暑くなってきて、高校生活にも少しずつ慣れてきたある日の放課後、靴箱で靴を履き替え、私は学校の敷地内を校門に向かって一人で歩いていた。
「はぁ……」
運動部が練習に励んでいる声が聞こえる。六限が体育だったのもあり、疲れで小さくため息をつく。早く家に帰ろう。なんて思っていたその時「危ない!」と大きな声が聞こえた。声がした方に振り向くも、それに気付いた時にはもう遅く、私の頭にサッカーボールが当たってしまった。
「うっ、うぅ……」
頭が痛くて私は思わず蹲る。頭痛で力が上手く制御できなくなり、事態に気付き駆け寄ってきた数人の口から出る心配の声、そしてそれぞれの本音が聞こえる。本気で心配している者もいれば、口だけで対して興味を持っていない者、若干邪な事を考えている者もいた。
そんな時一人の女の子がこちらに近寄ってきた。彼女は屈み、こちらに背を向けて話しかけてきた。
「背負って保健室まで連れていくから乗って!」
「わかった……」
黒いショートヘアの私よりも背が小さい彼女は可愛い見た目に似合わない力で私を背負い、保健室まで早歩きで進む。
「これ保冷材! 使って!」
「あ、ありがとう……」
と言われて彼女がどこからか取り出した保冷剤を差し出されたのでお礼を言って受け取り、保冷剤を頭に当てた。頭痛も少しマシになり、能力の制御も落ち着いてきた。
保健室に着き、先生に診てもらったところ大きな問題はないとのことだったので、ひとまず保健室のベッドで休むことにした。私をここまで運んでくれた子は隣に座ってこちらの様子を窺っている。
「運んでくれてありがとう。助かったよ」
「いいよいいよ、気にしないで。困ってる人を助けるのは当然の事でしょ」
彼女は笑顔でそう返してきた。
「あ、言い忘れてたけど、私の名前は
「五十内心音。霜里さん、よろしく」
「うんよろしくね!五十内さん!」
彼女……霜里さんと互いに自己紹介をした私は、ふとちょっとした疑問が頭に浮かぶ。気になったので、彼女に問いかけてみることにした。
「そういえばさっき渡してくれた保冷材、最近暑くなってきたからかな? あれいつも携帯してるの?」
「んーまぁそう。偶然持ってたんだよねー」
少々言葉の歯切れが悪い事が気になり、この子に興味と若干の不信感を抱いた私は悪いなと思いながらも少しだけ心を読んでみることにした。
(時間止めて保冷材ここまで取りに行ったなんて言えないしなぁ)
え?
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