第二話 だあぁぁ~~っ 金縛りだあ!


 日本映画に『ステキな金縛り』というのがある。

 明るく楽しく全然恐くない良い話なのだが、実際の『金縛り』はご存じの通りちっとも素敵じゃない。


 実はこの間、久しぶりに金縛りに見舞われた。

 朝方の夢の中なのであるが、ふと夢の中で目を覚ました瞬間にガッチリなっていた。


 しかも今までの中でもかなりガチなヤツで、通常ならほんの少しくらい体を揺ったり、指を動かしたりは出来るものなのだが、今回のはまさに型に嵌められたみたいにちっとも動けない。

 仰向けではなく、重心をずらしやすい横向きなのにも関わらずである。


 やべぇなこれっ! 

 起き抜け状態なので思考もこれしか動かない。


 部屋の中は、カーテン越しにも朝日でかなり明るくなっている。

 目の前の壁も布団もいつもと変らない。

 

 が、視野の中をススッと白いワンピースの足が通った。

 目だけで追うと、顔は見えなかったが黒髪の女の子が足側にまわるところだった。

 何か話しかけて来ていたようだが、覚えていない。

 なにしろこちとら体を動かそうと必至なのである。


 と、背中にぴたっとくっついて来た。

 何故か彼女も横になって、私の背中に抱きついてきたのである。

 その時 鎖骨の下あたりを、彼女が両手を当ててきた感触がハッキリ伝わってきた。


 どういう訳かこういう時はいつも、布団をかけていようが、服を着ていようが何故か素通り、素肌を直接触られる感じがするのである。

 やはり素通しなのだろうか。


 しかしそれよりもまず金縛りを解くことが優先だ。

「むふぅぅぅ~~っ うふぅぅぅ~~っ」

 もう変なオヤジの鼻息みたいな声を出しながら、渾身の力込めである。


 するとそんな様子に気付いたのか。彼女はさっと離れると、ススッと開いた襖から隣の部屋に出ていった。

 同時に私の金縛りも解けた。


 私はすぐさまバッと飛び起きると、隣の部屋へ追いかけた。

 何故なら、でいたからだ。


 強いわけでない。

 私は臆病者である。

 だからこそ、このままうやむやにするとナメられっぱなしだと危惧するのだ。

 怖いからこその反撃だ。


 高校生の頃、ホラー映画みたいに悪夢に五日間悩まされたことがある。

 あれは後から、たまたまに来た輩だったと考えられたのだが、当時の私にはそんな余裕もなく、そういうイジメる奴は、相手が怖がれば怖がるほど面白がるものである。


 毎晩横になるとすぐに金縛りになり、夢の中だかそれとも現実の狭間なのか、布団を被っている私のまわりでガラガラガシャガシャと、ポルターガイストのような騒々しい音がする。

 当時の私は、始めはただブルブル泣きそうに怖がっているだけだった。

 

 てやんでぃっ!! いい加減にしろっ!

 だが最後の五日目の夜には私もキレた。寝不足になるし、なにしろ理不尽だっ!

 すると向こうは急に焦って逃げていった。

 もう二度と来るなっ!

 

 それから私は恐がるばかりではなく、なんとか抵抗すること決めたのだ。

 なめたらあかんぜよっ! なのである。


 金縛り以外にも、ドアの下から手が出てきて掴まれるというリアルな夢も見た。

 ギャ~っ 恐えぇ~っ!! 

 だから逆に掴んで引きずり出しボコ殴った。


 もちろん毎回恐いし、ホログラムのように素通りして殴れないこともある。

 だが抵抗しなければやられっぱなしだ。負けたくねぇ~っ!

 素人だからか、念仏も九字も利かない。


 以前、真っ暗な部屋の中にいた白い服のヤツに、ビビりながら唱えたら『何それ?』的に失笑されて、頭をゆっくり押さえられたことがあった。(悪夢です)

 恐いし、チビだからって馬鹿にされてる感も悔しいっ。


 戦う力はもう気合いしかない。けれどそれが大事なのだ。

 

 要は『悪意に対して屈さない』と示す事。

 ビビる気持ちを抑え込んで、抵抗力に変える。『窮鼠猫を嚙む』なのだ。


 もう私の頭の中は子供の頃見た『電子戦隊デンジマン』(古っ!)のエンディングテーマ、

『デンジマンにまかせろ!』が何度もリフレインする。


『♪ どうする どうする どうする 君ならどうする――』

 私はこの先を『んだっ おれ達は――』だとずっと思っていた。

 最近になって本当は『まかせるんだ』だったと判明。

 訊いといてそれかよっ とツッコみたくなったが、やはり私の『デンジマン』はいつでも『戦う』ままのレジスタンス歌なのだ。(勝手に替えたけど)


 ただ、これはあくまで私個人流。

 他の方によると、金縛りは無理に解かない方が良いとか、無視した方がいいとか色々意見がある。

 だからこのやり方が正解だとは決して言えない。


 話が逸れた。  

 とにかくあらためて考えると、彼女はおそらく悪気はなかった気がする。

 どこか親し気だったし、触れられた背中は冷たく感じなかった。

 悪意があるヤツに触られると、本当に背骨に直接氷水を流されたような電撃的悪寒が走る。


 以前もやはり『触ってもいい?』と言って背中から半分入って来たがいたが、やはり冷たくもなかった。(彼女の場合は金縛りは無し)

 この時も『出てかないと怒るぞ』と怒ったらすぐに離れた。

 やはり悪意が無かったのだろう。友達感覚のようだった。

 始めに普通に話してしまった私も悪いのだが。


 ファーストコンタクトって大事。

 あ、こいつ相手してくれるとか思われちゃう…💧


 と、考えるとじゃあなんで『金縛り』なんかにするんだ?

 もしかしてしてるつもりはないのか??


 よくある疲れてる時に起こる『睡眠麻痺』

 これは脳が起きてるのに体は寝ているから、筋肉が動かせないってヤツですな。

 

 いわゆる半寝ぼけってやつなので、起きてるけど夢も重なって見てることも少なからずある、一種のトランス状態なんだと思う。

 だからそういう時の夢――幻覚と考えられなくもないのだが、取り敢えず今はそっちの可能性は無視して話を進める。


 トランス状態だと感覚も普段とは違って来るから、波長――チャンネルが繋がりやすいのでは?

 なのでそういうモノを感じやすくなる。

 または波長が繋がった時に、相手の影響を受けてその状態を維持するから?

 

 もう『鶏が先か、卵が先か』理論になってしまった。


 せめて悪気がないなら、こちらが動けないのを察して欲しいものである。

 そんな状態ではまず友好関係は無理だ。

 修学旅行じゃないんだから、一緒に寝転がって話しされても、それはそれで絵面が恐い。


 ――結局、隣の部屋に飛び込んだ時には完全に夢に切り替わったらしく、部屋も変わり、どうやら彼女人物をボコ殴りにしていた。(……彼女だったら嫌だなあ……)

 おお、なんか書いてて思ったが、我ながら情けなくランボー者だな……(・_・;)

 ある意味パニック状態なので、そこは許して欲しい。


 ただ私の個人的経験からすると、悪意を持って来たのは全てだった。


 まあ、本人にその気がなくても悪影響の出る場合があるし、ましてや力になれるわけではないから頼られても困るのだけどね。


 地理を知らない者に道を尋ねられてもわからないのだ。

専門家プロのところに行ってほしいものである。


 実は私にとって、人以外ナチュラルの件の方が『素敵な――』が多いのだが、ここは『金縛り』括りなので、それは別エッセイ『ちょっぴり奇妙……?な日々是々』にてお話したい。

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