05 提案の受け入れと出発

「え……? ガイアブルクの国民にですか? 俺たちが?」


『そうだ。 今後の君たちにとって悪い事ではないはずだよ、佐々木 暁斗くん。 娘から聞いた話じゃガルタイト国で無能扱いにされたそうじゃないか』


「確かに……、そうですが……」


 そうだ。

 あのガルタイト国で唯一勇者の素質を持たなかったために無能扱いにされたんだったか。

 俺が無能と分かった瞬間のみんなの蔑む視線が精神的に辛かった記憶がある。


『あの国の考えは私も呆れ果ててる。 だが、奴らは決して己を曲げない。 悪い意味で』


 ひなたも黙ってクリストフ国王の話を聞いている。

 彼女自身もあの国に対して思うところがあるようだ。


『そんな中で葛野 ひなたくんが、友達の暁斗くんを助けるために反旗を翻したと聞いたよ』


「ええ、間違いないです」


『奴らは確実に狙ってくる。 ガルタイトを裏切ったひなたくんと無能扱いされながらも生きている暁斗くんをね』


 そう、今まで追手が来なかったのが奇跡に近い。

 これからは奴らの追手が俺たちの命を奪いにやってくる。

 それこそ、勇者であるあいつらを使ってでも……。


『だが、君たちがガイアブルクの国民として登録すれば、我々も全面的に君たちを大切な国民として守り抜けるし、君たちのレベルアップの機会も与えられる』


「レベルアップの機会……とは?」


「王城内の訓練室を利用したり、冒険者ギルドに登録して正規に冒険者になることもできるんだよ」


 俺が質問をしたところ、アイリスちゃんの方から答えが返ってきた。

 冒険者正規登録や訓練室の利用が可能になるのか……。


「そうなのか?」


「そうだよ。 私も魔術師として冒険者登録しているんだよ。 もし、二人が固定パーティを組めば、何かがあってもお互い守れるしね。 もちろん私も二人を守ってあげれるよ」


『そういうことさ。 我が国の兵士はガルタイト国より優秀だと自負できるからね。 どうだ、悪くないだろう?』


 これまでの話を聞いて、俺は考え込んだ。

 俺にとっては、今のままよりは幾分魅力的な提案なのだろう。

 だが、ひなたの考えはどうなんだろうか……?


「ひなたはどうする?」


 思い切って、ひなたにどうするか聞いた。

 俺が勝手に決めるわけにはいかないと思ったから。


「私は暁斗君についていくよ。 せっかくアイリスちゃんと仲良くなったことだし、何より、あいつらと戦うならもっと鍛えないとだめだしね。 そのためにもクリストフ国王の提案に乗るべきだよ」


 ひなたも同意を示してくれた。

 だから、俺はこの提案を受け入れることにした。


「わかりました。 あなたの提案を受け入れます」


『そうか、ではこちらで書類の準備をするから、明日以降に準備が完了したらアイリスと一緒にガイアブルクの城下町に来てくれ。いつでも入れるように門番の兵士には話をつけておくから』


「はい、こちらこそよろしくお願いします」


『うむ、それでは私はこれで失礼するよ』


 赤い水晶玉から光が消えた。 通信が終わったのだろう。


「さて、さっきお父さんが言ったように今日はゆっくり休んで明日の昼頃にガイアブルクに向かうからね」


「うん、私もまだ看病疲れが残ってるし、何よりも今日はゆっくり話したいからね」


「そうだな、俺なんか一週間意識がなかったから特にな」


 そう言ってお互い笑いあいながら今日1日をこの別荘でゆっくり過ごすことにしたのだ。


◇◇◇◇◇


 翌日の昼。

 荷物は一部を残して全てアイリスちゃんの魔法のカバンに入っている。

 どうも、特殊な構造をしており、無限に物が入るが重さは見た目のカバンと変わらないんだとか。

 俺の細かいステータス調査や訓練なんかもガイアブルクに着いてから行うとのこと。


「さて、そろそろ行くか。 少し眠いけど」


 昨日の夜は、二人に添い寝をされた。

 その時の二人はほぼ下着姿だったので、あまり眠れなかったのだ。

 二人の積極的な行動に肝が冷えたが、それだけ俺を想ってくれてるんだろうと思って割り切った。

 ちなみにひなたはピンク、アイリスちゃんはブルーだった。


 とまぁ、それが理由による寝不足を堪えて、玄関へと向かう。


「お、来た来た」


「ちょうどこっちも出発の準備ができたよ」


 ひなたとアイリスちゃんが玄関先で待機していた。

 案内役は当然アイリスちゃん。

 彼女の本来の住まいであるガイアブルクへの道のりは彼女がよく知っているからだ。

 転移アイテムもあるらしいが、今は数が少ないので馬車を用意したようだ。

 休憩しながら進んでも3日はかかるが、それまでにある幾つかの町の宿屋に泊れば問題ないらしい。

 三人が集まったところで、アイリスちゃんが声を掛ける。


「それじゃ、ガイアブルクに向けて出発するよー」


「「おー!!」」


 こうして、俺たちはガイアブルクを目指して出発した。

 向こうでの新生活に期待を込めて馬車は進んでいく……。

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