03 追憶その2~無能少年と反逆少女~

【Side ひなた】


 私、葛野かどの ひなたは、中学からの男友達の 暁斗あきと君と他クラスメイト、ならびに担任の先生と共にガルタイトという名前の国の城の中にいた。

 確か、朝のホームルームを始めようとしていた所で少し教室が揺れたから避難しようとしたけど教室のドアと窓が開かなくなり、その後に床下から発する光に飲み込まれたかと思えばいきなりここに飛ばされたんだ。


 当然ながらみんなざわついているし、暁斗君に至っては呆然としている。

 彼は、高校になっても私ともう一人の女子以外の友達はいないので、私がよく彼と会話したりゲームをしたりして遊んでいた。

 こういう時に収めるべきの担任の女教師もパニック状態なのでどうしようもない。

 そんな時、不快な声を耳にした。


「ようこそ、異世界の勇者たちよ。 我はヘイト・ゾア・ガルタイトである。 そなたたちは魔王を倒してもらうための戦力として召喚させてもらった」


 やはり、聞いてて不快だった。

 こちらの都合もお構いなしとか……理不尽にも程がある。

 ヘイト・ゾア・ガルタイトの発言の後のみんなの反応もバラバラだ。


「へぇ、魔王退治か。 おもしろそーじゃん」


「まるでラノベの世界みたいだな。 それが実際に経験できるんだ。 やるしかないよなぁ」


 そんな事を言う如月きさらぎ 光輝こうき来栖くるす 貴之たかゆきを筆頭とした奴らがやる気満々なのだが、その一方で……。


「召喚だって!? ふざけるなよ!!」


「元の世界に帰してよ!!」


「そーだ、そーだ!!」


 一部のクラスメイトからは批判の声が上がった。

 その気持ちは嫌でも理解できる。

 私だってそうだし、口には出さないが暁斗君もそうだ。

 だが、向こうは知ったこっちゃないといわんばかりに批判を無視する。


「そなたたちはまず、ステータスを確認させてもらおう。 魔王を倒すには勇者の資質が必要なのでな」


 国王がそう言った直後、部下が水晶玉のようなものを持ってきた。 ステータスというものをこれで確認するのだろうか。


「では、順番に水晶玉に手を触れるのだ」


 まずはやる気満々な奴らのグループが、次から次へと水晶に手を触れる。

 反応からしてみんな勇者という名の素質持ちのようだ。

 みんなもヘイトに批判を無視された事で諦めたかのように次々と水晶玉に手を触れる。


 そして私の番。

 手を触れた瞬間、何かが流れ込むような感覚がした。

 多分、スキルなんかを習得させたんだろうね。

 私も何故か勇者としての素質持ちだったらしく合格とのこと。


 ここで私は嫌な予感を察した。

 この手の……異世界転移のノベルのテンプレ状況ならば、誰か一人が無能扱いされる可能性があるという事だ。

 その不安をよそに、最後は暁斗君が水晶に手を触れた結果……。


「この男、勇者の素質がありません!」


「ええい、まさか勇者の中に無能が紛れ込んでいたとは!」


 嫌な予感が的中した。

 暁斗君が無能扱いされたのだ。

 それが判明した瞬間、クラスメイトや担任からもゴミを見るような視線を送るようになった。


「どういうことなんだよ! なんでだよ!!」


 暁斗君が怒り狂う。

 当然だ。

 無能扱いされだした瞬間、みんなして蔑んできたのだから。


「アン、まずはアレを仕込め」


「はい、お父様」


 王女なのか、国王の後ろから現れた女が指パッチンとした瞬間、暁斗君の意識が失われた。


(暁斗君……!!)


 一連のやり取りを見ても彼を助けない。

 そんな光景に、私はついにキレた。


「さぁ、ザナよ。 その男を嬲り殺せ」


「はいっ!!」


 もう一人の王女が彼をサンドバックにしようとした瞬間に私の体が動いた。

 周囲からの何らかの#圧力__プレッシャー__#は感じていたが、それ以上に大切な人が酷い目に遭う事を許さない私の意志がそれをはねのけた。


「でぇぇぇぇいっ!!」


「きゃあぁぁぁぁっ!?」


 暁斗君ともう一人の王女の間に割り込み、勢いのままサナと名乗った王女を背負い投げを仕掛けた。

 スカートなので、一部の視点からは下着が見えてるのだろうが、今はそれを気にしている場合じゃない。


「か、葛野さん……!?」


「勇者殿、おやめくださ……あぐぅっ!!」


 担任の葛間くずま 葛葉くずはが何か嘆いているが、気にしない。

 止めようとする兵士に対し、正拳突きを食らわすと、気を失ったのを見て剣を奪い取った。

 第三者からはクールな文学少女と言われていたが、祖父からいろんな武術を仕込まれており、それが遺憾なく発揮された格好だ。

 だが、水晶から流れた力も補正として働いているので思った以上の威力が出た。


「な、何故だ! 何故、勇者であるそなたが、その無能をかばうのだ!?」


 国王は驚きを隠せない表情で、私に問いてきた。

 今の光景でクラスメイトも他の兵士も唖然としている。


「友達を助けるのに、理由が必要なのかい、糞国王!」


「な……!?」


「葛野、正気かよ!?」


 クラスの陽キャの筆頭の一人である如月きさらぎ 光輝こうきが信じられない表情で言ってくる。

 私は至って正気なんだが、正直に答えてやるか。


「ああ、私は魔王討伐より友達を助ける方を取った。 ただそれだけ……さっ!!」


 私はそう言いながら背負い投げで倒れた王女の太腿部分に剣を思いっきり突き刺した。

 赤い血が私の顔まで届くくらいに噴き出してくる。


「ああああああああっ!!」


 突き刺された王女が悲鳴を上げる。

 これは暁斗君を守るための私の反逆の証。

 突き刺した剣を再び抜いて、血まみれの刃を国王やクラスメイト達に向け、こう宣言した。


「これ以上、私の友達にひどい目にあわせようなら、こっちも容赦はしないから」


 全員が身動きが取れなくなったのを見て、私はスキル【グレートブースター】を掛けて身体能力を強化。

 その力で、暁斗君をお姫様抱っこをして、そのままダッシュで走り始める。

 途中の壁もぶち破って、飛び降りもした。

 勇者のスキルである【グレートブースター】のおかげで傷一つもない。

 とりあえず走ることにした。

 どこまでも遠く。


◇◇◇◇


「これが、私が経験したガルタイト国の顛末だよ」


「魔族殲滅主義だけじゃなく勇者至上主義までも貫くとか……。 無能扱いされたお兄ちゃんが不憫すぎるよ」


「そうだよ。 だから私は彼を助け、そのまま反逆し、ガルタイトの王都を出ておよそ3,4時間程走り続けたんだよ。暁斗君を抱えたままでね」


 アイリスちゃんに私が経験したガルタイト国の話をした直後、彼女は怒りを滲ませた。

 彼女からしてやはりガルタイト国の振る舞いは許されないものなんだろう。

 それだけじゃない気もしたが、今は聞かない方がいいだろう。


「お話してくれてありがとう。 なんとしてもお兄ちゃんを助けないとね」


「同感だよ。 私も彼に想いを寄せてるからね。 なんとしても元気になってほしいからね」


「よし、なら二人でお兄ちゃんの看病をしよう! あ、その前に私もトイレに行かなきゃ」


「あ、そうか。 じゃ、先に私が彼を看病するよ」


 暁斗君のことでアイリスちゃんと意気投合し、二人で力を合わせて看病することにした。

 それは、1週間後に彼が目覚めるまで交代で睡眠を取りつつ、看病し続けた。


 だけど、この時の私は暁斗君にかまけて、もう一人の気弱な友達の事を忘れてしまっていた事に気付いていなかったんだ……。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る