第5話「試験終わったからデートに付き合って」


「うわぁ……すげぇな、椎名会長」

「さっちゃんまた1位じゃんっ‼︎」

「こりゃ天使というよりも全知全能の神だろっ」

「まったく、勝てっこないよなぁ〜〜」


 試験が終わり、一週間後。

 ようやく採点が終わり、毎度のこと今回も職員室前の廊下に2年生の中間試験の順位結果が張り出されていた。


 椎名沙月しいなさつき 学年1位 

 数学Ⅱ 100点 数学B 98点 英語表現 99点 C英語 100点 化学 100点 物理 96点……


 と言ったところで、10教科合計989点と化け物じみている結果だった。


 もちろん、2位との差は10点以上と大差で、87位の俺とは実に80点以上も差をつけている。


 そんなあからさまにいい結果も今日も囲まれながら淡々と眺める椎名さん。周りの友達に謙虚にもペコペコしながら、一眼見て去っていく姿はさすが学校の顔だった。




 そして、その日の帰り。


 試験が終わってからというものの生徒会活動で忙しかったために二人きりで会うのはじつに一週間ぶりだった。まぁ、LINEはしてたけどな。


「ねぇ、聞いてもいい?」

「ん、どうしたんですか?」


 いつも通りの道を帰っていると、隣を歩く頭1分の離れた椎名さんは俺の袖をきゅっと引っ張って訊ねてきた。


「試験期間終わったし、街の方に行かない?」

「街ですか?」

「えぇ、私仕事だったし全然遊べてないもの。たまには遊びたいなと……」

「ま、まぁ、いいですけど……」


 いつにもなくというか、珍しく頼み込んでくる彼女。

 頬をぽりぽりとかいて赤くさせる。


「椎名さんも遊びたいんですね」

「そりゃそうよ……私をなんだと思っているの?」

「完璧超人」

「……まぁ、否めないわね」

「いや、それ自分で言ったら意味ないですよ……」

「……本音だもの、実際そう言われてるでしょ?」

「まぁ、それはそうですけど」

「ふふっ、冗談よ……」


 クスっと笑う。


「堅苦しいのは嫌いなのよ、私。みんなの期待で天使を演じてるけど、けっこう乙女なのよ?」

「乙女は添い寝に誘ったりはしませんよ?」

「天使なら誘うの?」

「うーん、天使はそうですね。添い寝よりも膝枕の方がしてくれそうですね」

「あら、それなら私は天使なのね」

「だからみんな言ってるんですよ?」

「和樹くんと周りの人たちの言っている天使は違うと思うけどね」

「どうだか……」

「照れなくてもいいのに」

「照れてないですよっ」


 いつもと変わらないくだらない話の掛け合い。

 そんなくだらない話を楽しそうにする彼女は嬉しそうにステップする。


「よっと、ほらっ。和樹くん、いくわよっ」

「あ、ちょっと制服寄れちゃ」

「いいからっ!」


 思いっきり袖を掴んだ彼女に連れていかれる形で俺は小走りするのだった。







 


 ――ということで、まず初めに来たのは女子高生の間で人気を誇るスムージー専門店。


「私、ここに来てみたかったの!」

「おぉ……」


 飛び跳ねて嬉しそうにする椎名さんの傍、圧倒的なアウェー感にやられる。もちろん、店の周りにいるのは近所の生けている女子高生たちで男子学生の姿はまったくと言っていいほど見受けられなかった。


「ほら、何めそめそしてるの? いこっ」

「ちょ、わ、わかってますって」


 そんなこんなで周りの雰囲気に圧倒されながらもおすすめのバナナドリンクを買い、俺たちはその場を離れる。


 近場の公園に置かれているベンチに座って受け取った紙袋を開いた。


 すると、中から出てきたのは二つのドリンク。俺が頼んだバナナ色のものと、椎名さんが頼んだいちご色のミルクドリンクのカップで、可愛らしいロゴが描かれてある。


「これよぉ! これこれ! かわいい〜〜」

「美味しそうですねっ」

「せっかくだから、写真撮りましょ?」

「いいですけど……」

「はいっ、手で持ってこっちきて!」


 唐突に始まる自撮り大会。


 女子高生らしい可愛らしい表情を見せてスマホを掲げる彼女。


 普段から真面目に授業を受けている生徒会長様だとは思えない仕草に呆然としてしまった。


「あぁ、もう! こうやって笑いなさいよっ」

「いぎっ……ひゃめへふははいぃ」

「こうやって、ほらっ! はいチーズ!」


 半ば強引にほっぺを引っ張られながら写真を撮られ、初めて撮る自撮りの一枚は少し歪んだ顔になってしまっていた。


 写真を確認しながら、椎名さんは何かに気づいたのか「あ」と言葉を漏らす。


「ねぇ、プリクラ撮ってみない?」

「え?」


 

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