第27話
森の奥を慎重に進んでいきます。出てくる魔物はホーンウルフやポイズンラビットがほとんど、中にはハイドスネークと言う姿を隠す蛇の魔物が居ましたが、襲い掛かる際に殺気が漏れていますので簡単に居場所が分かります。
「いや、ススム?当たり前の様にハイドスネークの首を落しているが異常だからな?ミダスではハイドスネークは姿の見えない暗殺者として、冒険者になりたての連中からは恐れられているからな?」
「そうなのですか?ベルジュさんもその内に同じ事が出来ると思いますよ?」
「いやいや、お前の様には絶対に無理だ。」
「そうですか。ではついでですからお教えしましょう。」
ベルジュさんも対処出来ているというのに私の様には無理だと言います。ならば気配の読み方講座を行いましょう。と言っても感覚的な物なので教えると言っても難しいのですが。
言葉にすれば簡単で、五感を研ぎ澄まして木々の騒めきや響いて来る鳴き声、自身の動く音に注意を払い違和感のある物に注意するというだけです。獲物を狙う獣はじっと息を潜めていますが、体の動きは止められても心臓だけはどうしても止められません。心臓が止められないという事は何かが動き、存在感を発している物があるという事です。
「木の上から襲い掛かるハイドスネークの動き等見つけられないだろう?」
「飛び掛かる時に枝がしなり、葉っぱが落ちる事があります。何かが擦れるような音もしますので、後はそちらに向かって武器を振るだけです。」
「簡単そうに言うがそれは奥義と呼べる物なのでは無いか?」
「1カ月も森で生活していたら自然と身に着きますよ。」
薬も治療施設も無いジャングルでの生活は怪我=死ですからね。それはもう必死に覚えましたよ。ベルジュさんにもそのうちサバイバル生活をさせてみましょうかね?
「何やら悪寒がするのだが・・・。」
「しっ!!何か居ます。」
話ながらも私達は森の奥に進んでいました。だんだんと暗くなる森の中、その場所だけが木が無く日の光りが射しています。
そしてそこには黒いローブを纏った人が1人。何やら地面に描いた魔法陣の様な物に向かってぶつぶつと呪文を呟いていました。
「・・・・。ススム、あれが原因か?」
「恐らくは・・・。あっ見て下さい。」
相手に聞こえない様に小声で話す私達、じっと観察していると魔法陣から紫の光りが溢れ、男がその中に檻に入ったウサギを放り込むとウサギがポイズンラビットに変化しました。
男はその様子を確認すると檻を開けてポイズンラビットを解放します。解放されたポイズンラビットは男から逃げる様に森の中に消えて行きました。
「あの男が森に魔物を放っていた犯人か。」
「そうですね。恐らくあの魔法陣で瘴気を濃縮して動物を魔物に変えているのでしょう。ですがなぜこのような事を?」
「そんな物、捕まえてから聞けばいいだろう。いくぞっ!!」
ベルジュさんが隠れていた草陰から飛び出して行ってしましました。剣を手に走るベルジュさん。私もその後に続いています。ローブの男はベルジュさんが飛び出した音でこちらに気が付き、慌てていますね。
「覚悟!!」
「っ!?『ファイーボール』!!」
刀を手に走って来るベルジュさんに向かって黒ローブは魔法を放ちました。それはヤジカさんが使った物とは比べ物にならない程に小さな火の玉。ベルジュさんはやすやすとその魔法を回避して相手に肉薄します。
「『ウインドボール』!!」
「2属性!?ぐあっ!!」
「ベルジュさん!!」
「大丈夫だ!!それよりそいつを!!」
「御免!!」ビシッ!!
「ぐっ!?」
もう少しで相手に手が届くという所で黒ローブがもう一度魔法を放ちました。言葉の通りなら風の玉を発射する魔法。目に見えないその魔法はベルジュさんを吹き飛ばしました。
彼女の影に隠れる様に動いていた私は吹き飛ばされた彼女を心配しますが。怪我をした様子も無い彼女から黒ローブの捕獲を優先する様に言われます。すぐに意識を黒ローブに戻した私は、刀の峰で相手の首筋を打ち気絶させる事に成功しました。その時には先ほど風の玉を発射した手とは反対に土の塊が浮いていましたので、判断が少し遅れていたら私も吹き飛ばされていたでしょう。彼女が声を出してくれて助かりました。
「大丈夫ですか?」
「あぁ、ただ吹き飛ばされただけだ。それよりあいつは?」
「気絶させただけですよ。事情も聞かないといけないでしょう?それよりも、先にこちらを処理しましょう。」
黒ローブが倒れたことで魔法陣の光りは収まっています。ですが、別の人に悪用されては堪った物ではありません。幸い先ほど私が踏み込んだ時に魔法陣の一部が崩れています。それで何も反応が無い事から犯人が魔法を使わなければ動かない魔法陣なのでしょう。犯人をロープで縛り上げ、所持品を奪ってから地面に直接掘られているそれをベルジュさんと2人で埋めていきます。
「よし、これで魔法陣は埋め終わった。次はこいつの顔を拝むとしよう。」
「魔法使いですので十分注意して下さい。何をしてくるか分かりませんから。」
「魔法を発動していた指輪は確保したんだ、おそらく何も出来ないはずだ。」
顔を隠していたローブを捲ると、そこには若い男性の顔がありました。茶色い髪に高い鼻、薄い唇に細い体をしています。持ち物には黒いローブと麻で出来た服の他に、自筆で書いたと思われる本と、木で出来た魔法陣の掘られた指輪を持っていました。
ベルジュさんが言うにはこの指輪が魔法を発動する為の道具という話です。ですがヤジカさんがやっていた様に、魔法は発動体が無くても使えます。十分注意しながら私は彼を起こす事に決めました。
念の為に刀を構えたままベルジュさんには男の横に立ってもらいます。私は彼の後ろから覚醒のツボを刺激して目を覚まさせました。
「ぐっ!・・・・ここは。」
「目が覚めましたか?」
「お前等は!!くそ!!邪魔をしやがって!!」
「おい、発言には注意しろ。素直に聞かれた事に答えれば手荒な真似はしない。だが黙秘や嘘を言うとこうなる。」
傍に立ってもらっていたベルジュさんがいつの間にか持って来た木が、刀によってスパッと両断されます。横にではなく縦に斬られた木が、ガランガランと音を立てて地面に倒れる様子に男の顔が蒼褪めて行くのが解りました。
「怖がらせてしまいましたね。正直に答えてくれれば何も致しません。私達はこの森で魔物が増えた原因を探りにここまで来たのです。おっと自己紹介がまだでしたね。私はススム、そしてこちらがベルジュさんです。あなたは?」
「・・・・・。マジク、マジク・ロッドだ。」
出来るだけ威圧感を与えない様に笑いながら経緯と自己紹介を行いました。彼の方はまだ警戒している様ですが、素直に名前を答えてくれました。
「ではマジクさん。あなたはここで何をしていたのですか?」
「見ていたのだろう?魔物を作る実験をしていたんだ。」
「それはなぜ?」
「・・・・・・。」
「おいっ。」
「待ってください。」
彼にここで何をしていたのかを聞きますと、魔物を作る実験をしていたと言います。ですがその理由については話したくない様子。黙ってしまった彼の首に刀を当てるベルジュさんですが、私はそれを止めました。
「なぜ止める?こいつがこの森に魔物を放った原因じゃないか。」
「ですがなんの理由も無くそのような事をする人には見えません。魔物化していたのも狼やウサギに蛇と、人で何とか対処できる範囲。熊や猪等の大型の獣では無かった事から、人に被害を与える事が目的ではない様に感じるのです。」
「狼や蛇は十分危険だと思うがな。」
私の推察にベルジュさんが反論します。私はそれでもじっとマジクさんの目を見続けていました。その瞳の奥には、強い怒りと後悔の念が浮かんでいるように感じます。
「貴方は何に対して怒っているのですか?そして何に対して後悔しているのですか?」
「なっ!!なぜそれを!!」
私の言葉に驚き固まるマジクさん。まるで化け物を見るような目をしてこちらを見ていますが、言葉にならない気持ちを察する力も教える者には必要なのですよ?
そして、これまで見て来た人達の態度から、彼が怒っている事については予想できます。間違えていたとしても彼が訂正してくれるでしょう。
「貴方はスキルレベルが低いからと冷遇されてきましたね?」
「ぐっ!?」
心を読まれていると思ったのでしょう。瞳を閉じて私に悟られない様にしています。ですが、その態度が私の言葉が正しいと教えている事に気が付いているでしょうか?
「そして、見返す為に自身の研究成果を発表しようとした。ですが、レベルの低さに相手にされずに一人で実験していた。後悔は・・・。森に来る人に自分が作り出した魔物が襲われるかもしれないと思ったからでは?」
「・・・・・。お前も魔法使いなのか?心を読む魔法なのか?」
「残念ながら私にそのような物は使えませんよ。私は“スキルを持っていません”から。」
私の言葉を肯定する様にゆっくりと目を開けたマジクさん。そして私がスキルを持っていないという言葉に彼は目を見開きました。そしてベルジュさんの方にも目線を向けました。
「私も剣術スキルが1でよく馬鹿にされた。お前の気持ちは・・・・分かるつもりだ。」
「そうか・・・・。」
マジクさんが項垂れ、抵抗する気が無くなったと見てベルジュさんは刀を鞘に戻します。さて、では彼の動機を聞き出すとしましょうか。
毎回無断転載対策で以下の文を入れます。読み飛ばしても大丈夫です。無断転載ダメ!!絶対!!
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