第16話

さて反射炉の仕組みは、物を燃やした熱を的確に対象物に集めて高温にするという物です。その為には、燃焼室と対象物を置く場所をきちんと決め、熱の反射具合を計算しなければいけません。


ですが私はここが魔法のある世界だと忘れていました。えぇ、実際に目の前で見ていたはずなのにその事象について学ぶことを怠っていたのです。知識としては知っていましたが、知識と実物はまた別です。私はまだ本当の意味で魔法という物を理解していませんでした。それと言うのも私が反射炉の設計図を見せた時、ルゼダさんはこう言ったのです。


「つまりはこう言う事だろう?燃やした物から熱と火を集めて熱したい物に移す。原理としてはそれだけだ。」

「えぇ、そして鋼を作るにはまず鉄に炭素を含ませ、必要な分以外を抜き取る必要があります。その為には高温で熱する必要が在るのですよ。」

「なら専用の炉何て必要ないぞ。火力は魔法で出せると言ったよな?」

「はい、お聞きしましたがどれほど高温になるかは聞いていませんので。」

「岩が溶けるくらいなら行けるぞ。」

「なんと?」

「あの安山岩という物は試していないが、そこら辺に転がっている岩は溶かせた。」


ヤジカさんの鍛冶屋近くで転がっているのは堆積岩。その中でも石灰岩が多く見受けられます。石灰岩の耐熱温度は600℃、それがドロドロに溶けるという事ですから1000℃近くは出るのでしょう。これは炉の形を工夫するだけで行けそうですね。


「では耐火煉瓦を使って熱効率の良い炉を作りましょう。出来れば溶けた鉄の取り出し口と、鍛造の為にインゴットを温める場所両方を作りたいのですが。」

「溶かすものは奥に、熱するのは手前に作ればいいだろう。奥に行くほど温度を高くすれば可能なはずだ。」


何と、私の知識を受けてヤジカさんは自分で使いやすい炉を設計してしまいました。ヤジカさんが作ったのは火の魔法で熱する事が前提の炉で、炉が壊れない様に気を使っていたがこれだと火の調整だけだと喜んでいましたね。恐らく、炉の壁近くの火や熱を制御していたのではないでしょうか?


スキルを持っているのかを尋ねると、昔火魔法というスキルを持っていて鍛冶を続けている家に勝手に消えたと返答が。やはりそちらにも才能が在ったと確信しました。鍛冶屋と火は切っても切り離せません。炉を壊さない様に無意識に火を操り恐らく自然に技術が上がったのでしょう。ヤジカさん自身は火魔法のスキルが無くなって火を着けるしか使えない物だと思っていたようですが。


明確なイメージが無ければ魔法は中途半端に発動します。火魔法が得意なヤジカさんの工房が熱かったのは火魔法が使えなくなったという思い込みから、熱の制御が出来ないと思っていたのでしょう。実際に作り上げた炉で火を起こしてそれを操作して貰うと、熱が炉の入り口から出てくることは無くなりました。


「なんと、では私は先に火魔法を完全に習得していたのか?」

「えぇ、出なければスキルが消えたりしません。恐らく攻撃何かにも使えると思いますよ?試しに火の矢を飛ばしてみてはどうですか?大事なのはイメージです。」

「ん、こう・・・か?おぉ!!本当に出た!!だがやはり私は戦うより鍛冶が良いな。これは自衛の為に使うとしよう。」

「そうですか、でも練習をすれば色々出来るようになります。鍛冶に有用な使い方もあるかもしれませんし、訓練はしておいてもいいかもしれませんね。」

「鍛冶のついでならやっておくよ。」


と言う事で炉も完成しました。楕円形の炉で、奥の左側には材料を入れる扉が。反対側には解けた金属を取り出す口が。手前には鍛造の為の口と火を着ける為に使っていた魔石をはめ込みました。鉄鉱石を溶かす場合には一緒に木炭を燃やして頂き、炭素を付与します。一度冷やしたそれを再度炉の奥に入れて熱し、余分な成分を抜いて鋼の完成です。


「炉の動きは順調ですね。では外側を作りましょうか。」

「耐火煉瓦と安山岩で床と壁を作り、居住空間には木の床を張る、だったな?」

「えぇ、それと屋根はこの安山岩を板状に加工して、屋根土で固定しましょう。万が一燃えない様に炉の周辺にはあまり木材を使わない様に。」

「解った。しかし0から色々な物を作り上げていくのは楽しいな!!」

「それだけヤジカさんは物作りが好きな証拠ですよ。ですが、鋼の剣を作るにはまだまだ知識不足です。教える事はまだありますので早く鍛冶工房を完成させてしまいましょう。」

「そうだな。」


ベルジュさんにも手伝って頂き、工房の壁を作り上げます。煉瓦と石を積み上げ間を屋根土で補強、窓と屋根の梁と居住場所の床は木材で作りましたが他はほぼ石と煉瓦です。屋根の上には石を加工した瓦を敷きました。


完成までに1カ月半、途中反応炉と坩堝作成をヤジカさん考案の炉に変えたおかげでかなり短縮できましたね。平屋でしたしヤジカさんが内装にこだわりがありませんでしたのでこれくらいの期間で出来ました。


「完成ですね。いやぁ、立派な物です。」


外観は石の壁に木の窓枠と目隠しが付いた西洋風の家ですね。煙突が2つ屋根から突き出ていて、1つは炉の物、もう1つは炊事をするためのキッチンの物です。せっかく耐火煉瓦が出来たのでコンロとオーブンを共に作ってしまいました。


「ここまでの家を作れるとは、ススムの知識は素晴らしいな・・・。なぁススム?あとで私の家も作ってくれないか?」

「時間と物資と人的余裕があれば出来ますよ。ですがやはり建築スキルを持つ人が居てくれると、その後に繋がるので良いのですがね。」

「今回は急がなければ私の修行も滞るからな。だがこれで使用に耐えうる剣を作れるのだろう?」

「えぇ、まぁその為にはヤジカさんに戻って来て頂きませんと。」

「・・・・・・・・・・。」

「感動するのは解るがそろそろ泣き止め、そして戻って来い。」


鍛冶工房兼住居が完成して静かに拳を握りしめて涙を流していたヤジカさん。ベルジュさんの声も聞こえていない様子です。


当初予定していた鉄の取り出し口は地下に作るというのは、炉の形が変更になった事で中止にしました。元々あの炉が在った空間は資材倉庫にして活用する事に。


工房も店舗も地上に移し、地下への入り口を工房から行ける様に改造。平屋の工房の裏手には炭焼き窯が置かれて常に煙を上げています。そうそう、炭焼き窯も改良したのですよ?


ヤジカさんの火魔法がかなり便利な事に気が付きまして、魔石を窯に組み込み後は木を並べて完全に蓋をして火を着けます。ヤジカさんが魔石に魔力を込めると込めた量によって一定の期間熱が発生し続けるので木を蒸し焼きにすることに成功したのです。これで見守りの必要も無く従来よりも短時間で反応を進める事が出来るようになりました。


あとは計画していた物で水車が在ります。川の水流を利用して鞴を動かして火力を上げようとしたのですが・・・。ヤジカさんには必要無かったですね。一応別の使い道が在りますので、川の傍に小屋を建てて動力を鍛冶工房まで引っ張っています。ギアと動力を伝える軸、それと水車自体の製造に難儀しました・・・。最後はほとんど一人で作っていましたよ。単身赴任で海外の学校に赴任した時に作った経験が生きましたね。


「それで?ススム的にはここからが本番なのだろう?」

「えぇ、まずは銑鉄から鋼を取り出し、そして剣を打って貰います。」

「いつもやっている方法じゃ・・・駄目なんだな?」


ヤジカさんがこちらに戻って来て私に問いかけます。私は頷きながらヤジカさんにこれからやる事を伝えました。


「見てみない事には解りませんが。恐らく色々ダメ出しをすると思います。どうします?ここで止めますか?」


ここまでやってしまいましたが、無理をしているのなら辞める事も出来ます。強制したくはないのでここが最後の意思確認ですね。


「ススムの知識は凄い。このような素晴らしい工房まで作ってしまうんだ。この先を知らない方が絶対に後悔するだろうな。」

「では、明日からにしましょう。」

「ん?今日から取り掛からないのか?まだ日も高いぞ?」

「まずは、ヤジカ工房完成の宴会をしましょう!!私達はこの1カ月半動きっぱなしでしたからね。まずは英気を養いませんと。」

「なら私は食事を買って来る!!」

「なら私は飲み物を用意しよう。」

「私はもう少しここで作業していますね。」

「何か作るのか?」

「いえ、少し知識を纏めておこうかと。」

「解った。なら二人で行って来る。」

「はい、行ってらっしゃい。」


さてと、ヤジカさんにはどのような方法で剣を作って頂きましょうか?やはり最初は鍛造ですかね?数を揃えるなら鋳造でしょうか?どちらから教えましょう。悩みますね。


毎回無断転載対策で以下の文を入れます。読み飛ばしても大丈夫です。無断転載ダメ!!絶対!!

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