第13話

私達は大森林と呼ばれる森にやって来ました。目的は薬草の採取。そしてベルジュさんに私の剣の動きを見せる事です。


まずは薬草の採取を終わらせようと地面をよく観察します。幸い薬草の形は依頼表の木の板に描かれていますので迷いません。


「ふぅ、これで目標分の採取は終わりですね。」

「うむ。しかしススムは薬草を探すのがうまかったな。どこかで経験していたのか?」

「知識の中に在っただけですよ。ですがやはり実際にやってみないと分からない事も多いですね。」


大体の植物が木々の隙間から差し込む日の光りを浴びて成長していきます。ですから日の射している場所を中心に探しただけなのですよ。癒し草の絵がアロエでしたのでもう少し簡単に見つかると思っていたのですが・・・。まさか手のひらに乗るサイズだったとは気が付かず、目印である赤い小さな花を見つけるまではしばらく探し回りました。きちんとミリアさんに話を聞いて置けば良かったですね。


「では、早速お相手が来たようですので私の剣術を見せましょう。」

「っ!?敵が居るのか!?」


慌てて腰の剣を抜くベルジュさん。そんなに慌てなくても相手も警戒していますから、すぐに飛び掛かって来ることはありませんよ。


「ベルジュさんはしっかりと私の動きを見ていてください。」

「あっあぁ、解った。だが大丈夫なのか?」

「えぇ、大丈夫です。」

「グルルルル。」


おっと、出てきましたね。ホーンウルフですか。この魔物でしたらベルジュさんも倒せますし、彼女の動きとどう違うのか解りやすいですね。


「では行きます。と言っても襲い掛かって来るまで待ちですが。」

「なぜだ?すぐに斬りかかればいいだろう?」

「こういう見通しの悪い場所では相手に襲い掛かるのは悪手ですよ。まずは自分のテリトリーを決めて「がうっ!!」襲い掛かって来た所を攻撃します。「ぎゃんっ!!」」


思い出しますねぇ、剣の師匠がいきなりジャングルに私を拉致して1カ月サバイバル生活をしろと剣だけ渡されて放り込まれましたっけ。突然長期間行方不明になったので、その時勤務していた学校と生徒に大変迷惑を掛けてしまいました。


「いま・・・何をしたんだ?」

「簡単ですよ。飛び掛かって来たホーンウルフの横に立ち、剣を首に振り下ろしただけです。」


言うだけなら本当にこれだけですね。もっと詳しく説明すると、飛び掛かって来たのを確認した私は、まずホーンウルフの攻撃を躱す為に右前に踏み込み、ホーンウルフが空中に居る間に左足を踏み込みながら剣を首に振り下ろしたんですから。


「見えませんでしたか?」

「あっあぁ・・・すまない。」

「では次はもっと遅くやってみましょう。」

「なに?」

「次が来ていますから。」

「「「「ぐるるるるる。」」」」


私達の周りを4匹のホーンウルフが囲っています。これだけいれば動きの理解も深まるでしょう。


「先ほど言いました通り、見通しの悪い森の中で剣を振るのでしたら。まずは剣を振っても問題無い場所に陣取り、相手の攻撃に合わせて迎撃します。もし追いかけて森の奥まで入ってしまえば、木に剣が当たり攻撃が満足にできない危険性が在るのです。幸いここは剣を振っても問題無いくらい広かったですからね。だからこちらから襲い掛かりませんでした。」「ぎゃんっ!!」「ギャヒーンッ!!」


なぜ場所を変えずに戦っているのかを説明している途中に2匹が襲い掛かって来ました。どうやらベルジュさんより私の方を脅威とみなして先に排除しようと動いたみたいですね。ですから1匹は蹴り飛ばし、もう1匹はさっきの動きをかなりゆっくりと行い仕留めました。


「見えましたか?」

「あっあぁ、確かに見えたが・・・。」

「すぐに出来るとは思っていません。まずは足運びを意識して立ち回ってみましょう。」「ぎゃんっ!!」


蹴り飛ばした1匹が再度襲って来たので今度は右足を軸に体を回転させ、相手の牙を避けながら剣を叩き込みました。回転の威力が乗った剣は簡単にホーンウルフの首を跳ね飛ばします。


「これはまぁ応用ですね。」

「そのような動きも出来るのか・・・。」

「ホーンウルフの攻撃は牙と爪、後は角での刺突です。全て直線的な動きですので、まずは相手の攻撃の軸をずらして躱し、その隙に一撃入れる事を目標にしましょう。逃げるときは前に出て相手の横に立つ形です。後ろに逃げては相手に追撃を許してしまいますから。」


4足獣は前に進む力が強いですが後ろや、真横への移動は不得意。2本脚で歩ける人間の方が小回りは上なのですよ。ですから飛び掛かってきたら真横に抜ける様に動くと相手は動き辛くなります。逆に後ろに逃げてしまうと勢いを保ったまま追撃されてしまいますから気を付けないといけません。


「こうっか!!」「ぎゃんっ!!」


さすがもう少しで才能を開花させるベルジュさん。私の動きを見ただけで真似してしまいました。まだ体重移動の力を十分に剣に伝えられていませんが、それでも格段に動きは良くなりましたね。


「その調子です。最後の一匹ですよ。」

「ススムの構えはこう・・・・。足の幅は・・・。剣の持ち方は・・・。待ちの姿勢で・・・。」「ぐるるるるるがぁっ!!」

「スキルの声が・・・。相手の動きをよく見て・・。ススムの動きを参考に・・・つまりはこう!!」


おぉっ!!なんと素晴らしい!!大口を開けて突っ込んで来たホーンウルフの横を抜けながら剣を振りぬきました!!見事にホーンウルフが口から上下に斬れていますね。


「これを・・・私がやったのか?」

「えぇ、それが本来のベルジュさんの力ですよ。いやぁ、まさか一度教えるだけでここまでになるとは、大変素晴らしい!!」


私の正直な気持ちをベルジュさんに伝えると、何やら恥ずかしいのか頭を掻いてごまかしていますね。


「もうこれで私はお役御免ですかね?」

「・・・・いや。まだまだだ。まだこの先が在るのだろうススム?」


何やら確信をもって私に問いかけている様子。さすが剣術の才能の塊、入り口に立っただけでその先が見えましたか。


「ふふふ、えぇ、それは剣の初歩。歩法の入り口です。まだまだ先はありますよ。剣の握り方、振り方、肩や背中、腰の使い方。ベルジュさんにはもっと色々と教えて差し上げたいですね。」

「だったらススムはまだ私の剣の師だ。逃がさないから覚悟しておくことだ。」


あぁうれしいですね、この世界でも人に教える事が出来ました。女神様からお願いされていましたが本当に出来るのか不安だったのですよ。ですが、彼女がこの世界で最初の私の生徒です。これからもしっかりと教導していきませんとね。


「ふふふ、それは怖いですね。ですが修行の前にやはりやる事が在りますね。」

「ほう?それは何だ?」

「剣を強くすることです。」


パキーン


私の持っていた剣とベルジュさんの剣が同時に折れます。柔らかく精度の低い純鉄で作られた剣は脆くすぐ壊れてしまうのですよね。剣の腕前が上がればなおの事、この純鉄の剣では耐久度が足りません。剣の道を教えるならば早急に対応しなければいけない事です。


「なるほど、これ以上強くなろうと思えば良質な武器が必要だと言う事か。」

「えぇ、それにはヤジカさんに頑張って頂きませんと。」

「ヤジカもススムの教え子になるのか。姉妹弟子だな。」

「まずは炉の改良と炭の生産です。鍛冶について教えるのはその後ですね。」

「どれくらい時間が掛かるのだ?」

「人が多ければそれだけ短くなりますが・・・。まぁ3人でやって2月程でしょうか?」


小さい物を作るつもりなのでそこまで時間は掛からないと思いますが、試行錯誤をする時間と、ヤジカさんが使いやすいように改良する時間も入れてそれくらいになるでしょう。


「そんなにかかるのか!!剣の腕が鈍ってしまう・・・。」

「大丈夫ですよ。剣を握らなくても出来る訓練法を教えますから。」

「そうか!!だったらすぐに戻ろう!少しでも早く私に合った剣が欲しい!」

「そんなに急いでもすぐには出来ませんから。それよりもホーンウルフを解体しましょう。手伝ってください。」

「あぁ解った!!」


毎回無断転載対策で以下の文を入れます。読み飛ばしても大丈夫です。無断転載ダメ!!絶対!!

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