第2話


  *


 退院するまでに一年の時間が経過した。


 I県立伝播高等学校に改めて登校するのは気が引ける。


 だけど、今回は桜舞が一緒にいるから大丈夫だ。


 これから改めて三年間、伝播高校に通わなきゃいけない。


 ちゃんと授業に出て、ちゃんと進級しなくては。


「……あ」


 思わず声が出たのには理由がある。


 伝播高校、一年A組の教室で僕は幼馴染に出会った。


「月子」


「武尊」


 彼女――布佐良ふさら月子つきこは、僕――神憑武尊の一歳年下の幼馴染である。


 昔は、よく一緒に遊んだ仲だった。


 だけど、高校に入ったらどうだ?


 僕は留年して、月子と同じクラスになってしまったけど、なんか気まずい。


「……いえ、神憑先輩ですね。一応、去年、この高校に入学しているわけですし」


「そう……。この高校では、あんまり話さないほうがいいかな?」


「そうしてください。わたしにはわたしのやりたいことがあるので」


「了解。じゃあ、干渉しない」


「じゃ」


 はあ、なんだか気が重くなる。


 入院していたのに、そんな冷たい態度を取らなくたっていいじゃないか。


 小学校、中学校、高等学校と進学するたびに人間関係が変わることはよくあることだから、しょうがないけどさ……。


 ちょっとしたすれ違い、かもしれないけど……嫌だなあ、こういうの。


 まあ、これから仲良くなる人たちを増やしていけばいいか。


 ……っていうか、桜舞を頼るしかないよな。


 桜舞も、このクラスにいるし。


 病み上がりだから、この状況を自分ひとりで解決するのは無理ゲーだ。


 だから桜舞を頼るしかない。


「……あれ?」


 桜舞って、どこの席にいるんだっけ?


  *


「ひとり、だなあ……」


 なんか教室の机で寝たふりをするのがくせになってきた。


 正直、月子のことはショックだったのかもしれない。


 なぜなら僕は彼女に勝手に片想いをしているからだ。


 だけど、あの彼女の態度は僕のなかでは、ない!


 百年だか、千年の恋も冷めるレベルだ。


 けど、好きなんだよ。


 僕はバカだから。


 これから彼女は、もしかしたら恋愛というものを経験していくはずだ。


 誰かに純潔を散らされる、なんてことを考えたら末期だなあ。


 そんなことを考えるのは男の本能としては正しいかもしれないけど、女からしたら、それを気にすること自体が気持ち悪いと思うだろうな。


 仕方ないけど、人間という動物は、そういうふうにできているんだ。


 理性では、その考えは気持ち悪いのかもしれないけどさ……何回、心のなかで繰り返すんだ、僕は。


 早く前に進みたい。


 恋わずらいなんて、するもんじゃない。


 なにもかも終わらせてしまいたい。


 そんなふうに思うのだけど、僕だって過去にいけないことをしていた。


 それは一年前のことである――。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る