第33話 前哨戦

 クリスと食事をした日から、数日が経過した。


 俺はその間に、ローブの下に着る鎧を買った。

 キマイラに丸腰で立ち向かうのが怖かったからだ。


 しかし魔術師といえば軽装でローブと思っていたが、他の戦闘職よりも動かなくていい分、むしろ重装備の方が合理的な気がする。

 グレイウルフの時もこれを着ていれば、腹を食い破られることもなかったのかもしれない。

 お値段は銀貨12枚。

 懐は食い破られてしまった。


 キマイラについても、ギルドで調べた。

 基本はライオン、頭が2つあり、双頭のもう一方はヤギ。

 翼を持ち、尻尾がヘビの魔物だという。

 4~5メートルほどの大きさで、素早い上に飛ぶことができる。

 ライオンの牙やヤギの角は貫通力が高く、尻尾のヘビには毒もある。

 過去に討伐依頼が組まれた際には、Bランクのクエストとして依頼されたらしい。


 ……めちゃくちゃ強そう。

 俺の気持ちとしては、B級の冒険者を雇って同行してもらいたい。

 しかしそれを提案したら、クリスはひとりで事を成そうとととするだろう。

 俺が協力を許されるのは、恩返しという名目があることと、話してしまった手前、といったところか。


 しょうがない。

 自分から言い出したことだ。

 腹を括ろう。


 ひとまず、クリスに冒険者登録をしてもらい、パーティーを組むことにした。

 キマイラに挑む前の連携の確認は必須だしな。

 どうせやるならクエストをこなした方が、報酬ももらえて一石二鳥だ。


 ちなみにパーティーを組んだら、そのランクはメンバーの中で最もランクが高い人と同じになる。

 つまり、俺がCランクだから、俺たちのパーティーはCランクだ。リーダーも俺。

 さらにちなみに、人の入れ替えを行うときは、リーダーと元のパーティーメンバーの過半数が所属していることが必須らしい。



 今日は、パーティーとしての初めてのクエストだ。

 気合い入れていこう。


 ギルドの前で待ち合わせをして、依頼をどれにするかクリスと相談する。


「私はクエストを知らないからな。依頼はハジメが決めてくれ」


 クリスはそう言って、判断を俺に丸投げしてきた。

 俺だってC級クエストは1回しか経験がないし、その1回で死にかけたんだ。

 判断に信頼がおけるとは、とうてい言えまい。

 しかし、他にやってくれる人もいない。

 しょうがなく、俺が選ぶ。


 うーむ。

 対キマイラ戦を想定しているから、できれば狙いは1匹のものがいいな。

 水辺とか特殊な環境のものも却下。

 捕獲の依頼も、できれば却下。

 殺して問題ないものがいい。


 となると、これか。


<オーク討伐 ピオーナ村 銀貨10枚>


 他のを探しても丁度いいのはなさそうだ。

 その依頼書を剥がして、受付に持っていく。

 受け取ったのは、馴染みの受付嬢だった。


「はい、承りました。こちらが資料です」


 いつものように、数枚の紙を渡される。


「パーティー、組まれたんですね。安心しました」

「ああ。

 君が言った通り、一人では無茶だったよ。

 また何かあったら、教えてくれ。」


 受付嬢は、にっこりと微笑んで言った。


「はい、承りました。

 これからも、気づいたことがあったら言わせていただきますね」



 ーーーーー



 ギルドを後にして、ピオーナ村を目指す。

 馬車で2時間の道のりだ。

 その間に、資料に目を通す。


 なんでも、オークが村を歩いているのが、数回目撃されたらしい。

 今のところ被害はないものの、いつ村人が襲われるか分からないため、依頼したという。


 オークとは、豚が進化して人型になったような魔物だ。

 体長は2〜3メートルほどあり、力も強い。

 よくある話のように、女を攫って拐かすということはないらしい。

 とはいえ、ヒトを見たら襲ってくる。


「さて、どうやって戦おうか」


 馬車の中で、クリスに問いかける。

 クリスにはすでに、俺に可能なことを伝えてある。


「そうだな……私が前衛で敵と戦うから、ハジメは後ろから隙を見て魔術で攻撃してくれ」

「まあ、そんな感じになるよな」


 戦士と魔術師のパーティーなら、誰でもそうするであろう戦い方だ。


 初めての連携。

 気をつけなければならないのは、俺の魔術がクリスに被弾することだ。

 それだけは絶対に避けなければならない。


 クリスには自由にやってもらう。

 基本的に、魔物は目の前の人間を襲う。

 クリスが魔物を引きつけている間に、俺が魔術でダメージを与える。


 結局、俺がクリスの邪魔をせずに魔術を放てるかが、この連携の肝か。

 まぁ、パーティーを組んでる魔術師なら、誰でも通る道だろう。

 ざっくりとした方針しか立てられなかったが、これ以上は実際にやってみないと分からないな。




 村に到着した。


 いつものように、村長の家に行き、依頼内容を確認。

 オークの目撃情報があった場所へ案内してもらう。

 そばに森がある、川沿いの道だ。


 あとは、ここで気長にオークが現れるのを待つしかない。

 出てこなければ、また明日だ。

 そうなったら、村長の家に泊めてもらう。


「じゃあ、交代で見張りをすることにするか」

「見張り?」

「ああ。ここでオークが出てくるのを待つしかないだろ?」


 俺の言葉に、クリスはきょとんとした表情だ。


「相手の位置が分かるのに、待ち伏せをする意味があるのか?」

「え?」

「オークなら、森の中を歩いてるぞ。

 他にオークはいないから、村に入ったのはこいつで間違いないだろう」


 衝撃的なことを言う。


「魔物の種類までわかるのか?」

「ああ。私が見たことのある魔物に限るが」


 なんということだ。

 今まで討伐依頼でひたすら待ち続けていた時間は何だったんだ。

 クリスがいれば、待つ必要がなくなる。

 一家に一台、クリス魔物探知機だ。


「それなら早速、倒しにいくか」

「ああ。そうしよう」



 森に入り、オークを追う。


 クリスの案内で20分ほど歩くと、本当にオークを見つけた。

 デカい。4メートルくらいある。

 右手には棍棒を持っていた。


 背後から近づいたが、攻撃を仕掛ける前に気づかれた。

 こちらに向かってくる。

 接敵前に一発。


「エアスラッシュ!」


 避けられそうにはない。

 どうするのかと思ったら、オークは速度を緩めず、両手をクロスして突っ込んできた。

 風の刃が腕にぶつかり、左の前腕を切り飛ばす。

 しかし右腕は皮膚を裂いただけだった。


 それを見たクリスがオークと対峙し、斬り結ぶ。

 戦闘はクリスの方が上手のようで、少しずつオークの身体に朱が混じった。


 ……さて、ここだ。

 この状況で、有効な魔術を使いたい。

 それでこその連携だ。

 よく見ろ。


 素早く交錯し戦う2つの身体。

 魔術を差し挟む隙がない。

 手を出しあぐねてしまう。


 しばらくクリスとオークの戦闘が続く。

 その中で、オークの一撃がクリスに入った。

 盾でガードしているものの、身体は宙に浮く。

 オークとの距離が離れた。

 同時に叫ぶ。


「ストーンバレット!」


 岩の弾丸がオークの腹に命中し、オークは身体をくの字に曲げた。

 クリスは浮いた身体をそのまま木に着地させ、跳躍。

 最高速でオークに迫り、その首を落とした。



 ―――――



 その後、村に帰って任務達成のサインを貰い、アバロンへと戻った。

 牙だけは回収した。

 オークで売れるのは牙だけだ。

 基本的に、人型の魔物の肉は食べないらしい。


 その後、ギルドで換金した金を使って、今日の反省会を行うことにした。

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