第5限目「おじさんたち、一杯やりたい!」


 ごきゅごきゅごきゅ。


 じゅん麗依れいがベンチで市販の飲料水を飲んでいる動画が映し出された。

 何の捻りも工夫もない、穢れのない直球勝負。

 可愛さだけを前面に押し出した動画。

 やはり夾雑物きょうざつぶつのない純真無垢なるものを目の当たりにすると心が洗われるというものだ。


「われが一番か。ま、当然じゃの」


 じゅん麗依れいは嬉しがる素振りは一切なかったもののその微笑からは勝者の余裕が感じられた。


「これもうイメージガールだろ。企業からPR料もらってもいいんじゃねーか?」


 赤都葉レミドは率直な感想を口にした。この場にいた人間の全てが赤都葉と同じ感想を持っていたと言っても過言ではないほどに完成された動画だった。


「これは文句ないな」


「うむ」


 黙って頷く一同。こうして誰一人として反論する者なく、第一回Ti〇Tok動画撮影会は幕を閉じたのだった。


「なあ……今、思ったんだけどよォ……」


 藍我が珍しく落ち着いた口調で口を開く。


「お? どうした? 女の子になってついに女の子の日に突入か?」


 赤都葉がすかさず茶化しに入る。


「生理が辛いので配信お休しますわ〜!」


「おい、金城こんじょうゥ! 某人気Vtuberのネタ使ってんじゃねーよ! てか、俺たちはずっと配信してんだよヴォケ!」


「じゃなくてよォ……」


 藍我は柄になく真面目な面持ちで皆に語りかけた。


じゅん麗依れいって聞くと、なんかさ……」


――飲みたくならねェ?


「あー分かる。特に生とかつけるとね」


じゅん麗依れい、生。最高でござる」


「ってことで、最高のおつまみ作り選手権開催~! いえーーーい!」


 剽軽ひょうきんな骸期はまた新たなイベントの開催を宣言する。


「おお! これは乗ったぜ!」


 先ほどと同じく満場一致でこのおつまみ作り選手権の案は可決される。


「最後にパーッとやれる未来が確定してるの、とてもいい……」


 右手でジョッキを作りその手をぐいぐいと動かす弐水にすい


「いや、ほんとまるちゃんって顔と動作のギャップがありすぎでしょ。まあ、実際、中身ガワと見てれが180度違うから仕方ないんだけど……」


 蒼鴫あおしぎがため息をつきながら言った。


天一てんいちは締めのラーメン担当ね」


「おい! 天一てんいち苗字ネタにするのやめろや! もうこちとら今まで散々弄いじられて……って言いたかったけど、美少女になって名前変わっただけやからええか……」


 どうやら華美咲は天一に浴びせた一言は、軽く流してもらえたようだ。


「あの……普段あまり料理とかしない場合……とかは……」


 不安そうな目で周りを見渡す晴彩はざい。皆雰囲気に呑まれて選手権開催に納得してしまったものの、この中でまともに自炊をしている人間は存在しなかった。なぜなら中身は皆、独身おじさんだったからだ。


「はァ? つまみぐらい作れるだろうがヴォケ! 俺たちはおじさんじゃない」


――美少女なんだよ!


 普段から語尾に「ヴォケ」とかつけている人間が言ったところでまったく説得力のないセリフではあったが、藍我の言うことも一理あった。


「なんかこんな番組、あったよな。料理下手な人が料理作って半生とかで出して、『バケツ用意ー』みたいなやつ」


 山樹森のこの何気ない言葉が皆の胸中に刺さる。


「いや、中身はおじさんなんだ。さすがに食べ物でないものが提供されるなんてことはない……だろ? よなぁ? あれ? みんな、どうした、目を伏せて……」


 赤都葉レミドは露骨に負のオーラを感じ取った。これはひょっとするとひょっとするのかもしれない。そんな不安を胸に抱かざるを得ない赤都葉。


「へへ……次回、料理王決定戦開幕」


――ってことで、よろしくッス。


 うつろ嘘∞うそはちはその灰かぶりの髪をわしゃわしゃとしながら苦笑していた。

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