第14話 ギガント・マックス
「ナイト、ピートロさんの畑の側の柵らしいわ」
「……場所分からないの?
まったくしょうがないわね。
良いわ、ワタシが案内してあげる」
「そうか、感謝する」
金髪の美少女デレージアが顔を赤らめる。一緒に歩いているナイト・マーティンから顔をそむけるのである。
「べ、べべべべべべべ別に~、感謝までしなくていいのよ。
トーゼンよね。
アナタはまだ引っ越してきて間もないんだから。
……だから、村長の孫娘であるワタシが案内くらいならしてあげてもいいのよ」
「そうか、いずれ頼む」
「そ、そそそそっそそう。
……そんなに頭を下げてまで頼むなら……帰りに丘の方へ行ってみるのはどうかしら。
あそこには花も咲いていて、この村の中では景色の良い場所なのよ」
「いや、頭は下げていないが……
良好な景観の場所に興味は無い」
話しているのはモチロン、デレージアとナイトである。金髪の少女と二つ年下では有るが背丈はほとんど変わらない黒髪の少年。二人は村の中を移動していて……まるで二人っきりであるかのようだが……
「あのさー。
僕を無視して話をするなら、別に僕を連れて来なくて良かったじゃない!」
言ったのはジーフクリード。彼は二人を送り出して、学校の小さい子達の面倒をみるつもりだった。だが、無理やり連れて来られたのだ。
「な、ななななななな。
ナイトと二人きりなんてゴメンだわ。
変なウワサでも立てられたら困るじゃ無いの。
ワタシ、村長の孫娘だし、立場上妙なスキャンダルは避けたいのよ」
「スキャンダルって?!
子供が二人きりで歩いてても誰も気にしないよ。
それとも、デレージアさんの脳内には居るの?
あの子とあの子が一緒に歩いてた、キター! ラブラブ! 清純派だと思ってたのに信じられなーい、やっぱり裏の顔があったのね、キーッくやしい!
なーんて言ってる人達が居るの?!!!」
とか言いながら、年上の少女に無理やり連れて来られたジーフクリードなのである。ところが道中デレージアはまるでジーフクリードが存在しなくて、ナイトと二人っきりで歩いてるみたいに話している。
「だったら!
連れて来なくていいじゃない!!
二人っきりで良いじゃない。
僕だって若い女と男が二人きりで歩くのをジャマしたくなんか無いんだよ!
三人でいてさ、その内二人が盛んに喋ってるのって……
残された一人としては凄い困るんだよ。
無理に元気よく話して間に入っていくべきなのか、それとも仲良く話してるのをジャマしないように黙ってるのが正しいのか。
わっかんないじゃない!
場合に寄るじゃない!
誰なのかにも寄るじゃない!
デレージアさんとナイトの場合は……
勿論デレージアさんはジャマされずにナイトと話したいんだって分かるから黙ってるのが正しいんだと思うけどさ。
だけど、ほっとくとゼンゼン話が進んで行かないんだもの!」
デレージアは勿論、顔を赤くして声を上げる。
「誰が誰と二人っきりで話したがってるんですって?!」
「そこ?!
今さらそこ?!
誰でも分かってる第一歩を今さら確認するの?
いくら何でもムダすぎる会話だと思わない!
だいたいナイトくんを誘うにしてもさ。
景色の良い丘って、そんなのナイトくんに興味ないくらい分かりそうじゃない?
せめてそう言うトコロから入ってよ。
ナイトくんを何処に誘うのが正しいのかしら、みたいなさ……」
「すまない。
断ったのはデレージアに他意があった訳では無い。
しかし見晴らしがよい場所と言うモノは……
こちらが相手を観察出来ると言う事は、すなわち相手からもこちらを視認可能と言う事だ」
「……なんのハナシ?」
「この村の人間の固有名詞までは頭に入れていないが。
脅威の度合いは既に頭に叩き込んだ。
現在デレージアが向かっている方角の農家がぴぃひょろならば、一般的な農家だな。鍬や鎌など凶器にも使用可能な農具を持ってはいるから、潜在的な危険度はゼロには出来ない。
しかしこのレベルの一般市民にまで警戒していたら精神が保たない。無視していいレベルの脅威度合いと言えるだろう。
気になる点があるとすれば……
現在彼は独立した農業生産者であるのだが、豪農であるマックス家に組し小作農へなる道を模索しているようだな」
「ナイトくん……
言葉が難しくて良く分からないけど……
こわっ!
怖いよナイトくん、明らかにキミが知っていて不自然じゃない情報量を越えてるよ。
8歳の男の子が語る話の内容じゃ無いよ。
僕だって8歳の男の子だけど、その位は分かるんだよ!」
「ちょっと言ってることが良く分からないわ!
ワタシまだ10歳だし、アナタまだ8歳でしょ!!
ワタシに分からないハナシをするなんてナマイキよ!
少し難しい言い回しを出来るからって調子に乗らないで。
でも…………
…………そんなトコロが少し好き……」
「好きなの?!
そこが好きなトコロなの?!
しかも絶対言わないと思ってた言葉軽く言っちゃったよ、デレージアさん!
それ言っちゃダメなヤツじゃないの?!
とゆーか、今言えるんなら普段から言っておけばいーじゃない!」
デレージアは自分の心の声が漏れてるコトには気が付いていない。
ワタシの恋人になる人の条件ってワタシより頭が良い人なの。
なんて思いから少し我に返るデレージアである。
「ちょっ……今なんて?
ピートロさんがマックス家に?」
すでに三人は目的の場所に辿り着こうとしていた。村の通りから個人の畑の裏へ。外敵であるモンスターが闊歩する荒野と人が棲む村の中を分ける柵。柵が壊れたと言う場所が見えて来る。
しかし、そこには先客が居た。デレージアには逢いたくない先客が。
「なんだ? オマエら。
デレージアちゃんと……ジーフクリードだったか?」
大柄な少年。顔に子供っぽさは残るものの体格や横幅は他の村人たちと変わらない。
マックス家の一人息子、ギガントである。昨年までデレージアやジーフクリードと一緒に学校へ通っていた。
「……ギガント!……」
「ギガント……さん。
久しぶりですね」
「ジーフ、テメェに話しかけてねぇよ!
しゃしゃり出るんじゃねぇ。
俺が話してんのはデレージアちゃんだ」
ギガントはジーフクリードを一喝し、黙ってしまった少年を無視して金髪の少女へとすり寄る。
「へへへ、デレージアちゃん。
ウワサで聞いたぜ。
俺が卒業してやーっとガキどものリーダーになれたって言うのによ。
ポッと出の変なヤツにリーダーの座を奪われたらしいじゃねぇか。
どうなってんだよ」
「…………?!
ギガントさん、タダのウワサ話でしょう。
変な事言わないでください」
「なにかと俺には盾突いて来やがってよ。
だからガキどもに見放されたんじゃねーの」
……それはオマエだ!
言いそうになるのをデレージアは堪える。このギガントは体格も良いが親の立場も良い。小作農を何人も従える豪農。その立場を利用してやりたい放題。助祭の言葉に耳も傾けず、他の子供達を子分として良いように使っていた。
逆らえたのは村長の孫娘のデレージアくらいだった。
一度決闘騒ぎになった事がある。
デレージアはギガントをぶちのめした。
デレージアは幼少期から村の護衛たちから剣を習っていた。体格はギガントに劣るものの木刀を持てば恐れるような相手では無い。
それ以降ギガントは父親の雇った戦士とか言う男を連れて歩いている。
口では俺が剣を習うために連れてるのさ、と言っているが実際にケンカにでもなったらその男も参加するつもりなのは明らか。さらにギガントまで真剣を持ち歩くようになった。さすがに鞘から抜いたりしないが、鞘の中で脅すようにカチャカチャ言わせるだけで年少の子供など泣き出しそうになる。
現在もギガントは鞘に入った剣を腰に下げてるし、後ろには戦士らしき男たちを連れているのである。
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