第3話 白百合京子 弁友 ~私に天使が舞い降りた~
私の名前は、白百合京子。
いわゆる私は恋愛弱者です。
ただでさえ男女比が1対10なのに、その女の子の中でも私は群を抜く不細工に生まれてしまった。
背は低いけど、スタイルは悪くない。後ろ姿だけなら女性の中でも綺麗な方かも知れない。
たまに後ろから私をのぞき込む男の子がいるんだけど...私の顔を見たら大体が顔を顰める。
なんでこんな不細工に生まれてきたんだろう...お母さんも妹も美形なのに私だけが家族でブサイク酷いよ。
男子でも女子でもは態々「気持ち悪い」「キモイ」そう言いに来る人までいる...知っているよ、自分の事だもん。
ついたあだ名は呪いの市松人形。どれだけ可愛くないかがそれで解ると思うな。
別にもう良い、諦めがついたから。
恋愛なんて物は、可愛く生まれた女の子が熾烈な争いの果てにようやく手に入るもの。
そして、手に入ったとしても油断したら直ぐに他人に取られてしまうもの。
つまり、物凄く可愛い女の子でさえ、愛して欲しいなら一生努力しなければならないんだ。
私みたいな不細工ははスタートラインにも立てない。
そう、諦めるしかないんだよ。
今日も恋愛強者がベンチで男の子達にお弁当を食べさせている。
どのお弁当も凄く豪華な物ばかりだ。
女の子の親が恋愛を応援する為に老舗の仕出し屋やデパートで購入してきた物や、有名焼肉店の丸上宴のマツザカ牛カルビ弁当。
どれ一つとっても5000円以下の物はないと思う。
「このお弁当はどうかな?」
「どうかなって いつもと同じ黒田屋の仕出し弁当でしょう、何も感じない」
「そう、他に食べたい物があったら、何でも言ってね用意するから」
「ああ、」
いいなぁ...羨ましい。男の子に我儘言って貰えるなんて、一度で良いから私に給仕させて貰えないかな。
私には一生縁が無い物だよ、解っているけどね。
妄想位は良いじゃない。
私は、周りから見えない端っこ陣取り、木に寄りかかって体育座りをしながらお弁当を食べ始めた。
ここは向こうからは茂みで隠れて見えないが、こちらからはお弁当を食べさせて貰っている、男の子が見れる絶景のスポットだ。
いいでしょう? この位は。モテない女が覗き位したって、神様だって許してくれるよね。
だが、この日は何時もと違っていた。
「駄目だよ、可愛い女の子がパンツなんて見せちゃ」
あれっ妄想しすぎたのかな? 男の子の声が聞こえるよ...私可笑しくなったのかな?
それより、誰だろう? 男の子にパンツなんて見せた女の子は。
そんな物、見せて怒鳴られたり怒られたりしないなんてどれ程の美形なのだろうか?
私は、周りをキョロキョロ見回した、どんなリア充なのか気になったからだ。
すると、複雑そうな顔をしている...天使がいた。
本当の天使じゃないよ? まるで王子様か天使にしか見えない、それ位の美少年という事だよ!
「だから、女の子がパンツなんか見せてたら駄目だって」
そう言うと天使は近づいてきて、開いている私の足を手で閉じた。
嘘、男の子に...足触られたの...
「えっ 私?」
周りからはクスクスと笑い声が聞こえてきた、醜態をさらしていたのは私だったんだ。
そうか、この天使の様な男の子は私のパンツが見えて不愉快だから注意しに来たんだ。
男に文句なんて言えない。それどころか怒鳴らないだけまだマシななのかも知れない。
いやそれ以前に私なんかが口ごたえしたら、周りの女子から何されるか解らない。
「ごめんなさい、不愉快な物を見せて」
「別に不愉快じゃないけど、女の子なんだから気を付けないとね」
天使の様な男の子は笑っていた。
えっ話してくれるの? しかも、笑顔で、私、挨拶だって男の子から返して貰った事もないのに。
「ブサイクな私の汚い物を見せてごめんなさい」
男の子相手だしっかりと謝った方が良いよね。
「いや、何でそういうこと言うのかな? 凄く可愛いと思うし、その眼の毒だから注意しただけなのに」
「本当にごめんなさい...もうしません...あれっ可愛い?」
可笑しいな...反応が違う気がする【可愛い】多分聞き間違いだよね。
「そうだよ、可愛い女の子がパンツ丸見えでお弁当食べていたからさぁ注意しただけだよ?」
「そ、そう...」
不味い、顔が真っ赤で喋れない。男に耐性が無いから...どうしよう..
だけど、これは多分虐め何じゃないかな?
不細工な女を「「可愛い」って」褒めちぎって調子に乗ったら「はぁ何言ってんの不細工」とか「豚が何勘違いしているの」という様な酷い言葉を浴びせる残酷な遊びが確か一部男子で流行っているって聞いた事がある。
私、何か気に障る事をしたのかな?
ただ、パンツを見せただけでここまでしないよね? するよね、こんな不細工のパンツを食事中に見せたらんだから怒られても仕方ないね。
だけど、やり方が気に食わないよ...男の子なんだからさぁ「見苦しい物見せるな」って言えばいいだけなのに。
どうせ、後で罵声を浴びせられるんだろうからセクハラしてあげるよ。
「ごめんなさい、お詫びにソーセージをあげるから許して...はいあーん」
これでこの陰湿な遊びを辞めるだろう。
この箸で私はお弁当を食べていた。つまり、この箸には私の唾液がついているんだから、このソーセージは食べられないよね。
こんな間接キスみたいな事。そんな事できるのはリア充の中でも本当に一部だけ、私は見たことが無い。
ほらね、周りの女が唖然として手を止めて見ている。
さっさと怒ってあっちに行きなよ。
「えっくれるの? 有難う」
嘘、ソーセージを美味しそうに食べている。
周りの女の子は驚いて、ポカンと口をあけて見ている。
そりゃそうだ、普通男女の食事と言ったら、男性が食事をしているのを女性が給仕するだけだ。
ただ、お弁当を渡して少し離れて見ている。 喉が渇いてそうだなと思ったらさっと飲み物を差し出す。その位だ。そして食事は一緒にはとれない。昼休みは男の子に全部使い、次の休み時間に自分達は食べる、これ以上の事が出来る人など殆ど居ない筈だ。
「嘘...食べた」
「そりゃ食べるよ。そうだ、これお返し、はい」
彼は私にパンを差し出した。ただのコッペパン、だけど、それにはしっかりと天使の様な男の子の歯型がついていた。
多分、この一口はオークションにでも掛けたら30万円は降らない筈だ。
そんな凄い物を彼は私に差し出して来たんだよ? 固まるのも仕方ないよね。
そしたら、何を勘違いしたのか彼は「ごめんね、転校したてでお弁当用意してなくてパンと牛乳なんだ」恥ずかしそうに笑った。
「そんなこと無いよ?でもいいの?」
男の子が口にした物をくれるなんてありえない。
私は多分、気を緩めたら気を失ってしまうかも知れないし、鼻血を出して倒れる醜態を晒すかも知れない。
「はい、あーん」
「あーん」
「牛乳も飲む?」
このストローもそうだ、彼の唾液がついている、凄い貴重品だ。
いいの、本当にいいの?間接キスだよこれも?
「の飲む、飲ませて下さい」
「はい」
彼はパンと牛乳で足りているのかな、多分足りていないよね。
あげると言ったら私のお弁当食べてくれるのかな?
「あの...良かったら私のお弁当食べる?」
「くれるなら、貰うよ、、本当にいいの?」
「はい」
「丸ごとはないわ」
えっ食べてくれないの? 食べかけじゃ嫌だったのかな?
そりゃ、そうだ、だけどこんなチャンス見逃せない。
「ごめんね、コンビニで何か買ってこようか?」
「何言ってんの? 半分こして食べようよ?」
これは...夢でも見ているのかな? 男の子と一緒の食事、そんな夢物語、小説位にしかないよ。
その後、本当に、お互いにあーんをしながら食べた。
周りの女の子は、血の涙を流すような顔でこちらを睨んでいた。
こんな事はフィクションの世界にしか無い。
頬まで抓っている女の子も居る。
知らないよ、そんな事は、だって私も何が起こったのか解らないんだから。
夢の様な、楽しい時間はあっという間に終わってしまった。
「そう言えば、名前をきいてなかったね」
「そうだね」
これはただの夢、もうこんな奇跡は二度と起きないだろう。
ただの彼のきまぐれだろうね。だけど一生分の幸せを感じたからもういいや。
「僕の名前は黒木翔って言うんだ。 えーと名前を教えてくれる?」
「白百合京子です...」
ただ、きっと聞いただけだと...思う。期待なんかしちゃだめだよ。
「じゃぁ白百合さん、これからもよろしくね」
「えっ...それって友達になってくれるという事なの?」
本当なのかな..あり得ないわ。
「もう友達になったと思ったんだけど、、駄目?」
「駄目じゃない...むしろお願いします。」
「うん、いいよ」
「それじゃ、明日も一緒にお昼食べてくれる?」
「喜んで」
こうして私の夢の様な日々が始まった。
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