第2話 電卓でレジしてるの、個人でやってる店感があってなんかいいよね
改札を抜けると、そこは雪国だった訳でも無く。ただ一面に田んぼや大きな山々が連なってて、緑に囲まれた雄大な景色が広がっていたんだ。僕はそれにちょっとだけ感動を覚えたが、学校をサボってまで着た場所なのかと思うと途端に虚しくなってしまったんだ。
「……駄目だ。とりあえず学校のことは忘れよう」
呟いて僕は足を進めた。道中、この景色を写真に残そうとも思ったが、変な罪悪感が僕を襲ってきて、カメラアプリを開けずにいたんだ……はぁ。完全なワルになれないのが僕の弱い所だよなぁ……。
それで……どこに行こうか。当然だが都会とは違って、全く遊ぶ場所なども見当たらない。そもそもあった所で行く気にもなれないけど。ボッチだし。ならコンビニでも探そうかな。喉乾いたし、昼飯も買いたいもん。
そう思った僕はスマホでマップを開いたんだ。えーっと、ここから一番近いコンビニはっと……コンビニは。
「……5.7キロ先?」
だから……どうしてこんなに僕を困らせるんだ? この村にはコンビニすら無いのか? IKUZOもびっくりだよ……はぁ仕方ない。コンビニは無くとも、それっぽい場所はきっとある筈だ。個人商店とか。どうにかそこを見つければ、飲み物と昼食くらいは確保出来る筈だ。
そうやって決めた僕はマップを見ながら、更に歩を進めるのだった。
────
……着いた、大里商店。ここがこの村に(おそらく)唯一存在する個人商店だ。店の外観は駄菓子屋みたいにレトロな感じになっていて、外にはガチャポンとベンチが並んでいた。何ともまぁノスタルジックな昭和の風景だよ……まぁ僕はゴリゴリの平成生まれなんですけど。
そんなことを思いながら僕は入り口に近づいて、手動のスライド扉を開いたんだ。
「ん、いらっしゃい」
店に入るなり店主らしき人物が見えた。60代前半くらいだろうか。彼は椅子に座っており、さっきまで読んでいたであろう新聞を机に置いて、僕を見始めたんだ。こうやってジロジロと観察されるのはあまり気分の良い物ではないが、こんな時間にこんな格好でこんな場所にいるのだから、多少変な目で見られても仕方ない気はする。
まぁ別に次来るつもりもないし。さっさと昼飯買って、ここから出よう。思った僕は、僕以外に客のいない店内を早足で歩き回ったんだ。
……店はコンビニのそれとあまり違いは無かった。もちろん商品の種類や、そもそもの商品数には差があったが、気になるほどでもないし。むしろ見たことのない商品があったり、スカスカな棚があったりとそれが何だか新鮮で面白かったんだ。
でももし隣にコンビニあったら、絶対そっち行くけどね……ん、冷蔵のショーケースか。アイスでも入っているのかと中を覗いてみると、そこにはパックの巻き寿司が置かれていたんだ。巻き寿司……別に嫌いではないのだが、こういうのって意外と値段するんだよな。ほら、390円って書いてる。僕は金欠なのだから、なるべく節約しなくてはいけないのだよ……。
「少年。サボりかい?」
「あ、えっ?」
隣からの声に振り返ると、そこには店主がいた。いつの間にかさっきの場所から立ち上がっていたようだ。
「えっと、まぁ……そんな感じです」
「ガハハ、正直なヤツだ。ま、たまにはそんな日があってもいいんじゃねえの?」
「……はぁ。そうっすね」
僕は適当に相槌を交わした。僕は会話が苦手な訳ではないのだが(だからと言って得意な訳でもないが)、どうも年配の人との会話はあまり上手くないんだ。理由は定かではないが、多分全く親戚と関わっておらず、父親も物心ついた時からいなかったため、年の離れた人との会話が少なかったからなんだと思う……ま、僕の家庭事情に興味ある人なんかいないだろうから、この辺で切り上げるけども。
「で、少年。何買うんだ? 今なら安くしてやるぞ?」
「ああ、そういうのは大丈夫です。悪いので」
僕は丁重に断った。当然、物が安く買えるのならそれに越したことはないが、それ以上に僕は人に借りを作るのが嫌いなのだ。それにここで値下げしてしまったら、またここに来なきゃいけなくなると、勝手に僕は思ってしまうんだよ。
それで……店主は若干残念そうな表情をしながら。
「そうか……ま、好きに見てってくれ。どうせ賞味期限切れたら俺が食うことになるから、買ってくれた方がありがたいんだがな、ガハハ」
「そっすか。じゃ……これにします」
そう言って僕は、端っこに置かれていたいなり寿司のパックを手に取ったんだ。4個入りで200円。相場は分からないが、多分お買い得な商品だろう。
「おいおい、食べ盛りの高校生がそんなんで足りるのか?」
「小食なので。あとはこれも」
そして追加で隣に冷やされていた瓶のサイダーを手に取った。これも他のジュースと比べて、値段は低めに設定されていたんだ。
「……ま、別に構わねぇけどよ。じゃあレジするからこっち来な?」
「はい」
そして僕はその店主の後ろを着いて行って、レジをしてもらったんだ。まぁレジと言ってもスーパーにあるような機器なんかではなく、ただ商品の値段を見ながら電卓を弾いていくだけだったんだけど。でもそれも個人の店でやってるって感じがして、なんか良かったんだ。
「はい、値段270円な」
僕は財布から小銭を出してトレイに置く。そして袋に詰められた商品を取って店から出ようとした時……とある置物が目に入ったんだ。それは木で作られた動物の置物のようで。おそらく……犬、だろうか。
「あの、これって……」
「ああ、すまねぇ。それは売り物じゃないんだ」
詳細を聞こうとしたら、食い気味にそう言われてしまった。いや、別に買うつもりでは全く無かったんだけど……でも、どこかそれは目を惹かれる形をしていたんだ。
「いや、そうじゃなくて。これが何なのか気になったんです」
「ん、おお、そうか。これは俺の嫁が作った木彫りの狐だ」
「狐……?」
言われてみれば、確かにそう見えなくもないが。そもそもどうして木彫りの狐を作ろうと思ったんだろうか……?
「どうだ、凄い不格好だろ?」
「ああいえ、そんなことは。とても素晴らしい作品だと思います」
自分の発した言葉に自分で驚いてしまった。美術の鑑賞の授業で見た芸術作品に何とも思わなかった僕が、まさかこんな発言をするとは……まだ僕にもこんな感性が残っていたんだな。そして店主は笑いを見せて。
「ガハハ、そんなの聞いたらきっとアイツも喜ぶだろうな」
「奥さんは……今は外出中ですか?」
「いや、ちげぇ。もういねぇんだ」
「……えっ?」
「死んだんだよ。5年前にな」
「…………」
途端に空気が重くなるのを感じる……いやこれ、僕悪くないよな。そんなの知らなかったし。でも選択肢ミスったのは明らかに僕だもんなぁ……。
そんな感じで、僕が次の発言に頭を悩ませていると、店主は気を利かしてくれたのか、こんなことを提案してきたんだ。
「ああ……そうだ。せっかくここに来たのなら神社に行ってみたらどうだ?」
「神社?」
「ああ。ここから北に向かうと、
「狐の神様?」
そんなの聞いたことないぞ。いや別に神社に詳しい訳じゃないから何とも言えないけど……普通アマテラスの何とかとか、コノハナの何とかとか、そんな神様が祀られているんじゃないのか? というか狐って……僕はまた木彫りの置物に目を向けた。
「ガハハ、もしかしたらアイツは神様を見たことがあったのかもな?」
「はは……そうかもしれませんね」
我ながら、何とも気持ちのこもっていない相槌である。
「ま、気が向いたら行ってみろよ。どうせサボり以外じゃこんな村、来る理由がないだろ?」
「はは、確かにそっすね……それじゃあどうもです」
「おう、気を付けてな!」
そして僕は愛想笑いをしながら頭を下げて、店から出たのであった。
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