再会ループ

再会には「元気だった」がつきものだ

顔も名前もピンッとこなくとも

「ああ、元気元気」と返すんだ

「そこでお茶でもしていかない?」

帰りたいの心だったが、ここで「いいえ」と

答えてしまったら同窓会で「嫌な奴」と

言われたりするのだろう

困るような、困らないような、曖昧模糊

ここで「どうでもいい」という答えを

出せないのが自分だ。頭を空っぽにして僕は

「いいよ、何か食べよう」と言ってしまう

同級生は「ファミレスの方がいい?」と言う

「どこでもいいよ」と返した

二人でトコトコ歩きながら、同級生は語る

始業式のこと、部活のこと、運動会、文化祭

クラスの成績、出し物、テスト、担任それと

その当時に好きだった子のこと

「……そうなんだ」

好きな子の名前と顔が思い出せず相打ちだけ

機嫌がいいのか。同級生は嵐のように語り

こちらに話を振ることはしなかった

その内に店を見つけて自分にとっては大きな門をくぐり、席に案内されて一段落した

「今は? 何やってんの?」

しかし、席に着いた途端に話を振られて声が詰まった。無関心に無関係の心を努め、聞くだけに徹したかった

「あー、普通のサラリーマン」

「月給安い系?」

まあ、いじくるだろうな、と心の感想が出てきたので、頷きながら笑った

「平って訳じゃないんだけど、役職が上がっても給料の些事は変わらない」

「氷河期だよ」

今の現実を突き付けられて「こんなもん」と手拭きを綺麗に畳んで机の端に置いた

「そっちは? 何やってんの?」

「……ウェブデザイナー」

「へえ、凄い。才能ないと出来ないじゃん」

思い描くのは、様々なサイトだ。主に病院系商売相手のサイト。流れるような画面は

毎回に「こっているなあ」と感心していた

それを職にしているということは、交渉技術

デザイン、色彩知識やトレンドのアップデートと忙しいだろうに

「こんなファミレスにいて大丈夫か?」

口実としては「仕事があるならさっさと別れてくれないか、解散しない?」だけれども

ファミレスには、今、入ったので願いは届かないだろう

「……丁度、納期終わって一段落てトコロ」

これは簡単には帰れないぞ、と心が言う

何を話せばいい、ちょっとムカつく上司の

悪口か? それともよくしてくれた先輩か

顧客のいい話、悪い話。日常の話?

「ほら、注文しろよ」

置いてあるオーダーの機械を持ちながら

同級生はポチポチと好きなものを頼んでいるようで、一通り頼んだところで渡される

酒飲まず、小意気なポテトは頼まず、適当にドリアなんぞ頼んで

「確定注文押していい?」と聞いた

「いいよ」の答えを貰い、注文ボタンを押す

そして、しばしの沈黙があった

これはなんだ。何が起きている。べらべらと喋っていた同級生が黙り込んだ

「……どうした?」

疑問に同級生は顔をそらして「うん」と言う

こいつも話題に困っているのか? あんだけ過去を語っていたのに。今の仕事や私生活の話はしたくないのか。なら、こちらの想い出話をしないといけない

始業式のこと、部活のこと、運動会、文化祭

クラスの成績、出し物、テスト、担任それと

その当時に好きだった子のこと

見ると同級生は汗をかいていた

なんだなんだ、と思っていながら、注文した料理が運ばれてきたので「食べよう」と急かした。まだ「早く終われ」という気持ちが

あったので、食べている最中は無言になった

あれ、と思ったのは食事中でも同級生は汗をかいて目が泳いでいた

食事は進み、気まずい空気が流れていた

これでもう、はい、解散になるだろう

「外、出よう」と割り勘会計をし、二人で

大きな門をくぐり抜けた

「なんか、お前の方が幸せそうだな」

「?」

やっとのこと絞り出した言葉なのか同級生はぽつりと言い、溜息をついた

「マウントとってやろうと思ったのに」

これは、これは

デザイナーは凄いと思うのだが、平社員に

対して惨めな気持ちになることはない

給料も少ない、才能は関係ないのに

「デザイナーの方が凄いだろ」

心からの言葉を出したが、同級生は俯く

他人と出会い、仕事をして、納期に追われて

「疲れた」と言える職業に二人して就いているのだから、比べるとしても

給料の差異ぐらい。これで惨めと言われるか

「お前の方が凄い、本当に凄い」

他人と関われて凄い。そう続いて目を見開くどうした、どうした、何か踏んだか?

「本当に凄いよ。マウントとっていい気になろうとした。悪かった。そんな職業に就いているなんて、外れくじを引いた気分だ。外れだ。外れ。シーツがよれてるし、碌でもない会社に勤めてると思ったんだよ。綺麗な想い出に囲まれて楽しそうに話すし、学生時代はいい感じだし、クソ」

「おい、意味分からないんだけど」

同級生は呪いの言葉を吐きながら「はあ」と息をついて、こちらを見る

「でも、他人に興味ねえんだな。俺はお前の同級生じゃねえよ」

言葉にならない

それだけ告げて精悍な顔立ちの男は去り

あれ? と疑問が上がった

いい顔立ちの癖に髭が不揃いで、髪も整えていなかった。服も単色でつまらない。食事も安いものを頼んでいた

「嘘だろ」

恐ろしさより、彼が「同級生」の振りをして暮らしていることに怯える

僕は、誰に何を言えばいい

僕は、真っ白になった

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