14:十字路ノ譚
そして!今見つめているのは私の愛しい幼馴染み!
日頃より見つめ眼福に至っておりますが、私は今は少し不服です!
アオハル「じゃあな、
アオハル「ホントに委員会の仕事手伝わなくていいのか?」
羽歌「大丈夫だって!早めに終わったら追いかけるね!」
アオハル「おう。」
といいながらアオハル様は彼を撫でる。
そしてその彼は、大切な幼馴染みの天宮羽歌…あーちゃんさんです!
最近転校してきましたが…
羽歌「あっ…照れちゃうや…えへへ……」
アオハル「天宮は可愛い反応してくれるな~。」
距離近くないですか?まぁ四六時中引っ付きたがってるどこかの〝眠り姫〟も大概ですが…
羽歌「じゃあまたね!」
アオハル「ん~。」
透風「っ!」
さて、私もいつものを始めましょうか!
アオハル「ふ~んふふ~ん♪」
透風「…」
本日もアオハル様の帰りを見守り致します!もちろん、決して犯罪行為などではございません!健全かつ真っ当な行為です!
へ?普通に一緒に帰らないのかって?
それはちょっと照れちゃいます…むむ?交差点を渡ろうとしているご老人がいらっしゃいますね…
お婆さん「うんしょっ…うんしょっと…ふぅ…」
アオハル「持ちますか?」
お婆さん「おや、すまんねぇ…」
アオハル「いえいえ。」
あぁ…アオハル様、なんとお優しいのでしょうか…
お婆さん「ありがとうねぇ…」
アオハル「お気をつけて。」
微笑みながら手を振り、別れていく。
アオハル「ん…ん~?誰だ缶捨てたのは。」
続いて落ちている空き缶を拾い、透かし歩いたところの自販機のゴミ箱に捨てるアオハル様、流石ですわ!なんと素晴らしい!
アオハル「オレには到底及ばないが、街も美しくなきゃな。」
ちなみに彼の自己評価は
彼は日頃からゴミを拾ったり、人を助けたり、ボランティアをしたりと…実に善意に満ちた人です。10年以上アオハル様をお慕いし見つめていますが、その優しさやお心が揺れ動いたことなど決してありませんでした。そしてその自己評価も。
あぁアオハル様…なんと愛おしいお方…私は生涯お慕いいたしますわ!
透風「…あら?アオハル様?」
住宅街の十字路にいるのですが、アオハル様が見当たりません。
透風「…ま、まさか……わ、わた、私としたことが…見失ってしまいました!?」
なんという失態……アオハル様の幼馴染みでありながらこんなこと…
透風「いえ、落ち着きなさい透風!スマートフォンで彼の居場所を……」
ポケットに入っているスマートフォンを取り出し、GPS情報をもとに彼の居場所を探す。
※健全かつ真っ当な行為らしい
透風「えっと……あらら?おかしいですわね…?」
近くにGPSの反応がない…?もうそんなに遠くに行ったのでしょうか?
透風「いや…これは……回線が届かない?このご時世にそんなことありますでしょうか…?」
天候の影響でしょうか?通信会社側でなにかしらのアクシデント?それとも操作中に誤ってモバイルの設定を止めてしまったのでしょうか?
透風「モバイルは有効になっていますね…うぅん…?あとでメンテナンスしておきましょう。」
それどころではありませんでしたわ!アオハル様の行方を一刻もはやく!
透風「…と、いうか……」
ここ、どこでしょうか?
アオハル様の帰り道は何度も通っているので、道に迷うといったようなことはないはずなのですが……
透風「今は…午後4時4分…ですか。」
学校を出てから20分ほどですね。途中のより道も考えて1㎞程度歩いたところだと思いますが、そもそも普段こんな道通りましたっけ…?
透風「おかしいですね…」
歩き進んで出ようと十字路を曲がっても、また同じような景色が広がる。自販機があったところに戻ろうと振り返るが…
透風「あらら?えっと、私は今、どちらの道から来たのでしょうか…?」
曲がったことは覚えていますが、どちらからでしたっけ…?
透風「私もしかして焦っているのでしょうか?冷静さに欠けているみたいですね…」
この年でまさか迷子になるとは…ここは一度落ち着きましょう。
透風「えっと…あ、そうですわ!先日のアオハル様とあーちゃんさんと撮った動画を見て落ち着きましょう!」
SNSで流行っている動画を真似して撮ったものがあるので、それを見て少し気を和らげましょう。回線が届いてなくてもみれるはず…
透風「これですわね。」
アーカイブにある動画をタップする。すると、再生が始まる。よかった、ちゃんと観れるみたいです。
透風『じゃあ、始めますね!』
アオハル『おう。』
羽歌『あーくん真ん中ね!』
アオハル『おう両手に花だな。』
羽歌『へっ!?も、もう~!』
透風『そんな、アオハル様ったら~!』
アオハル『曲かけるぞ~』
羽歌『うん!』
透風『はい!』
と、流行りのダンスを踊り始めました。ちなみにアオハル様は流行に敏感で、ダンスもキレキレで踊ることができますが、クラスメイト達は引いていましたね。私の家柄もあり、安易にこの動画を投稿できないですが…
透風「ふぅ。これで落ち着きましたわ。」
さてと、冷静に考えましょう。今私が通った道は右側、来てきた道をよく思い出してゆっくり行きましょう。
しばらく記憶を頼りに歩くも、一向に同じ景色が続く。最初の方は落ち着いていられましたが、また徐々に不安や焦りが沸々と込み上げる。静か過ぎるくらいの周囲とは反対に、私の心音や呼吸の音が大きくなる。
透風「うぅ…困りましたわ……」
住宅の方に道をお尋ねした方がよろしいでしょうか…ですが先程から一人もすれ違う方がいらっしゃいません…それどころか出入口のない塀の前ばかり通っていますわね……電柱の住所も掠れて読めませんし…
透風「うぅん……」
人もいないのに、どこからか視線を感じ始める。住宅に住む人達でしょうか…でもどこのいえもカーテンを閉めていたり、部屋が真っ暗でしたり、人の姿は見えませんね…
透風「うぅ…アオハル様ぁ…」
ついつい、彼の名前を口にする。
不安になったり、怖かったり、独りになったりすると呼んでしまう。幼稚園の時からの癖とでも言いましょうか。
透風「どこでしょうかぁ…」
本来はただの迷子程度で、ここまで不安になったりはしない。だが、幼馴染みの姿を見失い、全くしらないような場所で、ネットが繋がらず、一人でしばらく同じような道を延々と歩き続ければ話は違う。
徐々に脈拍が上がり、呼吸が乱れ、汗をかき始める。一切の物音がしない周囲から一層孤独感を覚え、不安と焦燥を駆り立てる。
透風「はぁ……はぁ…」
するとその時、声が聞こえる。
「透風~」
透風「っ!」
何度も聞いたことがある声。
「どこだ~、透風~」
透風「アオハル様…!!」
十字路を曲がった辺りから、自分を呼ぶアオハルの声が聞こえる。
透風「アっ、アオハル様っ、アオハル様!こちらですわ!」
「透風ちゃ~んどこ~」
透風「あーちゃんさん…!」
幼馴染み二人の声が聞こえ、不安や孤独感から解放される、愛しい彼らに会える、そう思った。安心し、声のする方へと駆ける。
「こっちだぞ~」
「こっち~」
二人の姿は見えないが、そこを曲がれば会える。すぐにでも会いたい。角を曲がり、二人を見ようとしたその時…
透風「…?」
透風はぴたりと止まる。
透風(今…お二人、私のこと…『透風』と、お呼びしませんでしたか…?)
透風の微かに残っていた冷静さが違和感を覚える。
「透風~、こいよ~」
「透風ちゃ~ん、なにかあったの~」
幼馴染み二人が、自分を名前で呼んだ。
透風(アオハル様は、私を
先程とは異なる不安や恐怖が込み上げる。
「どうしたの~」
「透風~」
言葉はしっかりと聞こえる。だが、どこか
透風「……はぁっ…はっ……はぁ…」
得たいのしれない感覚に対して、体が危険を知らせる。先程まで会えると心から安心し喜んでいたはずなのに、それは避けるべき対象となっていた。
「お~い、透風~…」
「こっちかな~、いまあいにいくよ~…」
段々と、その隠った声が近づいてくる。
透風「…っ!」
訳がわからない。わかりたくない。気がつけば振り返り、一心不乱に駆けだした。
透風「助けてっ…アオハル様っ……」
つい、彼の名を呼ぶ。
透風「あっ……」
足と足が絡まり躓く。駆けていた速度もあり、勢いよく前方へと倒れていく。
透風(そんな……)
「おいしょ。」
倒れる透風を抱き止める者が一人。
透風「あ……え…?」
優しく彼女を包む腕、後ろで結わいだ長い銀髪、何故かムカつく整った顔。
「おいおい急にハグとか大胆だな。まぁオレはいつでもWELCOMEだけどな。」
そんなやかましい言葉を連ねる声の主は、彼女の幼馴染み。
透風「あ、あお、アオハル…様…!」
アオハル「おう。みんなのアイドル♡アオハル様だぞ。」
透風「ど、どうやって…ここに……」
まるで迷宮のような場所にたどり着いたアオハルに戸惑う。
アオハル「え?いや白須のGPSあるから…」
と、スマートフォンを見せる。回線は全て立っており、ネットが繋がっている。画面に表示されているのは、
透風「はぁ…はぁ…ぐすっ……」
アオハル「透風?」
透風「あ、アオハル様っ…アオハル様あぁぁ!!」
アオハル「う~ぇ!?な、え、どっ、どした!?」
アオハルを抱き締めて泣き出す。そして戸惑うアオハル。
アオハル「どう、どうした?」
透風「さっき、私…うぅっ…一人で…迷って、それで、グスッ、その、グスン…!あ、アオ、アオハル様…の、声が…気持ち悪くで…っ!それで追ってきてっ…」
アオハル「え、気持ち悪い?え?待って、一回落ち着いて?深呼吸深呼吸。このままだとオレも泣くことになる。」
と透風を宥める。
アオハル「迷ってたのか?」
透風「は、はいっ…さっきまで…そこの道を……あ、あれ?」
振り返り来た道を指す。
アオハル「道?」
そこには壁しかなく、周りより少し窪んではいるが道はない。
透風「え、え?今、わ、私ここから…えっ…?」
アオハル「一回落ち着こうぜ。」
透風「ほ、ホントに、ホントに私今までっ…嘘じゃないですっ!アオハル様っ!わ、私…怖くて…!」
焦りながらアオハルに話す。
アオハル「ん、大丈夫だ。分かってる。ゆっくり聞かせてくれ。」
アオハルはそんな彼女を優しく撫でる。
透風「は、はい……」
アオハル「つか汗スゴいな。どうした。」
アオハルに抱き着いてる自身がスゴく汗をかいているということに気がつく透風。
透風「あっ!も、申し訳ありません!アオハル様っ!大事な制服が…手も…!」
アオハル「あ~いや全然。ご褒美ご褒美。」
そして安定のキモさを誇るアオハル。
羽歌「あっ!あーくん!すーちゃん!」
アオハル「お、天宮。」
透風「あーちゃんさん…」
羽歌が声をかける。
アオハル「結構はやく終わったな。」
と、腕時計を確認するアオハル。その腕時計は、4時5分を示している。
羽歌「うん!二人で帰ってたの?」
アオハル「まぁそんな感じ。」
羽歌「すーちゃんも…あれ?すーちゃん?目元どうしたの…?」
透風「あ、いえ…これは少し涙を…」
羽歌「えっ!?あーくん何したの!?」
アオハル「オレやった前提なの?」
透風「ち、違います!実は…」
近くのベンチに座り、お二人に先程のことを伝える。お二人とも、私の話をちゃんと聞いて、怖さで震える私を宥めて下さいました。少しずつ不安が和らいでいきました。
結局、あの場所はなんだったのでしょう…
もし、あのままアオハル様が来なかったら…
透風(と、そんなことは考えなくていいですね!)
透風「さてと、アオハル様の今
その次の日、透風もアオハルも羽歌も、その十字路の体験や話を一切覚えていなかった。
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