彼は彼女を選ばない(☆改稿版☆)

彩霞

第1章 彼の息子

-1- 長い片思い

第1話 古びた町

「シュキラ」という町は、とても穏やかなところだ。


 丘に作られたその町は、さくの付いた階段と坂道が沢山ある。


 丘を開発したために坂があるのは当然だが、斜面しゃめんつなぐように作られた階段は、人が上の道と下の道を自由に通り抜けることを望んだために時代を経るごとに増えていき、今では町の特徴となっている。


 階段は行きたい場所へ最短で行けるものもあれば、少し時間がかかるものもある。そのため人々は用事によって使い分けているのだった。


 すると自ずと関わり合う人と人との繋がりは重なり、深くなる。


 隣人との距離も近く、それによって助け合いができていたが、近頃の若者はその近すぎる関係がわずらわしいと感じているようで、彼らはシュキラの隣街に住むことを夢見ている。


 その街の名は「ルピア」。


 シュキラの十倍以上の人が住み、シュキラに住む若者たちはもちろん、他の町の若者もそこにしかないものを求めて、毎日のようにルピアへ向かっていく。


 若者の意欲や熱気に包まれているせいか、ルピアは夜も眠らないと言われており、シュキラの丘のてっぺんからはルピアの煌々とした街の光が見えるくらいである。


 隣街がそのようであるにも関わらず、シュキラが一向に一昔の町並みを留めているのには、シュキラとルピアの間にある大きな湖があることが一番の理由であると人々は口をそろえて言う。


 その湖の名は「セレ・ドヴァイエ・ミカラスカ」。


 古い言葉で「夜を閉じ込めている水たまり」という意味である。大きいだけでなく水深が深いため、水底まで太陽の光が届かないことからその名が付けられた。


 そしてシュキラの人々は、船を使い「セレ・ドヴァイア・ミカラスカ」を渡らなければ隣街のルピアには行けない。逆もしかりである。


 今は湖の周りの道が舗装ほそうされ、自動車という便利な道具が生み出されたので多少は行き来が楽になったが、それはお金持ちの話だ。一般市民は変わらず、一時間ほどかけて船で湖を渡っている。


 しかし近頃は若者がルピアに行く頻度は確実に多くなっていた。通行料金は依然いぜんとして高いものの、ルピアにはシュキラにないものがあるらしい。


 それゆえにシュキラに住む少年少女たちは口を揃えて、地元を「古びた町」と言っていたが、ナミ・クララシカも同じように思っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る