6小節目
入学式を目前にして新体制がだんだんと板についてきたある放課後。
「あ、遠野」
黒岩が小走りで近づいてきた。
「なずなどこにいるか知ってる?」
「あー、そういえばまだ見てないな」
「そっか……早く今日の練習メニュー決めたいんだけどな……鞄はあったからもう来てはいると思うんだけど見つからなくて。お願いなんだけど、なずな見かけたら多目的室に来てって伝えてくれる?」
「分かった」
「ありがとう」
「あいつも大変だな、毎日毎日……」
メニュー組んだり、前に出て俺たちの合奏をみたり、他パートの様子見たり……他のどの重役よりも働いてるんじゃないか? しかも自分の時間が削られてほとんど練習なんてできていないはず。なのにあいつは普通に吹けてるし、何ならたっぷり練習している奴らよりも吹けているし、その上を超えてくる時もある。特にソロに関しては。そう思いながら階段を上がっていくと、聞き慣れたホルンの音が耳に入った。
「白――」
視界に入った白崎の練習する姿を見て、俺は固まった。約二年一緒にやってきて、白崎の個人練を今初めてちゃんと見た。何とも言えないオーラを放っていて、集中力が俺たちとは桁違いだった。何が天才だ。何が才能だ。何がセンスだ。天才は元々できるから練習はしない? 違うだろ。白崎はできてもその上を目指すから上手い。それが俺とあいつの差だった。
前から薄々気付いていた。あいつは、紛れもなく努力の魔物だ。
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