Monster or God, or perhaps an angel?

KeeA

1小節目

 千葉県立向坂さきさか高等学校。割と自由な校風、優秀な成績を修める部活動多数、偏差値は中の上。そんな高校の吹奏楽部に俺はホルン吹きとして所属している。それはもちろん、吹奏楽が、ホルンが好きだからだ。だが、俺がこの高校の吹部に入部したのには別の理由がある。それは、コンクールの成績だ。


 少し吹奏楽コンクールについて話すと、大会は高いランク順に全国、東関東、県本選、地区予選となっている。向坂吹部の近年の成績は県大会で金賞を取ることが多い。ここで勘違いしがちなのは、「金賞」と聞いただけで「最優秀」と思ってしまうことだ。吹奏楽の世界では違う。賞は全部で三つ――厳密に言うと四つだが――上から金賞、銀賞、銅賞、努力賞がある。努力賞は制限時間内に演奏を終えられなかった団体に贈られる。つまり、論外。上の大会へ進むことができるのは金賞を取った団体で、十前後あるうちの片手で数えられるほどの団体しか選ばれない。そしてそれは上の大会へ行くほど数が減っていく。向坂吹部の話に戻すと、県大会で金賞を取っているという話だが、県代表として東関東大会への出場は果たせていない。つまり、俺たちは金賞の中でも落ちぶれた金賞であり、それを「ダメ金」と呼んでいる。県大会と東関東大会の間には大きな壁があり、特に千葉県は関東の中でもレベルが高いことで有名なので、普通は県大会で金賞をとれば「そこそこ強い」学校として認識される。そこが俺の狙いだった。


 中学時代、俺は部長として――「一番上手い奴」として――部の頂点に君臨していた。もちろん、楽器の上手さがリーダーになるのが相応しいことに直結するわけではないのだが、そこから言えることは、俺はリーダーシップがあり、なおかつ「上手い奴」だったということ。リーダーになる奴は大体何かしらに秀でている奴だというのが俺の持論だ。でないと、誰もそいつの言うことは聞かないだろう。そんな訳で、そこそこうまい高校に入りさえすれば低レベルな奴らにいらいらすることもないし、何より俺はその部の中で「上手い奴」として認識される。ステータスがあるということは力を持つという事。そこそこ頭のいい奴が自分のレベルよりも低めの学校に入って学年トップをキープするのと同じ感覚だ。


 吹奏楽がすごく好きで全国大会への出場を夢見ているのなら、強豪校へ進学するのが正解だろう。だが、俺は違う。コンクールの結果は正直どうでもいい。高校でも「一番上手い奴」として見られたかった俺は迷わず吹部が中学の時と同じくらいのレベルの、頭もそこそこ良い向坂高校を選んだ。

 

 だが、俺の計画と揺るぎない自信は時間の経過と共に儚く散っていくのだった。

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