修復の8月31日
8月31日、僕は朝から一人で出掛けていた。その行き先はオオバさんがいる廃墟ではなく、若宮さんの家だ。
「……若宮さん、いればいいけどなぁ」
そんな事を独り言ちていたが、正直若宮さんに会うのは怖かった。オオバさんとの関係の保留や進展ではなく、若宮さんへの“謝罪”を選択したのは良いけれど、僕が若宮さんにしてしまった事は謝って許してもらえる事ではないし、謝罪すらさせてもらえないかもと思っていたため、緊張と不安でいっぱいになっていた。
そしてそれは若宮さんの家に着いても変わらなかったが、怖がっていてもしょうがない事もわかっていたため、深呼吸をして気持ちを落ち着けてからチャイムを鳴らすと、洗い物でもしていたのかエプロンを着けた若宮さんのお母さんが出てきた。
「はい……って、貴方は愛奈のクラスメートの夏野君よね?」
「はい、おはようございます。あの、若宮さ……愛奈さんはご在宅ですか?」
「ううん、あの子はちょっと前に出掛けちゃったわ。でも、夏野君が来てくれたって聞いたら、あの子は悔しがるかしらね?」
「え?」
「あら、愛奈はいつも夏野君の事を楽しそうに話してたし、夏野君の事を好きみたいだったから、てっきり愛奈と夏野君はもう付き合ってるものだと思ってたけど違った?」
「い、いえ……」
否定しながらも僕は驚いていた。若宮さんはクラスメートや水泳部だけじゃなく、他の学年にも好意を持ってる男子がいるという噂を聞いていたため、そんな若宮さんが僕の事を好きだという話はとても信じられなかったのだ。
だけど、それが本当だとしたら僕は若宮さんに対して本当に酷い事をしてしまった事になる。若宮さんは心から僕の事を想ってオオバさんとの関係を止めるように言ってくれていたのに、僕はそんな若宮さんの気持ちを踏みにじった挙げ句、若宮さんの体を弄んだのだから。
それがわかって辛くなり、やっぱり謝る権利なんてないのだと思っていたその時、若宮さんのお母さんは何かを思い出したように両手を打ち鳴らした。
「あ、そうだ……あの子から手紙を預かってたんだったわ」
「手紙……ですか?」
「ええ、もしも夏野君が来てくれたら渡してほしいって。はい、それがこれよ」
「あ、ありがとうございます……」
エプロンのポケットから出てきた手紙を受け取り、静かに開いて中を読んだ瞬間、僕はこのままじゃいけない事や少し前から気になっていた疑問の答えがわかり、声を震わせながら若宮さんのお母さんに話しかけた。
「……愛奈さんのお母さん。ちょっとお父さんも連れて今から一緒に来てもらっても良いですか?」
「一緒にってどこに?」
「……愛奈さんのところです。後、念のために警察も。早くしないと愛奈さんが大変な事になるかもしれませんから」
「……なんだかよくわからないけど、その手紙に何か書いてたのね。わかったわ、ちょっと待っててね」
そう言って若宮さんのお母さんはお父さんに話をするために家の中へ戻り、数分後にお父さんも連れて出てくると、僕達は急いである場所へ向かった。
向かったのは手紙に書いていた一軒の建物だが、そこは僕や若宮さんが行くにはまだ早い大人のためのホテルで、手紙にはそのホテルの名前と場所、そして僕に対して助けを求める言葉が書いてあり、お母さんが事前に呼んでおいてくれた警察と入り口で合流した後、手紙に書いてあった番号の部屋へと駆け込んだ。
そして室内の光景を目にした瞬間、僕は失望し、若宮さんのお母さんはショックから座り込み、若宮さんのお父さんは怒りで声を震わせた。
「き、貴様! ウチの娘に何をしているんだ!」
そこにいたのは、一糸纏わぬ姿でボーッとしながら仰向けの状態で足を掴まれながら股を大きく開いている若宮さんと若宮さんの足を掴んで腰を若宮さんの股に近づけながら驚きと恐怖で顔を青くする同じく一糸纏わぬ姿の父さんであり、その体の密着具合を見るにあと少し遅かったら若宮さんと父さんはまぐわっているところだったようだ。
そして怒りで我を忘れた若宮さんのお父さんは父さんに対して殴り掛かり、警察もそれを止める側とショックで泣き崩れるお母さんをどうにかする側、顔を軽く赤らめながらボーッとしている若宮さんを保護する側に分かれ、僕はすぐに若宮さんへと駆け寄った。
「若宮さん!」
「なつの、くん……?」
「そうだよ、夏野青志だよ!」
「……そっか、来てくれた、んだね……」
「若宮さん、本当にごめん。君は本当に心配してくれてたのに、僕は、僕は……!」
「……ううん、良いの。こうして来てくれただけでも、私はうれし、いから……」
まだボーッとしていながらも若宮さんは嬉しそうに微笑んでおり、お母さんの泣き声とお父さんの怒号、父さんの情けない声が室内に響き、それを聞き付けた人達が部屋の中を覗き込むという状況の中で僕は少しだけ若宮さんとの関係を修復出来た事に嬉しさと安心感を感じていた。
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